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 60歳以上の人たちに働く場を提供する各地のシルバー人材センターが職域を広げている。従来の草刈りや清掃といった軽作業の請け負いに加え、人手不足に悩む小売店や福祉施設へのシニア派遣に力を入れ始めた。高齢者が増えるなか企業の定年延長などもあり、公益法人のシルバー人材センターへの登録者は伸び悩んでいる。活動領域の拡大で高齢者の就業機会を増やそうとしている。

「いらっしゃいませ」。5日、青森県弘前市のコンビニエンスストア、サークルK弘前城東中央店で就業体験実習が始まった。

同市シルバー人材センターに登録している60歳代の女性会員が3人一組となり10日間(40時間)、コンビニ業務に必要な心構えやマナーと、接客、レジ操作、清掃といった実務を学ぶ。

オリジナルの踊りを楽しむ高齢者(松山市のデイサービスセンタージョイフル)

オリジナルの踊りを楽しむ高齢者(松山市のデイサービスセンタージョイフル)

「会員の就業機会の拡大につなげたい」と考えた青森県シルバー人材センター連合会と「高齢者の力を借りない手はない」とみたサークルKサンクスが、人材活用に関する基本協定を交わした。実習を終えた会員の中から適任者がコンビニ店舗で働く。

実習に参加した戸沢ケイ子さん(62)は「スーパーでレジなどの仕事をした経験をコンビニでも生かせれば」と話す。同連合会の高坂進常務理事は「草刈りなど屋外で作業する従来のシルバー人材センターのイメージを変えたい。関心を集め、会員の増加につなげたい」と意気込む。

松山市の「デイサービスセンタージョイフル」では、市シルバー人材センターが派遣した60歳代の女性スタッフたちが高齢者の健康チェックや食事の世話をし、レクリエーションの相手になる。

介護施設や診療所などで勤務経験のある人ら6人が交代で週2~3回、1日4~5時間程度勤務する。スタッフで介護福祉士の榊原美知代さん(64)は紙すき工房で働いていたが、「介護の経験を生かしたい」とデイサービス施設の仕事を希望した。午前8時半から午後3時半まで働く。

同センターの柳原祐二事務局次長は「女性スタッフは通ってくる高齢者と年齢が近いこともあり、良好なコミュニケーションが取れる。お年寄りが次にどんな行動に出るかを予測する能力があり、安心してまかせられる」と話す。

介護保険法の改正に伴い、比較的軽度の「要支援1、2」の人への訪問介護と通所介護に対応するサービスの分類が変わる。15年度から3年間で段階的に、市区町村による「介護予防・日常生活支援総合事業」(新総合事業)へ移るのだ。松山市は17年度から始める方針で、同センターは「いま手掛けるデイサービス事業を、そのまま新総合事業の一つとして受託したい」(柳原次長)考えだ。

既に茨城県の日立市シルバー人材センターや奈良県の生駒市シルバー人材センターなどは、15年度から新総合事業を受託している。

シルバー人材センターが独自に事業を手掛ける例もある。愛知県大府市のシルバー人材センターが市内で運営する「喫茶さくら」は、周辺に住む高齢者らでにぎわう。12年4月に開店、60~70歳代の同センターの女性会員10人が交代で勤める。当初から働く大坪かね子さん(72)は「家にいてじっとしているよりも、地域とのつながりができる」と喫茶店勤務を希望した。

コーヒーと手作りカレーが人気で口コミで評判が広がり、多い日は1日50人の来店客がある。当初は働く会員一人に渡せる報酬は1時間300円程度だったが、売り上げ増により、現在は700~800円に増えたという。

主力事業の請け負いでも、社会環境に合わせた新サービスを取り込み、職域を広げる動きが出ている。

埼玉県の蓮田市シルバー人材センターは9月、増え続ける空き家を適正に管理するため市と業務協定を結んだ。市は空き家の所有者から求めがあれば、空き家の管理業者としてセンターを紹介。所有者はセンターと委託契約を結び、管理を依頼する。

栃木県の栃木市シルバー人材センターも同月、同様の協定を結んだ。所有者に代わりセンターが空き家の見回りなどをして、必要な場合は清掃や除草などの作業も請け負う。

シルバー人材センターは原則60歳以上の退職した高齢者らを会員として登録、仕事を提供する公益法人。高齢者雇用安定法に基づき市区町村ごとに置かれており、2013年度末で全国に1300団体ある。民業を圧迫しないよう厚生労働省の指導で労働時間は原則週20時間、1カ月で10日を超えないよう制限がある。

「生涯現役社会」のインフラの一つとして期待を受けるシルバー人材センターだが、高齢者の増加にもかかわらず、会員数は09年度の約79万人をピークに13年度は約73万人に減った。従来型の請負仕事が「ホワイトカラーだった人たちのニーズに合わない」(全国シルバー人材センター事業協会)。定年延長や再雇用で働ける期間が延びた団塊世代を取り込めていない。

厚労省は人手不足が深刻な介護や子育て支援などの分野でのシニア派遣拡充が必要とし、各地のシルバー人材センターの取り組みを期待している。同協会は15年度、各地のセンターが新総合事業を受託できるよう事業参入の手引書を作る。

働ける時間が短いことも会員が集まりにくい理由。地域の人を呼び込むためにシルバー人材センターの労働時間延長が必要との声が自治体などから出る。厚労省の検討会は6月の報告書で、シルバー人材センターの労働時間規制緩和の検討を盛り込んだ。

一足先に9月、農業分野の国家戦略特区となった兵庫県養父市は、シルバー人材センターが派遣する高齢者の労働時間を延ばした。特区による規制緩和として週40時間まで認めている。

(大橋正也)

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