CO2相殺 ちょっと社会貢献 排出枠を買って削減事業に「参画」
乗り物での移動や家庭の給湯――。日常生活で二酸化炭素(CO2)の排出は避けられないが、環境意識も高まるなかで、「排出削減にもう少し貢献できれば」と感じる瞬間もあるだろう。パソコンや携帯電話を通じ、1円からの出費で温暖化ガスの排出を「相殺」できるサービスを試してみてはどうだろう。
移動時の排出量算出
政府系の地球環境研究機関に勤務する中村秀規さん(38)。長距離を航空機で移動すると決まって、温暖化ガス排出枠の創出や売買を手掛けるPEARカーボンオフセット・イニシアティブ(東京・中央)のウェブサイトをのぞく。
搭乗の日付、移動都市、片道か往復か、距離(マイル)……。一通りの項目を書き込みクリックすると、CO2の排出量や、その排出量を相殺するために必要な金額がはじき出される。中村さんはサイトのサービスが始まった2008年から年5回程度の頻度で活用し、年3万円ほどの貢献を続けている。
一般的な人のCO2の排出量は年1~2トン程度とされ、価格にして4000円台の規模。一方、航空機で日本と欧米を往復するだけで一気に数トンレベルのCO2を排出する。中村さんは「同様のサイトの利用がもっと広がるといい」と呼びかけている。
このようにして温暖化ガスの削減に貢献する手法を「カーボンオフセット」と呼ぶ。CO2などの排出量を、国内外で取引されている排出枠の購入や環境プロジェクトへの資金拠出などで相殺するもので、企業や家計が事実上、温暖化ガスの削減事業などに参画する格好となる。
PEARカーボンオフセットのサービスを使うと、インド南東部の農村地帯で実施している発電プロジェクトに協力することになる。同プロジェクトでは、成長過程でCO2を吸収する稲わらやサトウキビの搾りかすを燃料とする発電プラントを設置。石油製品を燃料とする発電に比べて大幅にCO2の排出を削減できるという。
同社の松尾直樹社長は「カーボンオフセットは世界でCO2を削減するための一種の分業体制。お金を払ってレストランで食事をしたり誰かが作った商品を買ったりして満足を得るのと似た行為」と話す。
ポータル(玄関)サイト最大手のヤフーが08年に開設した「ヤフー!カーボンオフセット」では、10年12月、従来の海外プロジェクトに国内のプロジェクトも追加。北海道や千葉など身近な案件でユーザーの親近感を高める試みも始めた。
ポイントで決済可能
ヤフーは排出枠の仕入れ・販売代行業者であるリサイクルワン(東京・渋谷)などと協力。ヤフーが小口販売を仲介する。
事前に登録したクレジットカードで決済するサービス「ヤフー!ウォレット」か、ネット通販の商品購買などでたまる「ヤフー!ポイント」を使って排出枠を購入できる。1ポイント(1円に相当)から利用可能で「ネットショッピングのついでの募金のような使われ方も期待している」(ヤフー)。
「CO2削減が遅れている民生部門の改善の一助になれば」。メディア開発部の宮内俊樹・企画5リーダーは、スマートフォン(高機能携帯電話)など新型端末でのサービスにも利用者拡大の期待をかける。
排出枠取引の知名度の高まりとともに、旅行パッケージや贈答品などに一定額を上乗せした「カーボンオフセット商品」は広がりを見せている。その一方で、オフセットのためだけにサイトを訪問して資金を拠出する消費者はまだ少ない。社団法人日本カーボンオフセット(東京・港)では、簡単な会員登録をすればCO2排出量を計算・保存できるサービスを展開。消費者の意識の高まりを促すが、「約3000人の登録者のうちオフセットにまで進むのは1割強」(同社)という。
ヤフー利用者だと、有効期限ぎりぎりのポイントの使い道に困ることもあるはず。一度カーボンオフセットを活用し、環境プロジェクトの一員になってみてはどうだろうか。(産業部 渡辺禎央)
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