責任と目標で生きる 青木智栄子さん
ブルーツリー・ホテルズ&リゾーツ会長兼CEO
ブラジルで有数の女性経営者の1人に数えられる。名字からとった「ブルーツリーホテル」は高級ホテルとして知られ、シティーホテルを中心に全国23カ所にある。建物や土地は別にオーナーがいて、経営のみ手がける。6月に開幕するサッカー・ワールドカップ(W杯)では各国代表チームが宿泊する予定。「ホテル業はエンターテインメント。顧客の期待に、それ以上で応えたい」
福岡県生まれで、7歳の時に家族と共にブラジルに移り住んだ。当初は日本人学校に通うが、やがて現地校に移った。昼間は秘書の専門学校に、夜には高校に向かう。同時に英語の学校にも通い、ギターも習った。「夢はなかった。手に職をつけようとひたすら現実を見ていた」と振り返る。
名門サンパウロ大学に進学し、法律を学ぶ。同時に米フォード・モーターのブラジル法人で役員秘書としても働き、日本の青木建設が現地企業と作った合弁会社に転職。社長だった青木宏悦氏と出会って結婚した。同社が資本参加していたシーザーパークホテル、米大手チェーンのウェスティン・ホテルズの運営にかかわり、同チェーンの副会長などを歴任した。
「常に意識してきたのはサービスとイノベーション(変革)」。フロント脇にコーヒーサーバーを置くサービスは他社がまねてブラジル中に広がった。女性の1人客にはホテル内で女性スタッフが同行して安心感を与えるなどの工夫を次々と打ち出し、ホテルの評判は高まった。
だがバブル崩壊で青木建設の業績が悪化し、ホテルを売却。夫も病気を患い、つらい時期だったが、「少しでも良い条件で売却するのに必死で悲しむ暇はなかった」
97年、ホテルの投資家グループから「運営を任せたい」との思わぬ話が舞い込んだ。運営会社の「ブルーツリー」を設立。10年弱でブラジル有数のチェーンに育てた。
「会社を大きくするよりも、良くしたい」という。ただ経営の依頼は絶えず、将来的に50を超えるホテルチェーンとなる見通しだ。「責任と目標で生きています」。りんとしたたたずまい。笑顔の裏には強い意志が宿っている。
(文と写真、サンパウロ支局 宮本英威)
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