インセプション
現実と非現実の間 知的な刺激
夢を構築して潜在意識に入り込み、"考え"を盗む仕事の請負人が、最後の仕事に挑む様子を鮮烈の映像で描くSFサスペンス劇。
人気コミックヒーロー、バットマンを夜の闇の中で陰気に輝かせた「ダークナイト」のクリストファー・ノーランの脚本・監督。彼の映画ならではの現実と非現実のほの暗く冷たいはざまを漂うような感覚に包まれて知的な刺激がある。
潜在意識からの情報の盗み出しに失敗したコブ(レオナルド・ディカプリオ)に、巨大な権力を持つサイトー(渡辺謙)が手を差し伸べ、新たな仕事を与えた。これが成功すればコブは妻殺しで名が載る犯罪者リストから外され、子供たちの許(もと)へ戻れる。
仕事は、サイトーのライバル企業を潰(つぶ)すこと。そのためには相手企業の社長の後継者に会社を潰したいと思う考えを植えつける。インセプションとはその植えつけを指す。だがいざ実行に移し始めると、正体不明の敵が立ちはだかって、その中に死んだはずのコブの妻(マリオン・コティヤール)がいた。
いまなお未知の分野の脳内部の無限の広がりの中で繰り広げられるスリリングなゲーム。コブたちには仕事中に夢と現実の区別がつかなくなる恐怖がある。
いかにも夢の中らしい無重力状態でのアクション。地面が立ち上がってくるシーンにはメガネなしで見られる3D映像のような圧倒的パワーがある。そのアイデアと大胆な視覚効果にはわくわくさせられるが、妻との過去に悩むディカプリオから「シャッターアイランド」を思い出し、既視感から逃れることはできない。犯罪のチーム行動から思い出すのは「ミッション・インポッシブル」? 娯楽映画的魅力より好奇心を誘う斬新さが勝っている。2時間28分。
★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2010年7月16日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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