よりスポーティーに魅力増した最新クロスバイク
クロスバイクとはロードバイクとマウンテンバイク(MTB)、両方の特徴を併せ持つ自転車として誕生したものだ。MTB譲りの丈夫なフレームに、高速巡航性に優れた700Cサイズのスリックタイヤ、前傾姿勢がゆるく低速走行時でも扱いやすいフラットハンドルバー、ワイドなギア比設定というのがクロスバイクの一般的な定義である。
あくまでも舗装路での走行に主眼が置かれているが、荒れた路面やストップ&ゴーの多いシチュエーションにも対応しやすい自転車、そんな存在だ。汎用性が高く、通勤や通学、週末のサイクリングなどこれ1台でさまざまな用途に使えることから、スポーツサイクル"最初の1台"として薦められることも多い。
スポーティークロスバイクはクルマでいうSUVへの転換
さて、そんなクロスバイクだが、時代と共に洗練さが進んでいる。たとえば以前はMTBのようにサスペンション付きフロントフォークを装備したモデルも多かったが、現在はサスペンションのないリジッドフォークを採用するものが主流となった。地方の隅々まで舗装化が行き届いた日本では、重く、パワーをロスするサスペンションは不要という訳である。
一方で、リジッドフォークを採用するクロスバイクも、ユーザーのニーズもあって舗装路での走行性能をさらに高めたものへとシフトしていく傾向にある。クルマでいうところのSUBからクロスオーバーSUVへの転換である。
世界最大の自転車メーカー、ジャイアントはその動きを敏感に察知し、約5年前からスタンダードモデル「エスケープR3」をラインアップするかたわら、よりスポーツ性を強めた「エスケープRX」を"スポーティークロスバイク"として別シリーズで展開している。この2車の大きな違いはフレームの構造にある。後者はロードバイクの製造技術を転用した高剛性アルミフレームを採用することで、よりダイレクトかつスポーティ、軽快で気持ちよく走れるのである。
少々値は張るが先を考えればリーズナブル
ただし、スポーティーとはいってもロードバイクのフレームにフラットバーハンドルを装着した、いわゆる「フラットバーロード」とはまったく特性が違う。フラットバーロードは前傾ポジションや高速設定のギア比、キャリパーブレーキなど、基本的に高速での連続走行を想定した構成となっているからだ。
スポーティークロスバイクは、日常的に乗ることができるというクロスバイクの特性を失うことなく走行性能を向上した、クロスバイクの正常進化型というべきモデルである。スタンダードなクロスバイクに比べると少々値が張るものの、今後、自転車を単なる移動手段以上のものとして楽しみたいなら、最初からこちらを買ったほうがリーズナブルだろう。
2016年はスポーティークロスバイクの代表格、ジャイアントRXシリーズが3代目へとフルモデルチェンジを果たし、注目を集めている。クロスバイクというカテゴリーのスピード化は今後もさらに進むと思う。
スポーティークロスバイクの代表ジャイアント
スポーツ性の高いクロスバイクという概念を広く浸透させたジャイアントRXシリーズ。上級パーツを組み込んだだけのクロスバイクとは一線を画し、フレーム設計からスポーツライドを想定している。
同社が誇るスタンダードなクロスバイク、エスケープR3と見比べてもらえれば分かる通り、クランク部とステアリング部をつなぐダウンチューブがボックス形状になっているほか、サドルの付け根とステアリング部を結ぶトップチューブも前方にいくにしたがって径が大きくなっている。これは自転車をこいだ際に発生する縦方向への力をしっかりと受け止め、路面へと効率良く伝えるための意匠だ。
一方、サドルと後輪車軸を結ぶシートステーは細身にできており、衝撃を吸収しやすいよう弓なりに加工して乗り心地を高めている。このようにスポーティークロスバイクと呼ばれるモデルのフレームは各部の形状を巧みに変化させることで全方位的に走行性能の向上を図っているのが特徴である。
エスケープRX3の基本的な部品はVブレーキやフロントトリプルのギアなど、一般的なクロスバイクと同じだが、カタログ重量は10.3kg(465mmサイズ)とかなり軽い。まさしく正常進化だ。
カーボンフォークを採用したトレック「7.4FX」
トレックのFXシリーズといえば、クロスバイクの定番として知られているが、この「7.4FX」から上位のモデルはかなりスポーツライドを意識した構成となっている。
ジャイアントのように別シリーズとして展開しているわけではないので少々分かりにくいが、7.4FXとひとつ下のグレードである「7.2FX」とではフレームの素材からして違うのである。もちろん7.4FXほうが軽く、高剛性にできており、軽快に走る。また、7.2FXがスチールフォークであるのに対し、7.4FXは軽量で快適性の高いカーボンフォークを組み合わせている。ケーブル類もフレーム内蔵式になるなど、見た目の上質感も大きく違う。独自の振動吸収素材を使用することでロングライド時の快適性を高めた「IsoZone」ハンドルバーとエルゴグリップも7.4FXから採用している。
実用性とスポーツ性を両立したスペシャライズド
スペシャライズドの「シラス」シリーズも2000年代初頭からラインアップされているクロスバイクの定番である。6万円代で買えるエントリーグレードからフルカーボンフレームを採用する最上級モデルまで、全8種類と豊富なバリエーションを誇るが、この「エリート」は実用性とスポーツ性が高レベルで両立した1台だ。
フレームとフロントフォークは同社のロードバイクと同じ高品質なアルミ合金を使用しており、タイヤも700×30Cと下位グレードのモデルよりも少し細身のサイズを採用。また、フロントフォークに独自の衝撃吸収素材「Zertz」を内蔵することで、ロングライドもこなす優れた快適性を実現している。
知名度上昇中のメリダ
有名ブランドの自転車のOEM生産を手掛けるなど、台湾のメリダは優れた技術をもつメーカーとして知られる。近年は「ツール・ド・フランス」に参戦する有力チームにバイクを供給したこともあって自社ブランドの知名度も急上昇。今、最も勢いのあるメーカーの1つだ。
「クロスウェイ ブリーズTFS 300-R」は機械圧縮によってフレームのチューブ形状を3次元的に成形するTFS製法を採用。ハンドルを支持するヘッドチューブ付近の複雑な造形はその白眉だ。高い剛性を確保しながらも車体重量(カタログ値)は10.4kg(460mmサイズ)とかなり軽い。ケーブル類をフレーム内蔵式としたルックスの良さも含め、コストパフォーマンスが際立った1台。
(ライター 佐藤旅宇)
[日経トレンディネット 2016年2月4日付の記事を再構成]
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