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奥正之・三井住友フィナンシャルグループ会長

奥正之・三井住友フィナンシャルグループ会長

奥正之会長の会社人生を変えた一冊の本がある。京都大学法学部3年のときに外書講読ゼミで読み込んだ英書『コマーシャル・ぺーパー(CP)』だ。

米国留学の端緒に

専攻は民法だったが、幅を広げたい気持ちもあって、外書講読はあえて商法関連を選んだ。『CP』は実務書だが、読んでいた影響で、住友銀行での入行4年目の際に、「国際的な法務に通じた銀行員が必要になる」と人事調書に書き込んだ。それが端緒となって米国のロースクール(法務大学院)へ留学を命じられた。

帰国後4カ月もたたないうちに当時では最大の経済事件と言われた、総合商社、安宅産業の信用問題が発生した。住友銀はメーンバンクで、海外の契約法に詳しい人間として、直ちに米国に飛んだ。あらゆる契約書をチェックするなど実務にどっぷりかかわった。

帰国の機中で書いた報告書に基づいて、安宅のカナダ法人を破産処理する方針が決まった。当時、カナダには会社更生の法律がなく、破産しか手がなかったからだ。方針が決まったあと、あまりに重大な決定であったので、少し心配になって、モントリオールとニューヨークの法律事務所に確認の問い合わせをしたという。

『コマーシャル・ペーパー』(左)と『銀行法』

『コマーシャル・ペーパー』(左)と『銀行法』

安宅産業の問題は大変な仕事となったが、奥さんの存在が行内で知れ渡った。同時に、後の頭取、西川善文氏をはじめ多くの優秀な先輩と出会う機会になった。振り返れば、銀行員人生の転機だった。

CP』を読み込んだ外書講読ゼミは集まった仲間と本当に馬が合い、談論風発、楽しい会合だった。ゼミの後、川又助教授(当時)と共にしばしば飲み屋に繰り出して、議論を続けた。ゼミ単位取得後の4年時にも皆で先生に頼んで自主ゼミを続けたほど。当時の仲間には、同じく銀行界に進んだみずほコーポレート銀行元副頭取で亡くなった大内俊昭氏もいた。英書『CP』自体は無味乾燥な実務本だったが、ゼミでの交流は、奥さんの青春の一コマだ。

米国留学はカルチャーショックだった。ハーバード大学のサンデル教授の白熱教室が評判になったが、ああいうインタラクティブ(双方向)な対話型の授業は、奥さんが留学した当時もすでに主流だった。京大法学部では、教授からの講義を一方的に聞くのが一般的だったから、とても新鮮だった。管理職になってから、部下の才能を引き出そうという気持ちで接するようになったのはこのときの経験も影響しているという。

留学の最後には指導教授が編者となった英書『銀行法』という本の一部を執筆させられたほど、勉強には打ち込んだと言う。執筆は大変だったが、筆者の一人として「Masayuki Oku」の名前が印刷されている分厚い本は宝物だ。大切に取ってある。

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