秩父発ウイスキー、世界のイチローへ 味の個性を追求
ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎社長
ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎社長
わずか十数年で世界的な評価を得て、入手困難となったウイスキー「イチローズモルト」。従業員約20人のベンチャーウイスキー(埼玉県秩父市)を率いるのは、経営難の実家の蔵元を引き継いだ肥土伊知郎社長だ。大手の寡占化が進むウイスキー業界で、肥土社長は「個性を追求すれば、受け入れられる」と胸を張る。
営業2000軒 バーで学ぶ
――廃棄目的だった実家のウイスキーの原酒販売から始まったとか。
「サントリーに入社し、しばらくして実家に呼び戻されたのですが、経営危機で身売りすることになりました。事業の引き取り先で熟成中の原酒を廃棄することになり、『父から引き継いだものを世に出したい』との思いから、支援先を探し出して全量を引き取りました。そこからウイスキーをつくり始めたのです」
「今でこそ日本のウイスキーは世界的に大人気ですが、当時は右肩下がり。酒屋さんに『売って』とお願いしても店先でほこりをかぶるだけでした。そこで品質を評価してくれるバーテンダーがいるバーを回りました。印象的だったのが、若い人や女性が飲み比べを楽しんでいる姿です。ウイスキーは『おじさんの飲み物』と言われていましたが、良いものを作れば評価されます。会社の大きさは関係ないと思いました」
「回ったバーの数は、会社の立ち上げ前後の約2年間で、のべ2000軒。地域は関東や出張先の大阪や名古屋などですね。昼に仕事して、夜はバーを回りました。1日3~5軒、原則3軒ですが、体調がいいときは5軒。さすがに5軒目になると、酔っ払ってますが(笑)」
ラベルも工夫 口コミ広がる
――バー巡りは商品開発でも役立ちましたか。
「売れ筋や熟成する樽(たる)の種類などをバーテンダーに教えてもらって勉強しました。テイスティングの回数が増えるほど、自分の中で味のマトリックスができ、『これはこの系統』だと分かるようになりました。最終的にはつくった人の顔までイメージできるようになりましたね」