マツダCX-3 果てなき改良、値引きなしだからできる
2018年5月に大幅に改良されたマツダのコンパクトSUV「CX-3」。2015年の登場以来、約3年間で4回目と、短期間での「商品改良」を繰り返すマツダの狙いは何か。小沢コージ氏が開発者に迫る。
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最近のマツダの独自戦略に、フルモデルチェンジ後に頻繁に行う「商品改良」がある。こういった改良は一般的には「マイナーチェンジ」「フェイスリフト」などと呼ばれ、2年に1度ほどの割合で細かい意匠変更や性能アップをすることが多いが、マツダはあえて地味に「商品改良」と呼び、1年に1度、もしくはさらに短いスパンで最新技術や新装備を取り入れている。様々な車種を一括企画で手掛けるからこそなせる業だ。なかでもコンパクトSUVの「CX-3」の5月の大幅改良は、新型車として登場後、3年3カ月で4回目。いくらなんでも多過ぎるし、開発から販売まで仕事が大変過ぎやしないのか? 冨山道雄主査を小沢が直撃した。
やはりやり過ぎではないですか
小沢コージ(以下、小沢) またまた行われたCX-3の商品改良。僕は勝手に「マツダのやり過ぎ商品改良」と呼んでますけど、ここまでやるのは一体なぜなんでしょう? さすがに開発部門も大変だと思うのですが。
冨山道雄主査(以下、冨山) 確かに発表から3年3カ月で4回目ですからね(笑)。そう見える部分もあるのかもしれません。ただ、逆に言うと先進安全機能にしろ、電装品にしろ、クルマは常に進化していくので、「このクルマには付いてるけど、このクルマには付いてない」というほうが変ではないですか。例えば「小型車には付いているのに高級車には付いていない」とか。要するにショールームコンディションを合わせたい。マツダのクルマならどのクルマでも等しく最新装備を味わっていただきたい。そうやってブランド価値も高めて行こうという考え方ですね。
小沢 そうは言ってもこんなに頻繁に行うのはマツダぐらいのものですよ。今回のCX-3はもちろん、2カ月前にも「CX-5」の商品改良が行われたばかりなのに(記事「ジミすぎる『オレ流改良』 マツダの新型CX-5」参照)。
冨山 それこそがウチの一括企画の良さで、そもそも新技術を開発するときに、ある特定の車種だけのものとはしないんです。全ラインアップに展開することを前提に作り込んでいるから、一つの車種に盛り込んだら、どんどん他の車種に盛り込むことができる。
お客様の要望をすべてかなえる
小沢 ということは、これだけ頻繁に商品改良しても大して大変じゃないと? CX-5の他にも「CX-8」や「デミオ」「アクセラ」「アテンザ」や「ロードスター」などもつくっているわけだから、ヘタすると数カ月おきにどれかの商品改良を行っていることになりませんか?
冨山 もちろん大変です。技術単体はできていますが、やはり車種ごとのチューニングはしなければならないので大変ではあります。開発部門以上に工場での生産準備や部品変更が入るので試作部門にしろもうパンパンです。「もうちょっとここの間隔を開けてくれないとトライアルができない」とか。
小沢 やはり。それにしてもCX-3に関しては他より改良回数が多いと思うんです。それは単純にCX-3がはやりのコンパクトSUVで競争が激しいからですかね?
冨山 それもあります。成長している分野なので、より商品力を高めたい。それからこれは私個人の取り組みですが、初期のCX-3オーナーからの要望を全部リストにして、いつ入れられるか計画を立てていたんです。例えば本革内装にしろ最初は白革しか入れられませんでしたが、黒革のご要望も多かったので早く入れたかった。だから、2015年2月に出した10カ月後の12月にそれを入れたんです。
小沢 もしやお客の要望には全部応えようというつもりなんですか?
冨山 そうです。センターコンソールのアームレストにしろ、それ自体を作るのにはたいして時間はかかりませんが、そのために必要となる電子パーキングブレーキの開発に時間がかかった。よってこのタイミングとなり、今回でお客様からいただいたリクエストに対してはすべてやりきったと思ってます。
小沢 スゴいですね。普通マツダのエンジニアってこれほどまでに新車担当者が後々までアフターケアするもんなんですか。
冨山 いや、私は特別です(笑)。ただ今回の静粛性改善にしろ、私がやろうと言ったのではなく、エンジニアリングのほうから「やらせてくれ」という提案がありました。
マツダの値引きなし戦略の追い風
小沢 さすがは「広島理想主義」を追い続けるマツダですね。みんなクソ真面目(笑)。ところでもう一つの現場、販売とかは大変じゃないんですか。カタログとかどんどん新しくリニューアルされちゃうわけだし。
冨山 新車は大丈夫です。しっかりセールス教育をやりますので。担当者も話の材料が増えますし。それより問題は中古車になったときです。
冨山 このクルマに何が付いていて、どういう機能だったかを追いかけるのが大変。特に難しいのがディーラーオプションで、そこはしっかり管理しなけばいけません。
小沢 でもある意味、クルマを小まめにアップデートするっていう手法は現代的なのかもしれません。やるほうは大変ですけど、スマートフォン(スマホ)だってそうじゃないですか。iPhoneなんて1年ぐらいで7とか8とか新しいのが出るし、そうでなくとも頻繁にアプリがアップデートされて進化していく。
冨山 そうなんです。商品力は通常時間と共に相対的に落ちていき、そこでたいてい「値引き」が始まります。
小沢 そうか。そういう意味では今のマツダのやり過ぎアップデート戦略は狙いにあってるんですね。最近マツダが取っている「値引きをしない」という戦略に。
冨山 値引きをしないで売るので、お客様が手放されるときの下取り価格も高いまま。定価ビジネスのほうがいいことも多いんです。
小沢 頻繁改良作戦は自動車価値の安定にもつながるわけだ。
冨山 下取り価格が高いということは安心して買い替えられることにもつながるわけで、例えば3年ずつ3回乗り換えるのと、1台を9年間使うのだと3年で乗り換えるほうが少ない負担で済むことにもなります。部品交換と車検代がかからないので。
小沢 そんなおいしい話があるんですか。でもそうしたら買い替えた後の中古車が困るじゃないですか。
富山 それはそれで適正価格で回っていけばいいんです。みんなハッピーですよ。
小沢 でも考えればこれを押し進めたものがサブスクリプションビジネス、つまり自動車定額サービスになるのかもしれないですね。保険代込み込みで月数万円を払ってれば、常にある程度新しいクルマに乗れて気持ちもいいという。
冨山 しかも、それができるメーカーは今のマツダだけなんです。
小沢 そうか。規模が小さいメーカーでしかこんな頻繁アップデートはできない。つまり定価販売ビジネスもできないと。
冨山 あとは頑張るだけです(笑)。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
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