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教育の荒廃と家族の幻想 米国社会に迫る「デタッチメント」

東京国際映画祭リポート(3)

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NIKKEI STYLE

教育現場を描いた作品も近年の国際映画祭に多い。地域社会のほころびが端的に表れるのが学校なのだ。コンペ部門のトニー・ケイ監督「デタッチメント」(米国)の舞台は学級崩壊が進むアメリカのパブリックスクール。子どもたちと教師たちとの断絶、教師たちと親たちとの断絶、そしてそんなすさんだ環境の中でなんとか生きるよすがを得ようとする子どもたちと教師たちの渇望を描いている。

学校の荒れ方はひどい。生徒は教師を無視して暴れ放題。登校できなくなった教師もいる。学力は低下の一途で、校長は解任寸前。ルールを守らない生徒を処分しようとすれば、普段は子どもに無関心なモンスターペアレントが怒鳴り込んでくる。そんな状況が、臨時教師ヘンリー・バルト(エイドリアン・ブロディ)の目を通して描かれていく。

荒廃した学校を渡り歩いてきた臨時教師は、毅然(きぜん)とした態度とストレートな物言いで問題児たちの心をつかんでいく。いつも容姿をからかわれている内向的な女子生徒の才能を伸ばしてやり、生徒を掌握できない女性教師の悩みも聞いてやる。さらには街で売春をしていた少女を家に引き取り、その閉ざされた心を少しずつほぐし、まっとうな生活へと導いていく。

ところが、そうした努力の積み重ねも、ちょっとしたことで崩れてしまう。子どもの心とはかようにデリケートなのだ。それは大人にしても同じこと。ヘンリーが介護している認知症の祖父、そして脳裏をよぎる自殺した母の残像。それはヘンリー自身をさいなんでいる家族を巡る忌まわしい記憶なのである。

少女とヘンリーの疑似家族的な生活は、少女の再生を目指すものだが、ヘンリー自身もまた再生されていく。そんな再生への祈りのようなものが伝わってきた。ハリウッドのスターが出演しながら、アメリカの社会問題に正面から向き合った作品で、迫力があった。

 「疑似家族」というモチーフは、沖田修一監督「キツツキと雨」(日本)にも見られた。

主人公は60歳になる木こり(役所広司)。小さな山村で地道に仕事をしているが、息子とは断絶状態になっている。そこにホラー映画の撮影隊がやってきて、ひょんなことから木こりはそれを手伝うことになる。撮影隊の中に、影の薄い気弱な若者(小栗旬)がいる。木こりはこの「使えない若者」を叱咤(しった)するのだが、その若者こそが監督だった。若者は現場を仕切ることができず、パニックに陥っていたのだ。木こりは監督を陰で支えながら、ますます映画にのめりこみ、村人たちを映画作りに巻き込んでいく……。

親子ほどに違う世代、しかも木こりとホラー映画監督。そんな2人の心の交流を沖田監督は丁寧に描いていく。頼りなかった青年は、木こりの助けを得て、次第に積極的になっていく。青年の奮起を目の当たりにして、木こりもまた息子への見方を改める。そして自分もよりポジティブに生きようとする。

役所広司がいい。いかにも武骨でぶっきらぼうだが、心の底に熱いものをもっていて、しかも青年のように柔らかい。そんな初老の男をここまで繊細に演じられる俳優はそういまい。

一方の小栗もよく演じているが、この若い映画監督という役の設定自体が弱い。なぜ、これほど頼りない青年が監督をやっているかは一切説明されず、そういうものとして提示されるだけだけだ。日本のオタク的な若者気質をデフォルメした形でこの映画監督に投影しているのだろうが、果たして一般の人、海外の人には理解できるだろうか?

ともあれ、役所と小栗の「疑似親子」による心の回復の物語は、「デタッチメント」とはまた違った、いかにも日本的な奥ゆかしい情緒に根差していて、面白い。

エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ監督「最強のふたり」(フランス)に登場する貴族階級の資産家と黒人の介護ヘルパーの関係も、ある意味で「疑似家族」である。

フィリップは気難しいインテリの資産家。事故で半身不随となり車いす生活なのだが、どの介護ヘルパーも一週間と続かずやめていく。新たなヘルパー採用の面接に現れたのはいかにも場違いな前科者の黒人ドリス。失業保険のための不採用証書をもらうためだけにスエット姿でやって来た。面接では下品な言葉を連発したのに、その率直さが買われて採用に。荘重なクラシックが流れる屋敷で、アース・ウインド・アンド・ファイアーをガンガンかけて陽気に踊るこの男。まったく違う世界に生きてきたフィリップにとっては最高のパートナーとなる。

人種の違い、階級の違い、文化の違い、年齢の違い、そんなものを豪快に笑い飛ばす。そんなフランス流の人情喜劇である。そこには現代フランスの社会問題とエスプリが息づいているのだろう。そして2人を結びつけるものが「孤独」であることも確かだ。

24日夕にはカトリーヌ・カドゥー監督「黒澤 その道」が特別上映された。もともとフランスのテレビのために制作され、カンヌ国際映画祭のクラシック部門でも上映されたが、今後はいつ見られるかわからないということで、会場はほぼ満席。客席には小泉堯史監督ら黒澤組の面々も駆けつけ、映画の中で黒澤を語ったアッバス・キアロスタミ監督や塚本晋也監督の顔もあった。長年、黒澤のフランス語通訳を務めたカドゥー監督は上映後、観客の質問に答え「黒澤先生の映画を作るなんて恐れ多いと思っていたが、自分にしかできないこともあるという思いが映画作りを支えた」と話した。

(編集委員 古賀重樹)

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