野菜炒めはしょうゆかソースか? 東西の「地ソース」
ソースをもう一ふり(3)
久留米で開かれた「筑後うどん祭」に行ってきた。写真を掲げてその雰囲気は伝える。
久留米に入る前日、博多に寄って長年愛し続けている「鉄鍋」のギョウザを食べた。西部支社のデスク時代、いったい何回この店のギョウザを食べたことだろう。転勤してからも博多に行く度に通ったものである。
店名の通り、ギョウザは丸い鉄の鍋ごと供される。手打ちの薄い皮はぱりっと焦げて、中からは皮の香ばしさが移った「あん」がふわりと溶けだし口に広がる。舌を冷ますためにサバの刺し身に九州の甘い醤油とゴマがかかった「ゴマサバ」をそばに置く。ギョウザにはふはふ言っては冷たいゴマサバを食えば、ビールも酒もまずいわけがないのである。
どこそこのギョウザがおいしいと聞いても、やはり私は博多や久留米のギョウザが口にあう。口にあわない人もいるかもしれないが、私がギョウザのうまさに目覚めたのは博多であった。今度、博多に行く用事がある人は屋台も刺し身もいいけれど、いっぺんギョウザば食べてみらんね。泣くよ。
デスク涙目 泣いた。今回は「鉄鍋」に。東京の蒲田では頬が緩みましたが、久留米は涙腺が緩みます。
私はその夜、焼けた鍋に整列したギョウザに向かって「好いとるよ」と告白した。火傷するかもしれないけれど、ギョウザに手があるなら握りたいくらいだった。
ギョウザに向かって恋心を口にしたのは日本人で私が初めてかもしれない。が、ギョウザからはなんの返事ももらえなかったことは言うまでもない。ああ、恥ずかしい。
おっと、博多ではなく久留米の話。しかも、うどんであった。
会場周辺でのうどん談義を聞いていると、「筑後(ちっご)のうどんは、よーつゆば吸うておいしか」という言葉が頻繁に耳に届いた。さぬきうどんはつゆに漬かっていても、麺とつゆが別物に感じられるというのである。要は麺の加水率の問題でありゆで時間の違いであろうが、麺の中にほどよく出しのうまみがしみているうどんを好む地域も多いのである。
であるからして、日本全国がさぬきうどん一色になってはならない。さぬき系があり非さぬき系があってこそ食の文化の多様性というものであろう。
であるからして、私は「弱腰うどんに落とし蓋」を提唱しているのである。まるで落とし蓋のごとく丼の直径とほぼ同じ大きさの練り物系天ぷらがのった丼に向かい、箸で天ぷらのはじっこを持ち上げて一角を食べる。そこにできた歯形くっきりのすき間から弱腰べろべろのうどんをたぐって食べるという様式美。これを一日も早く確立し、さぬきうどんの攻勢に立ち向かわなければならないのである。
うどんのどこがおいしいなどといくら言葉にしても伝わらない。ワンフレーズで表現するのが一番である。さぬきは「腰」であり「セルフ」である。それだけで「看板がない店もある」「ネギは前の畑で抜いて自分で切る」「土間に立って食べる」「タンクからつゆを自分で注ぐ」といったさぬきうどんワールドの全景が浮かぶ。いや浮かぶようになった。
筑後うどんもそのようなワンフレーズを持てば対抗できると思うのである。
ソースいきます。
えーっと、知りません。ソースは青だったと思いますが、黄色?
デスク困惑 横浜のシウマイ弁当は白い陶器に醤油が入ってますよ。
今日食べた弁当は青キャップに醤油が入っていたよ。
最初に紹介してはいけないメールを紹介してしまった。
私の探しようが悪いのか、それとも幻のソースなのかとても気になります。ソースの他にケチャップやポン酢も作っているようです。
それから野瀬さんに質問なのですが、三林さんのHPでお顔を初めて拝見しました。「新日本奇行」の文章からはずいぶんとかけ離れた硬派な雰囲気のナイスミドルなのにビックリ! 三林さんのところの掲示板に「よく、おモテになるのでは?」の問いに「NIKKEIに問い合わせて下さい」とのことでしたのでこちらにメールしました(ちりとてちんさん)
和歌山のハグルマソースについては防人さん、明渡さんからもメールをちょうだいしていますが、特に後半部分が気に入ったのであえてこのメールを紹介しました。株式会社ハグルマは現在、三ツ矢ソースの製造元になっています。三ツ矢ソースのラベルにそう書いてありました。
さてご質問へのお答えです。「ナイスミドル」という言葉についてはあえて否定も肯定もしません。本当は肯定したいんですが、異論のある人が社内にもたくさんいると思うので我慢してしません。
それから私は全然もてません。ギョウザにも相手にされなかったという話を書いたばかりです。記者会見はしてませんが、末の娘からもついに「ほっぺチューおでこチュー拒否宣言」が出され、破局しました。
加えて非常に不器用です。イワシの甘露煮なんかをきれいに食べる人がいたりすると見とれてしまいます。
富士山麓のローカルなソースたち。
最近はこれらの特長と家庭用フライパンでも美味しくなるように富士宮やきそば専用ソースも富士宮市内では発売されてます。
これらのソースは焼きそば以外にコロッケ・とんかつなどの揚げ物にも最適です。私は野菜炒めにこのソースを後がけで食します(富士宮やきそば学会の宮さん)
ワサビが入っていないワサビ印ソース。好き。
野菜炒めにソースの話が出たので。
そんな私が千葉に嫁に行って「違うの?」と思ったのが「野菜炒め」です。私は「ソース」(中濃)で育ってきましたから。夫は「何だこれ? 醤油だろう」と。醤油味のイメージがわかない私を連れてってくれたのがプチ中華屋さん。一杯飲めるラーメン屋みたいな店で「これが野菜炒めだ!」と教えられました。
カレーにはかけませんが隠し味に入れます。あまり入れすぎるとソース味が強くなり夫にばれるので、コソっと投入しています。
ウスターソースのことを「ウースター」という夫、いかがなものでしょうか?(きゃんさん)
千葉には醤油の町、銚子と野田があります。うかつにソースをどばどば使うと急に人間関係がおかしくなったりするのでしょうか。ソースで野菜炒めを作ると世間の噂になるのでしょうか。
千葉のどの辺りにお住まいかわかりませんが、野菜炒めは醤油でなければいけない地帯のようです。ほかに「うちの辺りもそう」という方はいらっしゃいますか。ひょっとしてVOTE項目? まさか。
それと「夫」はせっかく「ウースター」とおっしゃっているので、ついでに「ウースターシャ」とより正確に表現するよう言ってみてはいかがでしょうか。夫婦喧嘩になったらごめんなさい。
デスク考察 江戸っ子を祖先に持つ千葉都民としては野菜炒めは「両方可」です。炒めて皿に盛ってから味付けする場合はソース、ただし野菜炒めは中濃ではなくウスター。炒めながら味付ける場合は醤油が基本です。野菜ではなくフライパンのヘリに流し込んで香ばしさをたてます。ちなみに、前の職場に九十九里出身の先輩がいたのですが、彼はどんな料理にも醤油をどばどばと大量投入します。もつ煮込みにも醤油を大量投入し、しかも汁は残さず飲み干します。血圧大丈夫なんだろうか――。
ソースか醤油かという問題はこんなところにも横たわっていた。
実家ではソースは中濃。焼きそばだって中濃。焼き飯だって中濃……と、ここまで書いたところで関西生まれでほぼ関西育ちの相方から突っ込みが入りました。
「焼き飯にソースぅ?」
え? これって変? 家庭で焼き飯作るときってタマネギと豚肉入れてソース味にするのが普通なんと違うの? 実家じゃ父ちゃんも母ちゃんもソースで焼き飯作ってたよ。40年前からずーっと(こばりんさん)
ありゃ、そう言われてみるとどっちもありそう。どっちだっけ。私が自分で作るときは醤油かオイスターソースですけど。ソースもあるのかなあ。
学究的態度で食卓に臨む。
カゴメ醸熟=関西での棚占有率トップ。やや赤みがかったダーク。甘酸っぱく、やや苦味が残る。
イカリ赤ラベル=なにわソース全盛期のトップブランド。ライト。少しツンとした甘酸っぱさ。
オリバードロ=阪神大震災が生んだたまりソース。つやのあるダーク。甘口スパイシー&辛。野瀬さんには隠れ赤い殺意。
三ツ矢=元大阪・現和歌山の最古参メジャーブランド。ライトダーク。独特のスパイシィー感。
ヒカリ=徳島。有機。スーパーライト。甘口醤油っぽい感じ。
蛇ノ目=京都亀岡。ライト。アミノ酸醤油っぽい甘口京風出汁。
意外にも地域色が鮮明なのに驚きました。ソバ飯向きとか漬物にも合いそうとか釜揚げうどんにもいけそうとか。しかし、いくらソース好きの大阪人でも料理によって使い分ける気にまでは……。あえてするならイワシやイカの天ぷらにはイカリ、コロッケには三ツ矢でしょうか。なんでもソースだった時代に比べると塩分控えめになっているようにも思います。
ここまで書いたら夕ご飯だとお呼びがかかり、なんとおかずは豚カツ。さっそくソースの品評会を開始をしました。どれも帯に短したすきに長し。ドロソースも三ツ矢ソースも主張がキツイし、イカリでは薄い。出し汁っぽい蛇ノ目がそこそこ。素材の加減かヒカリもそこそこ。さらに息子が賞味期限の大幅に切れたオタフクのソースカツ丼ソースを発見。傷んではいないものの、ミイラっぽい味が。あ~困った、豊下@いっそ醤油派に転向しょうかいな、でした(豊下製菓の豊下さん)
品評会やるためにこんなにソースを買ってきたんですか? 冷蔵庫はソースだらけになっていませんか? 奥さんは何も言いませんか? 心配です。それと豊下さんがミイラの味をご存じだったとは知りませんでした。
デスク疑問 ミイラってどんな味するんだろう――。でも、食べたくない。
先週、浜松のMartinさんから、「気」で醤油をソースに変えようと顔を真っ赤にして頑張っている方のリポートがあった。その続報。これはこれで真剣である。
ウスターソース、中華関係でも活躍中。
ここにも「ウースター」と呼ぶ方がいらっしゃいました。
あの鹿島さん?
有名なフランス文学者と同じお名前です。もしご本人だったら、その節は連載でお世話になりました。ご本人でなかったら、今のお礼の言葉、返してください。
でも以前、青島幸男という方から「天ぷらには塩です」という長いお手紙をいただいて「まさか」と思って住所から調べてみたらあの青島さんだったことがあるので油断はできません。
そして、今週もこの方が爆発した。
1.ウスターソースと中濃ソース、特濃ソースの違いは何らかの有機物の濃度の差異ではなく、単なる「とろみ」の問題だった。
2.中京地区に増殖している「こいくちソース」は、正確にはウスターソースで、品質表示上では「ウスターソース(こいくち)」と表記される。
3.この(こいくち)の表示を記載する商品となるためには、「無塩可溶性固形分」が33%以上含まれたウスターソースでなければならない。
4.「無塩可溶性固形分」とはウスターソースの原料となる野菜、果物、調味料に含まれる糖分、酸味、アミノ酸等の旨味成分のこと。
5.この「ウスターソース(こいくち)」の食品表示が農水省から認定されたのは、名古屋に本社を持つ「値段は高いがいい味です」のコーミソース、最近では「マイマザーソース」のコーミソースがウスターソースの差別化を図った新製品「こいくちソース」を開発・新発売したことに端を発すること。(←コーミソースはこれをもって、「こいくちソース」の元祖、本家本元を謳っている)
6.「じゃあお好み焼きソースとかはどうなるの?」と思ったら、「低酸度濃厚ソース類」となるらしい。蔗糖の糖分やアミノ酸などの旨味成分を多めに作られているために、酢酸などの酸度が低い「マイルドなソース類なんだぞ!」ということらしい。
以上、ソースの分類についての自由研究でした。
で、誰か教えてくれ~っ!! 特に岡山県人! 「カキオコ」ってなんだよ~っ! お好み焼きの中にカキが入ってるだけなら「お好み焼き(カキ入り)」でいいじゃあねえかよぅ? そんで、ソースは何だ? えっ? 岡山名物=業務用お好み焼きソースのタイメイソースか? それとも違う地方のソース使うのか? 教えてくれよ~っ! 気になって東京湾岸にヘドラが上陸しちまうじゃあねえかよっ! っつうことで‥。西荻の怒髪天娘でした。バイバイキ~ン!!
関東以北からの声が依然としてない。なぜか。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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