「イケメン博覧会」の傾向は続く(映画P 春名氏)
ヒットメーカーが語る2017年(3)
2017年上半期の映画界は、実写版『美女と野獣』や、『パイレーツ・オブ・カリビアン』といったシリーズ作品が好調で、興行成績は「洋高邦低」に。邦画でトップ10に入ったのは、『名探偵コナン』『ドラえもん』のアニメ映画2本のみだ。邦画の実写では、女子中高生狙いの少女マンガ原作映画が乱立。ギミック(仕掛け)を盛り込んだ作品が目立つ。ヒット作の傾向を映画プロデューサーの春名慶氏に聞いた。
「上半期のヒット作は、ストーリー展開や登場人物がおなじみで、『つまらなかった』となるリスクの少ない、いわば『安心映画』の傾向がうかがえました。さらに近年顕著なのは、アニメーション映画の一般化。従来は『アニメは子どもが見るもの。大人になったら卒業する』という固定観念があったのですが、例えば『名探偵コナン』シリーズは、ファンが卒業しない。大人の観客も増え、年々興収が上がっています」
また春名氏は、現在の観客には「新旧並列」の感覚があると話す。「ネットで調べれば、新しいものも古いものも並列で表示される時代。だからネットネイティブの若い子たちは、『古いものはダサイ』とあまり思わなくなっている」
「一方で、作り手のメソッドも多様化しています。かつては旬のコミックや小説の映画化がトレンドでしたが、人気原作はそう簡単には出ないし、争奪戦も激しい。そこで各社、原作のありかを古き良きものに求める傾向が出ています。今年は『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』『先生!』など1990年代~2000年代初頭の名作が多く映画化されます」
小説原作の映画に勢い
近年、ヒットを量産するのが少女マンガ原作映画だ。春名氏は12年の『僕等がいた』をプロデュースして、その潮流を生み、以降『アオハライド』などをヒットさせてきた。
「メインターゲットは女子中高生。春休みなど、彼女たちが休みの時期に公開すると平日も動員が見込める。特定のコミュニティーに向けた映画のジャンルとして確立したと思います。しかも今の女子は、1つの友達グループで見て、さらに別のグループでも行く。映画をみんなで楽しみ、鑑賞後にカフェで語り合うまでがセット。アトラクション感覚の映画のイベント化を感じました。
内容的には、学園一の王子と恋バナ(注・恋の話の略)だけでは飽き足らず、2人に言い寄られてもまだ足らず、今年は複数のイケメンに好かれる作品が出た(笑)。『イケメン博覧会』のようなこのハーレム化傾向は、今後も続くのではないかと思います」
ただし、今春は少女マンガ原作映画が乱立し、観客を奪い合う現象も起きた。「今後は本数も沈静化していくのではないか」と話す。
対して勢いを感じるのが、小説原作の映画だ。春名氏のプロデュース作では『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』と『君の膵臓をたべたい』がヒット。秋以降も『火花』『ユリゴコロ』などの話題作が並ぶ。「小説原作に回帰することで、20代以上が映画館に戻ってくれるのではと期待しています」
物語構造で目立つのは、タイムリープ(時間移動)などのギミックを盛り込んだ作品だ。16年に大ヒットした『君の名は。』や、春名氏のプロデュース作『僕だけがいない街』『ぼくは明日~』にもギミックがある。
「タイムリープが増えたのは、今の若者がアニメやライトノベルで育った世代だからかもしれません。『そんなこと起こるわけがない』と思う展開も、彼らはナチュラルに受容するんです。それを僕は『アニメ脳』と呼んでるんですけど(笑)。また、彼らは恋人より友達作りに価値を置く。だから単純なボーイ・ミーツ・ガールだとリアリティーを感じないというか。エンタテインメントとしてのギミックがあることで、よりストーリーに興味を示すように思います」
余命わずかの主人公を描いた作品も増えている。「好みが細分化して、みんなが共感できる物語の材料が乏しくなっています。そんななか、いつの時代も変わらないものが生と死。誰しもが逃れられないテーマで、今後も余命モノは出るはず」
「それから『ラ・ラ・ランド』のようなミュージカルが、邦画でも出てくる気がしますね。今の若い人は幼い頃からダンスに慣れ親しんでいる。ミュージカルに対する抵抗感も少なそうですから」
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2017年10月号の記事を再構成]
10月17日(火)テレビ東京プロデューサー 佐久間宣行
10月18日(水)電通クリエイティブディレクター 篠原誠
10月19日(木)映画プロデューサー 春名慶
10月20日(金)音楽プロデューサー 蔦谷好位置
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