「妊娠したら仕事は辞める」の大きな誤算
「いつか子どもがほしい……」そう願っている女性は多いのではないでしょうか。「妊娠したら、すぐに仕事を辞めたい」という声を耳にすることが少なくありません。しかし、仕事を辞めてから、もらえるお金の大きさを知って、愕然(がくぜん)とするケースも。どこに誤算があったのでしょうか?
お祝い金程度かと思っていたら……
「赤ちゃんが生まれたら、今の仕事を辞めて、育児と家庭生活を優先したい」
もしかしたら、あなたもそんな風に考えていませんか? 働き方や生き方は個人の価値観がありますから、「これが正解」とは一概に言えません。
ただ、辞めてしまってから、「仕事を続けていたら、そんなにお金がもらえたの?」とビックリされる方や、後悔される方をこれまで少なからず見てきました。
出産すると、多少のお金はもらえるだろう、とみなさん思っています。「どうせお祝い金程度でしょ?」と誤解されている方が結構多いのです。しかし、それは働き方によって大きく違ってくるのをご存じでしょうか?
子どもを出産すると、原則として1人につき42万円の「出産育児一時金」をもらうことができます。
これは、自営業で国民健康保険に入っている方も、ワーキングパーソンも同じ。会社員で健康保険組合に入っている場合は、さらに10万円加算されるなど、プラスアルファの特典がつく場合もあります。
これだけなら「実際の出産費用に消えてしまうから、大したことない」と言われても、仕方ないかもしれません。
問題はここからです。会社などにお勤めで、健康保険や雇用保険に入っている人が、産休や育児休業を取った場合です。
産前産後休業(産休)とは、産前42日(多胎妊娠は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として仕事をお休みしている期間をいいます。
この間、無給となってしまう会社は多いのですが、給与がもらえない代わりに、「出産手当金」が支給されます。ちなみに、これは会社からもらえる、と誤解している方もいるようですが、健康保険制度から出ているものです。
「出産手当金」は、休業1日あたり、平均給与(標準報酬日額)の3分の2相当額がもらえます。
たとえば、給与が22万円なら、1日あたり約4900円。出産予定日どおりに産まれたとすると、産休期間は98日ありますから、合計で約48万円もらえる計算になります。
また、産休のあとに引き続き子どもが1歳になるまで育児休業を取るとしましょう。育休中も無給の会社は多いですが、給与がもらえない代わりに、一定の要件をクリアすると、雇用保険制度から「育児休業給付金」をもらうことができます。
たとえば、給与が22万円の場合、子どもが1歳になるまで支給されると、合計で約133万5000円にのぼります。
こうして出産育児一時金に出産手当金と育児休業給付金を合わせると、約223万円以上という金額になります。とても「お祝い金程度」の額ではないことが、おわかりいただけるでしょうか? しかも、すべて非課税なのです。
2014年4月から、さらに手厚くなった
うれしいことに、2014年4月1日以降に育児休業をスタートする人は、法改正により「育児休業給付金」の給付率がアップされました。それまでは、育休期間中は休業開始前の平均給与の50%だったのですが、最初の180日(6ヵ月)間に限り67%へ、17%もアップされたのです。
これだけではありません。今までは産休中に社会保険料の免除制度がありませんでしたが、2014年4月30日以降に産休が終了される方は、申請により社会保険料が全額免除されるようになりました。
育児休業中も、最長で子どもが3歳になるまで、社会保険料の免除が受けられるしくみがあります。
給与が22万円の人が産休と育児休業期間中の社会保険料が免除される金額を試算すると、約38万7000円にも上ります(2014年6月現在、協会けんぽ東京支部に加入する40歳未満の場合)。
しかも、この免除されている期間については、社会保険料を支払ったものとして取り扱ってもらえるため、将来の年金額にも反映されるしくみになっているという、ダブルでうれしい制度なのです。
アベノミクスの影響もあり、働く女性には追い風が吹いています。働き続けることでさらにメリットを感じられるように、法律は今後さらに見直されていくでしょう。
そういう意味では、これから出産される女性はチャンスとも言えます。「妊娠したら辞める」と言う前に、もう少し長い人生を考えてみてください。
可愛い子どもを育てるためには、教育費などある程度の経済基盤も必要となります。
整備されつつある制度を賢く利用し、もっと人生の選択肢を広げていきましょう。
社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。平成17年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、【働く女性のためのグレース・プロジェクト】でサロンを主宰。著書に「知らないともらえないお金の話」(実業之日本社)をはじめ、新聞・雑誌、ラジオ等多方面で活躍。
[nikkei WOMAN Online 2014年6月17日付記事を基に再構成]
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