写真家・齋藤陽道 感動を直球で伝える作風に支持
写真家、齋藤陽道(32)が注目されている。被写体と正面から向き合い、感動を直球で伝える作風で、従来の写真ファン以外にも支持されている。Mr.Childrenやクラムボンら人気アーティストのジャケットや、テレビCMにも起用された。昨年刊行した写真集「写訳 春と修羅」(ナナロク社)の発行部数は4000部で、若手写真家としては異例の売れ行きだ。
ブレイクのきっかけはワタリウム美術館(東京・渋谷)で2013年に開幕した初の大規模個展。同館が無名の若手を取り上げることはめったにないが、「被写体がどんな人や動物であっても、全ての境界を越えて真正面から向き合う作品に可能性を感じた」と和多利恵津子館長はいう。
作家の吉本ばなな、詩人の谷川俊太郎ら、著名なファンがチラシにコメントを寄せた効果もあり、予想を大幅に上回る数万人が来場。知名度が高まり、ミスチルの配信限定シングル「放たれる」のジャケットや、JTのテレビCMへの起用につながった。
光が画面全体を覆って、人物の存在感を引き立たせる「絶対」や、むくな子どもの目線で世界をとらえた「せかいさがし」などのシリーズのほか、障がい者やレズビアンなど、マイノリティーを写したものも多い。実は齋藤も耳が聞こえない。演奏中のピアノの鍵盤や、鼓笛隊の様子を捉えた「無音楽団」シリーズは、音楽への憧れがにじむ。
しかし、「そのことは、あえて打ち出さなかった」と写真集を手がけたナナロク社の村井光男社長。「"耳の聞こえない写真家"と単純化されるのを避けた」と明かす。「物事の本質をつかんで、それを直球で表現する彼の魅力を伝えたかった」。「春と修羅」は、宮沢賢治の詩に写真を合わせた本。「反響は予想以上で、心のこもった声がたくさん届いた」という。
写真集が売れない時代に、5年で3冊出せる若手は、そういない。初の写真集「感動」(赤々舎)を手がけた姫野希美社長は、「作品から生命力が立ち上がるパワーに圧倒された」と話す。「初めて写真集を買ったという層も多い。東日本大震災後、命に目を向ける人が増えている。そのことも彼の人気に拍車をかけているのでは」と見る。(宇)
[日本経済新聞夕刊2016年2月24日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。