ぼくのエリ 200歳の少女
吸血鬼との初恋 冷えた映像で
北欧の凍(い)てついた空気の中で語られる「初恋物語」吸血鬼編。あふれる詩情に彩られた恐怖は哀(かな)しいまでに美しく、近年、注目されるニューヨークのトライベッカ映画祭をはじめ、世界の映画祭で受賞を重ねてきただけのことはある。現在増えつつある吸血鬼映画の中でも出色の作品だ。
金髪の美少年オスカー(カーレ・ヘーデブラント)はいじめられっ子の12歳。ナイフを隠し持ち、殺人事件の記事を集めている。
隣の部屋に中年男と引っ越してきたロマ民族を思わせる黒髪の美少女エリ(リーナ・レアンデション)は青白い顔で寒さを知らない。「幾つ?」と尋ねるオスカーに「12歳くらい」と答えるのも不思議。
彼らの引っ越しと頃(ころ)を同じくして、町では残虐な殺人事件が発生する。死体は血が抜き取られていた。
白夜の国スウェーデンのベストセラー小説を原作に、この国のテレビ・映画・舞台で活躍中だという演出家トーマス・アルフレッドソンが映画化。実は200年を超えて生きる吸血少女と、孤独な少年の魂が寄り添うようにして芽生える初恋物語は、北欧映画に特有の透明感のある冷えた映像が想像力を挑発する。
少女が永遠の命を保つために奉仕する中年男はオスカーの未来の姿なのか?
エリに魅せられ、吸血鬼の欲求も知らず友情の血の契りを求めるオスカーに迫る危機。が、エリは姿を消した、「ここを去って生き延びるか、留まって死を迎えるか」と書き置いて。
血を吸わない友情と初恋を語りながら、その合間に鮮烈に描写される吸血鬼映画の約束事の数々。非情なイジメを教師も母親も知らず、一人エリだけが気づいて助けの手を差し伸べるエピソードは、にやりとさせられる結末と共に複雑な余韻を残してくれる。1時間55分。
★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2010年7月9日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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