船橋にソースラーメンあり 成田にはジンギスカンあり
ソースをもう一ふり(2)
ソースラーメンを大々的に宣伝していたチェーン店のことをどこで知ったんだろうと考えていたら、答えがわかった。
ネタもとは何と自分の本であった。拙著『食品サンプル観察学序説』の「こうなっちゃたのメニューの迷宮」という章で1ページを使って「ラーメンとん太」チェーンに属する某フランチャイズ店の全景写真を掲載していたのであった。すっかり忘れておった。「みそ 塩 しょうゆ 今度は そーすラーメン」という宣伝幕の写真の下に「液状焼きそば?」という悪くないキャプションをつけた。自分で自分のキャプションを臆面もなく「悪くない」と書いた理由については、後にご説明いたしたい。
ネットで調べてみたが、どうもこのチェーンからは「ソースラーメン」の姿が消えてしまった気配である。うまくなかったの?
先週末、我が家のブランチで久々にベーコンエッグが出た。一つのフライパンでベーコンエッグを二つ同時に作り1枚のさらに盛りつけて娘と分け合って食べた。だが、娘は生粋の中濃ソース人である。というより我が家では私だけがウスターソース人というマイノリティーなのである。
娘がブルドックの中濃をかける。私は残り半分に長崎の味「金蝶ソース」をかける。金蝶ソースはサラサラとしていて、娘の支配下にある中濃地帯に遠慮会釈なく侵入する。私が切ったので刻みキャベツとは言いながらちぎりキャベツのとの区別が難しいキャベツの下にもひそかに潜入する。見よ! このウスターソースの力を!!
娘はそんなことにはおかまいなしに、部分的にウスター化された中濃ソースにまみれたベーコンエッグを食べ尽くしたのであるが、これで彼女の中濃化された舌に多少なりともウスターの記憶をしみ込ませることに成功したのである。
ここまで書いてばかばかしくなった。私はほかに書くことがないのであろうか。
このシチュエーションで「見よ! ウスターソースの力を!!」という方向ではなく、「一つの皿に中濃とウスターという二つの文化が共存している場面を深く心に刻み、多文化の共生というような難しい問題に直面したときに思い出してほしい。少なくとも娘が将来、関西出身の男性と結婚してもソースの好みが原因でどうこうなるようなことはないであろう」みたいなことだって書いてよかったかもしれない。
デスク断言 似合わない!
やっぱ、ばかばかしいや。本題に入ろう。と思って、皆さんからのメールが入ったはずのフロッピーを開いたら中は空っぽ。エミー隊員、入ってないよ。
というので今し方、エミー隊員のところに行ってきた。
「このフロッピーさあ、空っぽなんだけど、どうして?」
「さあ、考えられるのは私が手順そのものを素っ飛ばしたってことです」
すごくわかりやすい説明であった。わかりやす過ぎて、よくわからないくらいである。
千葉県内ではソースラーメンなるメニューを知っている方は多そうです。私見ですが、これらの原点といえそうなお店は船橋本町にある「花蝶」という食堂ではないかと思っております。こちらの料理人のお話しでは、戦後に引き揚げてきた後にこのメニューを始めたそうです。ただし、この花蝶では焼きそばという名前でこれを提供しております(ひげおじん@習志野さん)
花蝶の場合、ラーメンなのに焼きそばと呼ぶんですかか? スープあり?
デスク関心 なんかむちゃくちゃジモティーなんですけど。私は毎日「まる」の前を通ってプールに通います。中央に「本陣」がありいちばんはずれに「花街」のあるいかにも宿場町な構造の本町通りも、電車がカーブで傾いたまま止まる大神宮下の駅もよく存じております。でもソースラーメンは初耳です。
亡命名古屋人さんからも「かにや」のソースラーメンに関する情報がきている。午後9時開店とか。
その亡命名古屋人さんから三林京子隊長に北千住および成田探検の提案。
「北千住」は「永見」「天七」から「大はし」。「成田・三里塚」はゲリラ活動をするのではなく、面妖なジンギスカン屋と成田空港外人職員御用達英国風パブをはしごするというものなのですが。
はい、取り次ぎましたよ。でも北千住の店はどんな店か全然知りません。詳しく教えてください。
デスク賛同 千住~立石~西船~大神宮下~成田――。京成電車ルートじゃないですか。地元です。京成って独特の雰囲気がありますよね。廃止になってしまいましたが、「博物館動物園」という駅なんかは都心にあるのに探検したら遭難してしまいそうなところでした(その後廃止)。まだまだいろいろ出てきそうです。
先ほど、ラーメンなのに焼きそばというメニューが登場した。私にとって次のメールは驚愕以外のなにものでもなかった。みんな一緒にぶっ飛ぼう。
私にはなかなかおいしかったのですが、ほかの人は少ししょっぱいと感じるかもしれません。食後に無性に水分がほしくなるのです。でも、塩分摂取量日本一の青森県民にはこれが普通なのかもしれません(わたしはいまや青森県民さん)
自分の本のキャプションを「悪くない」と書いたのはこれがあったからである。文字通り「液状焼きそば」である。「液状」を「つゆ」と表現しているのである。こんなのがあったのである。いずれ実食してみたい。どこの何という店か教えていただければ幸甚。
家庭における様々なソースの利用法。
でもうちではソースといったらとんかつソースのことですから~!
残念!!
実は高校を出てから東京に25年いて、今また戻ってきた岩手在住人です。ウスターも中濃も東京に行ってから知りました。そうそう焼きうどんもそうです。今では外食すればいろいろなソースに出合います。しかし家庭で使われるのはとんかつソースが多いのではないでしょうか(岩手生まれの小沢さん)
栄養バランスが悪そうなので今はあまりやりませんが、子供のころはよく食べてました。しかし育ち盛りの子供にこんなものを食べさせていたうちの親って……(ちどりのおっとさん)
場所によって家庭によって、本当にソースの違いははっきりしている。皆さんのメールを拝見していると本当にそう思う。私が知っている唯一の「日本ソース地図」では広島と香川、徳島は「お好みソース圏」となっており、おたふくソースの勢力範囲と思われる。そして関東から北海道まで中濃一色のはずなのだが、小沢さんのメールによると岩手ではとんかつソースが健闘している可能性がある。さあ、我々的日本地図はいかなる結果になるのであろうか。
チャンポンという文字が出てくるとつい……。
ちなみに私は祖父の代から東京。妻はネイティブおてもやんで結婚とほぼ同時に東京に出てきました。一緒になって3年くらいになりますが、食文化についてはいまだに新鮮な驚きが(お互いに)あります。「食文化は深い!」と感じる毎日です(祐天寺さん)
チャンポンにはソース、皿うどんにもソースです。これは法律で決まっているのです。中濃でもとんかつソースでも濃いくちでもいけません。ウスターソースと法律で決まっています。罰則はありませんが。
デスクほっ 良かった、罰則なくて。お昼に大量の酢をかけて皿うどんを食したところです。
「おてもやん」は熊本の民謡にでてくる女性。つまり「妻」は熊本出身ということですね。現在も「だけん(だから)」というような北九州の人に通じないかもしれない地元の言葉を使っておられるのは大変いいことだと思います。
ニューヨークのソース。
自宅で試したけど、他のとんかつソースとかだと重い感じがだめでした。サラリとした感じがナイスなウスターシャーソースですね。でも日本製のウスターソースっていうのもまた味が違って、春巻きにはイマイチでした。いま? 今は春巻きは酢醤油で食べとります(東京のあさちゃん)
姫路ではシュウマイにソースが定番ですが、ニューヨークでは春巻きにソースのようです。以前、三林隊長とホテルのコーヒーショップで「カレーに生卵を落としソースをぶっかけて食べる」というプロジェクトに取り組んだとき、出てきたのがリー&ぺリンのウスターシャーソースでした。生卵は出してくれなかったのですが、このソースはいけました。
ローカルソースのオンパレード。この方、本当によくご存じ。
怒髪天娘さんのメールはこの後、別の話になります。全文を紹介すると誰のサイトかわからなくなりそうなので要約します。香港に住んでいたころトーストにソースを塗ってチーズをのせて焼いたものを食べていた。帰国して同じものを作ろうと思ってもできない。なぜか。その謎は後に「正しくグレて成長し、いっぱしのパンクスになって、ロンドンに渡ってやっと解消されました」。日本のウスターソースとUKのウースターソースは「似て非なるもの」「日本のソースは明治年間に醤油メーカーによって作られたことによるのか、ほとんどの場合、醤油が添加されていますが、UKのウースターソースには当然醤油は入っていない。その代わりアンチョビが入って風味付けをし、コクを出しているんです。で、UKでウースターソースといえば、日本でも一部高級食材店のグロッサリー売り場で見かけるリーペリン社製のものが有名です」
ようやく要約が終わりました。
デスクあぜん やまだくん、野瀬さんの座布団全部もってって。
日本の醤油メーカーはウスターソースを独自に作ろうとして醤油をベースに開発を進めました。その結果できたのが「洋式醤油」。日本のソース自体が地球規模でみると「方言」なのかもしれません。もっともウスターシャーのソースは長崎の出島からヨーロッパに渡った日本の醤油を真似てできたものという説もありますから一筋縄ではいきません。
データを見よう。
1年間に1個以上ソースを買う世帯が多いのはやはり京阪神、中国で全国平均100に対し、それぞれ106、105でした。少ないのは北海道の91。
購入個数は全国平均100に対し京阪神130、中国116、四国102とこちらもダントツです。九州は97、北海道は76、東北は82でした。
興味深いのは月別の購入量の指数です。年間平均を100とすると3月が116と飛びぬけています。ここ3年ばかり見てみましたが3月が高い傾向が続いています。前後の2月・4月も購入量が多いようです。
京阪神・中国×3月×ソースを結びつけるものがあるのでしょうか??(ミルフォードさん)
第一感では京阪神・中国の「コナモン」との関係が浮かびます。お好み焼き、たこ焼き、イカ焼き、キャベツ焼き、一銭洋食あたりですね。
3月が購入のピークになる点については、わかりません。うーん、わからん。誰かおわかりになりますか?
地域的な粗密を考えるうえでは、こんなご意見が参考になる。
それより、新潟はめんつゆ文化みたいですよ。前に某ミツカン支店長とお話ししてて、「新潟のご家庭には、どぉーんとめんつゆが1・8リットルボトルであるんですよねぇ。こんなに、めんつゆを愛してる地方はあまりありません」て言われました。きっと、ほめ言葉じゃないですよね。
ま、確かに味が足りないと思うとめんつゆたらしちゃうもの。私などチャーハンの隠し味に一たらしとかね。その家その家でごひいきのめんつゆがありますので、なかなかメーカーさんには嬉しいような厳しいような新潟なのでしょう(新潟市 矢作ちかぶーさん)
そうです。この視点です。ソースをあまり使わないのは使う食べ物が少ないから。そして「めんつゆ」のようにソースに代わるものがあるから。明快です。ほかの地方には「ソース代替物」はありませんか?
本題からは外れるが、今週は「カレー」関連メールがいくつかきたので紹介する。
その実態はと言うと、カレールーをおでんの汁でのばしたスープに練り物をはじめ、各種おでん種が入っています。薬味は辛子のほかに「うめみそ」というものが用意されています。で、「うめみそ」を付けて食べてみると辛いようなしょっぱいような酸っぱいような不思議な味です。まあ、まずくはないですが、「週に1回はコレ食わんとケイレンを起こす」まではいかないってことで(みなみ@神奈川さん)
京都と大阪で食べたカレー湯豆腐を思い出す。小田原の小学生諸君、君たちは幸せだー。
カレー醤油というのはカレー味の醤油ではなく、関西方面で懸命に行われている「カレーライスにソースをかける」という行為に対抗するため「カレーに醤油かけてもうまいぞー」と訴えている醤油であろう。そうでないとこわい。ところで、この方の座布団は持っていかないの?
京女さんからは大阪市福島区にある「イカリソース」本社を訪問したときの写真が届いている。同社のHPにのっている「なぜイカリなのか」というエピソードは感動的であるらしい。
そろそろ終わらなければならない。が、どうしても気になるメールがある。ポイントだけ。
天理大学は今はどうが知りませんが、全寮制であったらしいのです。そこからが始まりらしいんです我が家は(BUCHIさん)
伝統的な食べ物を規定するのは地域と歴史だけではなかった。宗教のような社会的集団も関与するのである。そのことを考えたので紹介した。だが、私はこの問題を深追いしない。皆さんもしないでね。
新潟県小千谷市の方から「小千谷では雑炊をおじやとはいわない。『ぞーせー』という」というメール。なるほど。
(特任編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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