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キャリアコラム

食のブランド創造、東北の被災地から世界へ 楠本修二郎カフェ・カンパニー代表取締役に聞く

2017/5/19

楠本修二郎カフェ・カンパニー代表取締役

 東日本大震災の被災地の食産業を支援する一般社団法人「東の食の会」は、東北の優れたブランドをたたえる「東の食のブランド・アワード」の初の表彰式を4月21日、宮城県女川町で開いた。同会代表理事であり、コミュニティーの創造を掲げた経営手法が外食業界で注目される楠本修二郎氏(カフェ・カンパニー代表取締役)に、6年間の支援を通して見えた被災地での食ビジネスの可能性について話を聞いた。

■仕事は食を通じたコミュニティーづくり

 ――東日本大震災後、東の食の会を立ち上げた経緯を教えてください。

 「震災直前に開かれた、3月のある会議が活動を始めるきっかけとなりました。あらゆる食産業の関係者が集まったその場で話し合ったのは、食を通じた総合生活文化のようなものをつくれないだろうか、ということ。日本には農業から食品製造や加工、流通、仲卸、外食までサプライチェーンが整っている一方で、業種別に分断されている印象が強い。これからはその垣根を越えてシームレスに協力し、例えば、外食まで含めて農業の未来を考えなければいけない時代になっていくんじゃないか、という問題意識が6年前の当時からあったのです」

 「その言い出しっぺがオイシックス代表取締役の高島宏平さんと僕でした。高島さんは農業や物流をやっていて、僕は外食にいるけど、もともと垣根がないタイプだから(笑)。そういうことを論じながら一緒にアクションしていく委員会をつくろうよ、と言っていたら、震災が起きてしまったんです。弊社にとってはその年が創業10周年の節目だったので、次のフェーズを考えていたときのことでした」

 「そして、震災の2週間後には高島さんと『あのアイデアを東北復興支援の会にしよう』と決めました。同年4、5月に被災地を何回か訪れ、6月に東の食の会を設立しました。サプライチェーンが失われた場所でこそ、できることがあると思ったのです」

 ――本業では都市部を中心に現在100店舗以上の飲食店を手掛ける経営者として、被災地での支援活動にどんな思いで関わっていますか。

 「僕はコーヒーショップという業態を目指して事業を始めたのではなくて、カフェを通じたライフスタイルの創造や人々をつなげる場をつくりたいという思いでやってきました。「CAFE = Community Access For Everyone」が設立以来のコンセプト。つまり、コミュニティーメーキングが僕の仕事なのです。カフェには多種多様な人があらゆるシチュエーションで訪れます。いつ、どこで、誰と、何を食べるか、それによって人の人生は設計できるんじゃないか、と僕は思うのです。現在、56のブランドを展開していますが、これもマルチブランド戦略というわけではなく、各地域に合ったブランド、コミュニティーをつくったら自然とそうなっただけ。だから、ある意味、被災地の生産者の思いを生活者に届けることも僕にとっては『カフェ』の仕事といえるのです」

■東北に生まれた復興ヒーローを表彰

 ――今回、発表した「東の食のブランド・アワード」では、宮城県山元町のミガキイチゴなどを表彰しました。被災地の食産業の担い手たちの成長をどのように評価していますか。

 「人間力あるいは経営者力といえるものを、わずか6年の間にぐいっと引き上げられた方々であり、その成長性の速さはたぶん日本の中でも突出していると思います。震災直後、宮城県女川町へ来た時はまだプレハブの仮設住宅しかなく、支援をどう始めればいいかもわからなかった。そんな中、事業を自分たちでやりたいと言っている若い漁師たちがいると聞き、とにかく会いに行きました。そこにいたのが阿部勝太君。アワードで『ネクストブレーク賞』に表彰した三陸の若手漁師チーム『フィッシャーマンジャパン』の現リーダーです。当時は20代前半のか細い青年で、体を震わせて、とにかく何か事業やりますとただそれだけ一生懸命伝えていた」

 「その彼がアワード表彰式で堂々とプレゼンし、成長した姿を見て感無量でした。ノミネートされた生産者の皆さんは、被災してこんなに大変だけど、頑張っているからご支援お願いしますとは、もはや誰も言っていない。最初は奥手に見えても、一度決めたらとことんやる、という東北の人々の強さ、精神性はとてもすばらしいんです。表彰して祝うだけではなく、東北には地元のリーダーとして皆を引っ張る復興ヒーローがたくさん生まれていることをまずは日本全国、さらに世界に伝えていくのが東の食の会の役割だと思っています」

■ダジャレからうまれたヒット商品

 ――もともと食文化が豊かな東北ですが、独自の食ブランドを生み出すためにどんな支援活動をしていますか。

 「一つには生産者と企業のマッチング、つまり、ダイレクトな販路の開拓です。なかなかバイヤーが被災地に来ることが難しいので、その商談会は東京でやろうと弊社のオフィスを会場に定期的に開いています。もう一つの活動はブランドサポートです。岩手県陸前高田市の新品種米『たかたのゆめ』や三陸の海藻『アカモク』のブランディングなど、いくつか事例があります。中でもヒットしたのがサバの缶詰『サヴァ缶』です。2013年に発売を始め、シリーズ累計150万缶が売れています。東北に向かうバスの中での『缶詰を作ろうよ』という何気ない提案が誕生のきっかけでした」

フランス語を生かした「サヴァ」缶

 「僕は海外旅行のおみやげによく缶詰を買うんですが、デザインや色もかわいいので喜ばれます。美食の街で有名なスペインバスク地方のサン・セバスチャンのバルでは、缶詰がそのままメニューになっているほど缶詰ステータスが高い。だけど、日本の缶詰は「鯖」という太文字と大漁旗の絵が定番でしょう。そうじゃなくて、おしゃれなスーパーに並べられて、思わず手に取りたくなる消費者心理から商品を作ろうよ、と提案したんです。「色は黄色だ」と決めてから話は盛り上がり、メンバーの口から飛び出したダジャレで、フランス語の『サヴァ』(元気という意味)という言葉を使い名前をつけました。地元特産品の素晴らしさをいかに伝えるか、という俯瞰(ふかん)した目線でコーディネーションする役割がブランドづくりには必要ですね」

■福島の生産者の素顔伝える

 ――現在、力を入れて支援しているプロジェクトはありますか。

 「『ふくしまプライド。』という福島県の農林水産品を支援、販売するプラットフォームづくりです。フィッシャーマンジャパンと同じ流れで、人のアクションそのものをブランド化しようとしています。特に福島の問題は風評被害が大きい。これまで僕らも放射性物質の数値を測定したうえで、この食品は安全ですよと伝える活動をしてきましたが、それだけでは受け入れてもらうのが難しい。だから、生産者たちのバックストーリーや農作物へのこだわりをウェブサイトなどで伝える活動を始めました。俺たちはこうやって農業をやっていますと彼らのプライドを見せ、ファンを増やしていく。風評被害に対する新しいアプローチです。

 ――東の食の会が目指す今後の目標を教えてください。

 「僕らが活動している、東の食の会という名前にはこだわりがあります。単純に東北被災地の支援の会なのね、と思われてしまうから、もっとポジティブにしたかった。食を通じて新しい東をつくるんだ、という気持ちが僕らにはあったのです。『東』は東北の東でもあるし、さらにはファーイースト、つまり東アジアの食の中心を、被災したこの土地から新しくつくっていくんだという意味合いをあえて込めています」

「東の食のブランド・アワード」の初の表彰式

 「活動開始から5年間の第1期で流通総額200億円を設定し、最終的に約150億円の成果を達成しました。昨年6月から第2期に入り、ここから先はヒット商品を多く作ろう、と目指しています。東の食のブランド・アワードもその一環の活動です。目標は2020年までにローカルブランドを10個、ナショナルブランドを3個、そして、グローバルブランド1個を生み出すこと。でも、第1回の表彰式を終えた今、もっと早く多くのブランドが生まれるような勢いを感じています」

楠本修二郎
 1964年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。リクルートコスモスを経て、大前研一事務所入社。平成維新の会事務局長に就任する。2001年、カフェ・カンパニーを設立し、代表取締役社長に就任。2011年6月に発足した一般社団法人「東の食の会」および、2013年にスタートした東京発の収穫祭「東京ハーヴェスト」の代表理事を務める。

(柳下朋子)

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