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女性活躍推進法1年 100%対応の先に目指すもの 日経BP総研マーケティング戦略研究所長 麓幸子

2017/5/18

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 2016年4月の女性活躍推進法全面施行から丸1年たち、どんな成果が見えてきたか、また、女性活躍は次にどんなフェーズになるのか、政府関係者の取材をまとめた。

■約1万9000社が女性活躍にコミットした

 女性活躍推進法(推進法)では、301人以上の企業に対し、女性活躍に関する数値目標を設定し行動計画を策定、労働局に届け、社内周知、公表することを義務付けている。それに対し、17年3月末日現在で、義務である該当企業の99.9%にあたる1万5824社が届け出た。努力義務である300人以下の企業も2789社対応した。つまり17年3月現在、1万8613社が推進法に対応している。

 「いつかどこかのタイミングで100%に近い数字になるとは思ったが、予想以上に早かった」と厚生労働省雇用均等・児童家庭局の阿部充雇用均等政策課長。

 「むろん計画をつくったらそれでおしまいではなく、その計画を着実に実行することが大事だ。実効性を担保することに切り替える段階にきている。各企業に毎年取り組みとデータをチェックしていただきたい。特にえるぼし認定企業については認定取得後も年に1回、実績が認定基準を満たしているかどうかを確認させていただくことになっている」(厚労省・阿部課長)

えるぼし認定制度が始まり1年。17年3月末現在で、1つ星は1社、2つ星94社、3つ星196社となった

 「えるぼし認定」とは、女性活躍が優良な企業を認定する仕組みである。認定は3段階に分かれ、それが星の数で表される。つまり、女性活躍の「1つ星」「2つ星」「3つ星」企業が誕生したわけだ。17年3月末の認定企業数は291社。うち1つ星は1社、2つ星94社、3つ星196社となった。3つ星企業が一番多くなったのは、同業他社の動向も鑑み、「1つ星は取れるが2つ星、3つ星企業より進んでないように見られるから申請を出すのをよそう」「2つ星なら取れるが、どうせなら3つ星を取れるまで待とう」と考えた企業が多かったことが推測される。制度設計として、「1つ星→2つ星→3つ星」と女性活躍が進むように考えたのだとしたら、そのもくろみは外れたことになる。

 推進法は施行3年後に見直し作業をする。つまり来年の見直し時には、いろいろな課題(例えば女子学生に人気が高く応募者数が多い場合、評価基準の一つである「採用」の基準をクリアできにくいなど)とともに、「3段階設定の意味」も問われることになろう。

 見直しの際には、一層女性活躍状況の見える化を進める方法として、厚労省の「女性の活躍推進企業データベース」での情報公開を必須とすることを検討いただきたい。現在は、自社のWebサイトなどでの公表でもよく、同DBでの公開は必須ではない。1万8000社超が推進法に対応していても、同DBでデータを公開しているのは8479社(17年3月末現在)と半分に満たない。また、情報公開項目は1つ以上でよいため、企業によって情報公開度合いに幅がある。せめて重要項目は公開必須とするなど、一層の可視化が求められるだろう。

■現場から上がる「女性活躍を、えるぼし認定を」の声

 女性活躍推進法におけるもうひとつのインセンティブが、公共調達において加点評価する取り組みである。女性の活躍加速のために、各府省が、価格以外の要素で評価する調達(総合評価落札方式・企画競争方式)を行うときは、えるぼしや次世代法に基づく制度である「くるみん」や「プラチナくるみん」の認定企業等をワーク・ライフ・バランス等推進企業として、加点評価するという新たな取り組みを16年度から始めた。

 これまでは、男女共同参画等に関する調査、広報等で加点評価するという枠組みがあったが、ワーク・ライフ・バランス推進は、業務の改善や人材の定着等を通じて、事業の品質の確保・向上につながることも考えられるため、対象を拡大させた。14年度の実績は36事業10億円だったが、同年度で総合評価落札方式・企画競争方式は約4万から5万件で、公共調達全体8兆円のうち約5兆円規模(推計)となる。このように将来は加点評価を入れる案件が大幅に増える。

 「初年度の16年度において、加点評価の取り組みがどの程度行われたかについては現在調査中で、その結果は秋ごろに取りまとめる予定。加点評価の取り組みについては複数の省庁から相談もある。国土交通省では公共工事での加点評価も始まっている。また、今年度から独立行政法人等の調達においても同様の加点評価が原則全面実施される。独法数は183あるため、それなりの規模になるだろう」と内閣府男女共同参画局推進課長の大隈由加里氏。

 この公共調達におけるえるぼし認定等の加点評価が、推進法施行から1年たち、成果を見せている。「営業の現場から女性活躍をすすめてほしいとの要望が上がっている」という声を企業の人事担当者から聞くようになった。つまり、公共調達において、ライバル会社がえるぼしを取り、自社が取らないと、ポイント数で入札に負けてしまう可能性が高くなるため、女性活躍を進めてえるぼしを獲得し、受託する確率を上げたいということだ。理念ではなく利益に効くインセンティブの設定により、営業サイドから、「女性活躍の推進を」という要望が上がるようになったのである。

■「女性役員が複数いること」が最低基準になりつつある

 次の女性活躍推進の第2フェーズを考えてみたい。内閣府が実施している「女性が輝く先進企業表彰」を例にとる。3回目の16年度は、内閣総理大臣表彰にカルビーと損害保険ジャパン日本興亜の2社、内閣府特命担当大臣賞は5社が選ばれた。

平成28年度女性が輝く先進企業表彰式 。「内閣総理大臣表彰」は、カルビー、損害保険ジャパン日本興亜の2社(内閣府男女共同参画局ホームページより)

 「企業のレベルが上がってきている。自社内の取り組みだけでなく、それをもう一段進めて社会の女性活躍推進の取り組みを広げている会社も出てきており、選考で注目された」(内閣府男女共同参画局総務課政策企画調査官・大川内由美子氏)

 例えば、損保ジャパン日本興亜は、女性管理職比率が、12年3.9%から16年に12.3%に上昇するなど自社の女性活躍を進めるのみならず、全国各地の店舗網を生かして地方自治体や地元企業と連携し、地域の女性活躍を進める。15年度は全国14都道府県で異業種交流会を展開した。

 さらに、「女性の登用の実績については、管理職登用はもちろんだが、役員登用への注目度も高い。女性役員は2人以上いることが重視される」(同)。カルビー、損保ジャパン日本興亜ともに女性役員数は3人だった(表彰発表当時)。

 安倍首相が「全上場企業の役員に一人は女性の登用を」と呼びかけたのが13年。16年7月現在で全国に女性役員は1388人となっている。政府では、第4次男女共同参画基本計画において20年までに全上場企業の役員に占める女性の割合10%を目指すという成果目標を設定している。内閣府では、16年9月に「女性役員情報サイト」を開設、全上場企業の女性役員の状況を業種別に閲覧できるようにした。また、上場企業で女性役員がいる企業を一覧化したポスター「上場企業における女性役員の状況2017」を作成し、周知に尽力している。

■「ダイバーシティ2.0」ガイドラインに沿った新たな表彰制度も検討

 3月23日、経済産業省は、「平成28年度 新・ダイバーシティ経営企業100選表彰式・なでしこ銘柄評価発表会」を開催した。新・ダイバーシティ経営企業として、16年度は31社を表彰、なでしこ銘柄は47社、準なでしこは25社を選定した。そのとき、経済産業省経済社会政策室長の藤沢秀昭氏が「ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン」を発表し、話題となった。

 「初年度から5年たち、成長戦略としてのダイバーシティーは浸透してきた。昨年度は女性活躍推進法もできて社会的要請も強まり、企業の本気度も高まってきた。しかし、その半面、受動的、形式的な対応に陥りがちとの傾向も見受けられた。ダイバーシティーとは、女性をはじめとする多様な人材を生かし経営力を高める、いわば稼ぐ力を強くするために実施するもの。5年たち一定のレベルまできたが、もう一段自分の会社を強くするために何が必要かと考える意味で、研究会を立ち上げ、有識者や企業の経営者などに入っていただき、議論を重ねて、7つのアクションにまとめた」(藤沢室長)

3月に開催された「ダイバーシティ経営企業100選」の表彰式
こちらも3月に行われた「なでしこ銘柄」の表彰式。どちらも今年で5回目を迎えた

 7つのアクションのうち、目を引くのは、「(6)従業員の行動・意識改革」と「(7)労働市場・資本市場への情報開示と対話」である。

 (6)には、「…従業員一人ひとりが自律的に行動できるようキャリアオーナーシップを育成する」とある。日本企業の場合は、これまでキャリアパスの柔軟性が低く従業員個人がキャリアのオーナーシップを持つ必要は必ずしも高くなかったが、今後は企業が人材育成を図る上で多様なキャリアパスを自ら切り開いていけるように意識づけを促したり仕組みを整えたりすることが重要であるとする。

 (7)は、「ダイバーシティ2.0」を実現するためには、外部ステークホルダー、とりわけ企業に人材を供給する「労働市場」と、資金を共有する「資本市場」とのコミュニケーションが重要になるということ。労働市場においては、採用から、育成登用、リテンションに至るまで一貫した仕組みとストーリーを組み立てて労働市場に発信、資本市場においても、企業価値向上につながるダイバーシティーの方針・取り組みを、中期経営計画公表資料やアニュアルリポート等適切な媒体で、積極的に発信し対話を行うことを促している。

 「このガイドラインの7つのアクションに沿って自己点検いただき、より自社のダイバーシティー推進の取り組みを進化させる一つのツールとして使っていただきたい」(同)

 なお、経産省では、「初年度より5年たち、単発の取り組みではなく、会社全体で継続的に取り組んで会社の経営戦略としている企業も出てきているため」(藤沢室長)、このガイドラインに沿って、これまでのダイバーシティー選定企業205社を対象とした新たな一段上の表彰制度も計画中だという。

麓幸子
 日経BP社執行役員。筑波大学卒業後、1984年日経BP社入社。2006年日経ウーマン編集長、2012年同発行人。2016年より現職。2014年、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。筑波大学非常勤講師。内閣府調査研究企画委員、林野庁有識者委員、経団連21世紀政策研究所研究委員などを歴任。2児の母。編著書に『女性活躍の教科書』『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』(いずれも日経BP社)、『企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日本経済新聞出版社)などがある。
マーケティング戦略研究所

日経BP総研マーケティング戦略研究所(http://bpmsi.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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