劇場はいらない 競争や格差でファン心理突く乃木坂46
日経エンタテインメント!
秋元康氏プロデュースのグループながら、AKB48の"公式ライバル"という位置づけで、11年に誕生した乃木坂46。2012年は渡辺麻友主演ドラマ『さばドル』(テレビ東京系)へのゲスト出演や、指原莉乃とのCD売り上げ対決といった公式ライバルとしての活動が目立ったが、今年に入ってからは、独自色を強めている。
2013年3月発売の5thシングル『君の名は希望』は初週の売上枚数が24万枚を突破。ロックバンドBase Ball Bearの小出祐介が「Aメロが泣ける」とツイートするなど、業界内でも話題を呼んだ。続く6thシングル『ガールズルール』は出荷ベースで50万枚を超えている。
8月からは初の全国ツアーを開催し、10月6日に代々木第一体育館が追加され昼夜公演を実施。この日だけで2万4000人を動員した。同ツアーでは、5月に加入した2期生もステージに上がった。現在、メンバーは総勢45人を数える。
個人活動も急増している。白石麻衣は女性誌『Ray』専属モデルを務めながら、バラエティー番組のアシスタントMCとして活躍。橋本奈々未は7月期のフジテレビ系月9ドラマ『SUMMER NUDE』に出演。高山一実は、『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)などのバラエティー番組で存在感を示している。人気や売り上げ規模の面で、AKB48に追いつく可能性が見えてきた乃木坂46。これほどまでの躍進を遂げた理由はどこにあるのか。
AKB48は公立で乃木坂46は私立、女子高のような甘い世界観
CDセールスやライブの動員数でSKE48やNMB48に肉薄する乃木坂46。人気の理由は3つある。
まず「胸がキュンとする世界観」。乃木坂46の作品には、女子高の休み時間や放課後をのぞいているような甘酸っぱい気持ちにさせる雰囲気が漂っている。実際、AKB48を「公立高校」、乃木坂46は「私立女子高」と例えるファンは多い。
それが顕著なのが歌詞だ。「何となく/落ち着くの/教室の特等席」(『ぐるぐるカーテン』)や「友情と恋愛はどう違う?/いつになく君が熱く語ってた」(『走れ!Bicycle』)といった、学校生活の1コマを切り取ったようなフレーズが効果的に使われている。
さらに楽曲の世界観が、クオリティーの高いミュージックビデオによって増幅されている。5thシングルの『君の名は希望』は、映画『リンダ リンダ リンダ』の山下敦弘監督が手がけた。
2つ目は「ビジュアルと素のギャップ」。白石麻衣が女性誌モデルを務めたり、橋本奈々未が月9ドラマに出演するなど、ビジュアルに定評のあるメンバーは多い。
しかし、彼女たちはそれにおごらず常に謙虚。それが表れるのが握手会だ。結成から1年間は本格的なライブを行わず、ファンとの交流を中心に活動してきたこともあり、握手対応の評価が高い。「美人は冷たく見えるものだが、そんな彼女たちが握手会では人懐っこく対応する。そのギャップにやられるファンは多い」と乃木坂46を多く取材してきた雑誌編集者は話す。
また、レギュラー番組『乃木坂って、どこ?』(テレビ東京系)では、司会のバナナマンの話術によって、乃木坂メンバーの「控えめなのに実は変わり者」な面がうまく引き出されている。この番組をきっかけにファンになったという声も多い。
積極的に序列を見せる、激しい競争がファンの心を打つ
3つ目は「積極的な競争の可視化」。次期シングルの選抜メンバーは、『乃木坂って、どこ?』で発表することが恒例。全員がそろったなかで、選抜メンバーが1人ずつ呼ばれる。
フロント、2列目、3列目という序列を明確にしたうえ、2列目から前の8人は「八福神」と呼び、さらに選ばれた者と位置づける(今回の『バレッタ』では堀を除いた前2列が八福神)。AKB48の選抜総選挙では上位7人を"神セブン"と呼ぶ慣習があるが、乃木坂46ではそれをシステムに組み込んでいる。選抜に入る者、漏れる者とが明白となる残酷ともいえる展開に、ファンは心を動かされる。
舞台『16人のプリンシパル』も同様だ。第1幕の演技や自己アピールを見た上で、ファンがスマートフォン(スマホ)で投票、その結果、選ばれたメンバーが第2幕に出演する。こうしたシステムを採用することで、メンバーの感情がむき出しになりやすく、観客は各メンバーへの思い入れが深くなる。
甘い世界観を描きだす中での、心のこもった握手対応と激烈な競争。AKB48とは違った角度で見せる少女たちの戦いが、ファンの心をつかんでいる。
【新センター・堀未央奈に聞く】 「目立たない私が、何で?って」
今回の選抜発表のときは、番組収録を見学しに来ていただけなのに、自分の名前が呼ばれて、頭が真っ白になりました。2期生で目立つ存在ではないし、歌もダンスもまだまだなのに、なんで私なんだろう。今でも疑問です。
でも、選んでいただいたからには、小さいことにも手を抜かずに全力でやり抜きたいと思っています。中学時代に陸上部で鍛えた根性には、自信があるつもりです。
代々木第一体育館でファンの方へ発表をした時、私が選ばれたことを快く思っていない人もいるだろうなって覚悟していたんです。だけど反応は温かくて感激しました。生駒さんからは「1stシングルの時の私を見ているようで親近感が湧いています。一緒に頑張ろう」というメールをいただいて、とても心強かったです。
心配があるとすれば、今後一人暮らしするのが寂しくて……。実家で飼っているチワワのニコルと離れることになってしまうから。一番遊び盛りの2歳なので、かまってあげられないのがツライ。思い出すだけで泣きそうです。(談)
(ライター 大貫真之介)
[日経エンタテインメント!2013年12月号の記事を基に再構成]
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