帝一の國、東京喰種… マンガの実写映画化に新しい波
マンガの実写映画化に新しい波が押し寄せている。2016年の『シン・ゴジラ』人気にも通ずるところがあるが、現実世界を舞台に、"ありえない"題材だが、どこか社会との接点を感じさせて共感を得ているタイプのマンガが今年、次々と映画化されているのだ。代表的な3作を紹介しよう。
1本目は、人気絶頂の実力派若手俳優・菅田将暉主演の『帝一の國』(公開中)。海帝高校の生徒会長になると、将来の内閣入りが確約されるという、なさそうでありそうな昭和の超エリート高校を舞台にした学園ドラマだ。
クラス長選びから文化祭、生徒会長選、そして利己的な大人たちの姿まで過剰な演出で描かれるシュールな世界観は、一見現実離れしているようにも感じる。優秀なのに器用ではないため苦悩する菅田演じる赤場をはじめ、家は貧乏だが明るく人望のある大鷹、目的のためには手段を選ばない氷室など、個性的なキャラクターたちが繰り広げる群像劇は、社会の縮図をほうふつさせる。
夏公開の『東京喰種 トーキョーグール』は、現代の東京を舞台に、社会と人とのあり方や巨大組織の人間関係までを描く。人肉を糧とする正体不明の"喰種(グール)"をテーマにしたダークファンタジー作品だ。人の姿をして人間社会に紛れ込む喰種に対して人々が取る行動、喰種同士の争いを前に、ある事件をきっかけに半喰種となってしまった主人公・金木研は何を思い、何を選択するのか。
■松竹は過去最大の製作費を投入
『東京喰種』の製作・配給は松竹。15年春、映画会社やテレビ局が大挙した原作の実写映画化権をコンペにより獲得した。山田洋次監督を擁し、少女マンガものでは実績はあるが、300館クラスのSFアクション超大作は初の試みだ。松竹の大角正常務は「一番はファンを大事に作りたい。屋台骨を支える作品にすべく、松竹史上最大の製作費をかけた」と語る。
作品に引かれた理由について、松竹の永江智大プロデューサーは「原作1巻のインパクトが圧倒的だった」と話す。「喰種が人を食べるときに使うカグネと呼ばれる触手の表現や、人の形をして日常に紛れて生活する彼らが『もしかしたら東京に本当にいるんじゃないか』と錯覚しそうになるなど、描写や設定にリアリティーを感じました」という。
映像化には「現実に落とし込むこと」に留意。「人間と喰種を、男と女や日本人と外国人といった他のものや、関係性に置き換えて考えられ、作品が言わんとしていることがさらに伝わるんじゃないかなと」。人間ドラマにも最新技術にも長けた萩原健太郎監督を起用。「若い世代で新しいテーマを」と意気込む。
秋には、死なない新種の人類〈亜人〉と日本国政府との戦いを、濃密な人間ドラマとアクションで描く『亜人』も公開。『るろうに剣心』(12年ほか)のアクションチームが参加することも話題になっている。
3作とも、万人の共感を促すような王道ストーリーではないが、現代を生きる我々を取り巻く環境に酷似しつつもドラマ性が高い。大ヒットに化ける可能性を秘めているといえそうだ。
(「日経エンタテインメント!」4月号の記事を再構成。文・山内涼子 平島綾子)
[日経MJ2017年4月21日付]
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