遅い夕食でも太りたくないなら お勧めは「分割食べ」
こちら「メンタル産業医」相談室(11)

こんにちは、精神科医&産業医の奥田弘美です。本格的な夏の暑さが到来しましたが、あなたの心と体の調子はいかがでしょうか?
前回「太らない人が実践する『3つの食習慣』」に引き続き、「太らない人の食習慣を活用してメタボを予防する」というテーマで筆を進めたいと思います。
前回はいくつになっても健康的でスリムな人は、次の3つの食習慣をキープしていることが多いとお伝えしました。
【太らない人の3つの食習慣】
その1「おなかがしっかりとすききるまで次の食べ物を口にしない」
その2「おなかがパンパンに苦しくなるまで食べず、いわゆる腹8分目ラインで食事を終えている」
その3「夜寝るまでの2~3時間は何も食べない」
また、「健全な空腹感」を起こすには、赤グループ(たんぱく質)、黄グループ(炭水化物・脂質)、緑グループ(ビタミン・ミネラル類)の3色をバランス良く食べること(かつできるだけ緑→赤→黄の順番でバランス良く食べること)が大切ということも説明しました。

「太ってしまう人」と「太らない人」、ここに差が!
実際「太らない人」と丸一日行動をともにしていると、彼らがそう簡単に次の食べ物を口にしないことがよく分かります。逆に「太ってしまう人」の食べる習慣を観察していると、のべつまくなしに食べ物を口に入れたり、炭水化物に偏った食事をしています。
笑い話のようですが、今までに「私、太りたいんですけど」と痩せ形タイプの男女数人から相談を受けたことがありましたが、そのとき「おなかがすかないうちに間食や食事をとり、しかもおなかがパンパンになるまで食べ続けたら太ってきますよ」とアドバイスすると、「そんな食べ方はとても苦痛でできません」とみな顔をゆがめていました。ちなみに彼らは、特に胃腸が虚弱というわけでもアレルギーで食べられないものが多量にあるわけでもありませんでした。
……というわけで、最近太ってきたなと気になる方は、まず「おなかがきっちりとすききるまで、次の食べ物を口にしない」ことを習慣化されることをお勧めします。併せて、その2「腹8分目ラインで食事を終える」という習慣も、ぜひ取り入れてください。
腹8分目ラインを守ると、良いことずくめ

この腹8分目ラインで食事を終えることは、生体的にとても理にかなっています。満腹になるまで食べると苦しくて動きにくくなります。しかも、体がだるく頭もボーっとします。そのため行動意欲や活動量もおのずと下がってしまうのです。
最近の糖尿病に関する研究では、食後すぐに10分間程度のウオーキング(有酸素運動)を行ったほうが食後血糖値が低下しやすいことが分かっています[注1]。血糖値が高い状態が続くとインスリンが分泌されてどんどん脂肪化しますから、食後すぐの運動は肥満予防に大いに有効だということ。腹8分目にしておくと、たとえ食後すぐにウオーキングができなくとも、キビキビ体を動かして仕事や家事にとりかかれ、おのずと太りにくくなります。
満腹になるまで食べる癖のある人は、腹8分目までというと「すぐにおなかがすいたら困る」と不安になるようです。しかし、血糖値は食後30分~1時間ほどでピークに達します。食卓を潔く離れてしばらくすると「ほどよい満腹感」を得られるので全く心配いりません。そもそも食卓で満腹になるまで食べてしまうと、「食べ過ぎ」の状態になることが多く、その溢れたエネルギーはどんどん脂肪化されていってしまいます。ぜひ今日からおなかがすききってから「緑→赤→黄」の順番でバランス良く食べるとともに、「腹8分目」で食卓をパッと離れることを実行してみてください。
子どもの頃は実は自然にできていた!?
実はこのその1とその2の習慣をつけることは、難しいことではありません。誰もが子どもの頃は持っていたはずの、自然でかつ合理的な太らないための食事習慣です。
[注1]Reynolds AN, et al.Diabetologia. 2016 Dec;59(12):2572-2578.
子どもを育てた経験のある方に尋ねると、「そうそう、子どもっておなかがすいていないと大好きなケーキやハンバーグでも残すわよね」「しかもおなかがちょっと満たされると遊びに行っちゃうし」とうなずかれます。私も2人の男児の子育てを経験しましたが、2人とも見事に幼少時からこの食習慣を持っていました。「もったいないから最後まで食べたら?」と小言を言ったら、「これ以上食べたらおなかがパンパンになって苦しいよぉ!」と怒る始末。「そうか、人は本来、おなかがパンパンになることを苦痛だと捉えていたんだな」としみじみ感動したことを覚えています。
ちなみに私はこの食習慣を彼らにキープさせるように心がけているので、長男次男とも青年期に入ってもやせ過ぎず太り過ぎずの健康的な標準体重をキープしています。
現在中年太りで悩んでいる人の多くも、子ども時代は太っていなかったはずです。それが大人になっていく過程で、本来人間に備わっていた太らないための食事習慣が何らかのきっかけで崩れてしまい、じわりじわりと太ってしまったという方が非常に多いのではないでしょうか。
例えば、結婚したために「おなかがすいてなくても、せっかく妻が作ってくれた食事を食べないと悪い」「残すと機嫌が悪くなるから」と、空腹や腹8分目を無視して食べるようになり太ってしまったということもよく耳にします(いわゆる幸せ太り)。また産業医としてよくお目にかかるのが、残業で遅くなったり接待が続いたりで、夜遅くに夕食を食べてすぐに寝てしまうというパターンです。
しかし、その3の「夜寝るまでの2~3時間は何も食べない」も、太らないようにするための非常に重要な習慣です。食べてからすぐ眠ると、最も血糖値が高い状態のときに最も代謝が落ちる睡眠状態となってしまい、食べたものがどんどん脂肪化されていってしまうので注意しましょう。
帰宅が遅くなる場合は「分割食べ」
私は、繁忙期などでどうしても夕食が遅くなってしまうというビジネスパーソンには、まず「帰宅が午後9時以降になると分かった時点で、帰宅前に潔く夕食を食べてしまいましょう」とお伝えしています。多くの方が出前やコンビニや外食店を活用すれば食べ物を調達することは可能でしょう。
どうしても家で食べたいと言われる方には、「分割食べ」をお勧めしています。まず午後7時ぐらいに主食のおにぎりやパンなどを食べておきます。すると血糖値が上がるため、脳にエネルギーが供給されサクサクと仕事が進みます。空腹を我慢してイライラしながら残業しているより、よほどメンタル的にもパフォーマンス的にも効果的です。そして、残業後帰宅してから、糖質と脂肪をできるだけカットした「あっさりした赤グループと緑グループのメニュー」を腹5分目程度まで食べるのです。もう眠るだけなので、腹5分目程度に抑えておいても何の問題もないはずです。

「刺し身とホウレン草のおひたしとワカメの味噌汁」とか「ボイルした鶏むね肉やノンオイルツナをのせた野菜サラダ」「たっぷりの葉物野菜やキノコ、豆腐、魚の寄せ鍋」といったメニューなら、糖質や脂肪を極力カットできるので、就寝後に脂肪化する率はぐっと少なくなります。
ちなみにこうしたメニューは、「おなかはそれほどすいてないけれど、夜まで食べる時間が全くとれないため何か食べておきたい」というときの昼食などにもお勧めです。お腹がすいていないときは本来食べないほうがいいのですが、どうしてもの場合は「あっさり赤グループと緑グループ」メニューを食べておくと余計な脂肪化を防ぎやすくなります。
第9回から3回にわたって、ビジネスパーソンと食事を話題に取り上げましたがいかがだったでしょうか?
私がダイエットに励んでいた約20年前も現在も変わることなく、様々なダイエット法が手を変え品を変え、次々と提唱され続けています。世間で提案されているダイエット法は、食事系にしろ運動系にしろ摂取カロリーが消費カロリーを上回るものであれば、ストイックに実践すると効果はそれなりに現れるでしょう。
しかしながら大多数の方が目標の体重までやせれば、ダイエットを中止して元の太りやすい食生活に戻っていきます。安全なダイエットを見極めるためにも第9回「ストレス・疲労に負けない食事 『赤黄緑を1:1:1』」でお伝えしたスタンダードな栄養学知識を身に付け、「太らない人の食べ方」を参考にされることをぜひお勧めします。
【こちら「メンタル産業医」相談室】
第10回「太らない人が実践する『3つの食習慣』」
第9回「ストレス・疲労に負けない食事 『赤黄緑を1:1:1』」
第7回「『変化疲れ』が五月病の原因に 注意すべきはこんな人」
第6回「過労死は『好きで仕事をしている人』にも起こる 」

健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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