やる気ある2割をまず動かす アステラス社長の組織論
アステラス製薬 安川健司社長(下)
アステラス製薬の安川健司社長
国内製薬2位のアステラス製薬。2018年に就任した安川健司社長(58)は「時間は最も重要な経営資源」と社員に繰り返し訴えている。患者にとっても製薬企業にとっても、一日でも早く新薬を実用化することが利益になるためだ。プロジェクトの遂行にかかる時間を縮めるために必要なリーダーの役割とは。
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ボトルネックは先回りしてつぶす
――現役時代は臨床試験(治験)の運営を担う開発部門に長く携わりました。
「米国で前立腺肥大症治療薬『ハルナール』の開発を担当した後、今度は過活動ぼうこう治療薬『ベシケア』の開発を任されました。山之内製薬(現アステラス製薬)が初めてグローバルで同時に実施した治験のリーダーです。医薬品の特許は通常治験前に取得するので、いかに治験を早く済ませて発売するかが、長く収益を得るうえで重要になります」
「ベシケアは治験から発売までの期間が当時最短として、英医薬品専門誌から表彰されました。プロジェクトのスピードを上げるコツは、たくさんあるタスクのうち、ボトルネックになりそうなものを先回りして潰すことです。あるタスクを進めるとき、その判断に必要なタスクの結果を見てからでないと投資しない、というやり方ではダメです。リーダーはあらゆるタスクに目を配って停滞が予見される箇所を見つけ、判断材料がそろっていなくてもリスクを取って人やお金を投じる決断が必要です」
――大きなチームで苦労も多かったのではありませんか。
「グローバル治験には世界で数百人が関わりますが、プロジェクトチームには研究部門や製造部門に所属する人が集まっており、ほとんどは私の部下ではありません。私が開発に関する方針を決めても、気に入らないことがあると『何でお前が勝手にやってるんだ』などと各組織のボスが怒鳴り込んできます。初めてのグローバル同時開発ですから今までの常識にないことがたくさん起きます。結局は理屈を説明して理解してもらうしかないのですが、その戦いが一番大変でした」
――多くの関係者をまとめ上げるうえで心がけてきたことはありますか。
「05年に藤沢薬品工業と統合してアステラス製薬が誕生した後、泌尿器領域全体のリーダーに就きました。現在の主力薬である前立腺がん治療薬『イクスタンジ』の権利を米国企業から買い取ることを決め、自社で研究していた同じような仕組みの薬は断念することにしました。苦労して作った候補品がバックアップ用になり、研究部門は怒り心頭でした」