発想の転換から生まれる30代からのキャリア形成
今回は女性のキャリア形成の注意点について話をしたいと思います。これまで就職後の10数年はキャリアを優先しなさいという風潮がありましたが、その結果として今、不妊に悩む女性が少なくありません。出産可能な年齢には限りがあり、その点で、男性と女性のキャリア形成は異なるものです。
私は、20代で出産して子育てが一段落した後に30代からキャリアを積むという選択も、これからは"大あり"だと思っています。専業主婦だった人が、子育てがひと段落した後に始めたパートの仕事でキャリアアップする事例もよく聞くようになりました。今後は、そうしたキャリア形成も増えると感じています。
子どもに対して経済的なサポートは20歳くらいまで必要でしょうが、実質的に手がかかるのは中学生くらいまでです。数年あけて二人の子どもがいたとしても20年もあれば手は離れます。
一方、働く期間はその倍以上です。大学卒業後23歳から働き始めて、現在は65歳が定年ですが、今後は年金の支給開始年齢引き上げとの兼ね合いもあり、70歳まで働く人が一般的になるでしょう。そうすると、47年間、ほぼ半世紀にわたって働く時代になるんです。
子ども二人の子育てに20年手がかかるとしても、残りが27年間もある。どんな仕事でもゼロから経験を積んで成果を出すのに十分な時間です。
「日本は年功序列社会なので、30代からでは就職できない」と年齢を気にする人もいますが、発想を転換してみましょう。例えば30歳を過ぎて「美容師になりたい」と考えたとしますよね。美容専門学校は少子化で生徒獲得が難しくなりますから、何歳でも入学はできると思います。
卒業後に勤務する美容室選びがネックになるかもしれませんが、例えば、後継者の人手不足に悩む地方都市の美容室を手伝いながら、実務経験を積ませてもらえばどうでしょう。そして経験を積んだあと、自分で開いた美容室で同じように途中から美容師を目指した人を積極的に雇用すれば、高齢者の髪の悩みや白髪染めに特化したお店をつくるなど、オンリーワンで特徴的な店づくりができるのではないでしょうか。みんながみんな、若い頃に美容師になって、最先端のお洒落な店づくりを目指す必要はないのです。
ビジネスを始めるハードルも下がっています。シェアオフィスや秘書サービスなど様々なサービスがありますし、名刺やパンフレットなどの印刷もネットで格安でできるようになりました。グーグルの機能を使えば、簡単にアンケート作成もできます。
ソーシャルメディアの浸透で、個人であっても発信力を手にできるようになったのも大きいですね。世界に目を向けてニーズのある商品を作れば、買い手の幅も広がります。
今は時代の変わり目。明治時代の"文明開化"の頃に似ていると思います。あの時代も、武士を頂点とする階級社会が変化する中で、それでも旧来の「武士の家にお嫁に行きたい」と考える女性はいたでしょう。
それはそれでいいのです。生きたいように生きることが基本です。ただ枠の中で一生を終えるのではなく、決定権を握って自分自身の力で人生を組み立てる。そんなリーダーシップを持った人が増えることで、社会を変える原動力が生まれたらと願っています。
この人に聞きました
キャリア形成コンサルタント。93年からマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に17年在籍。コンサルタントとして働いたのち、人材育成および採用マネージャーを務め、11年より独立。現在はキャリアインタビューサイトMY CHOICEを運営し、リーダーシップ教育やキャリア形成に関する啓蒙活動を行う。著書『採用基準』(ダイヤモンド社)は10万部を突破。
(ライター 田中美和)
[nikkei WOMAN Online2013年5月22日付記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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