『美女と野獣』 日本では恋愛色を強調、大ヒット狙う
1991年に公開され、アニメーション映画として初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされたディズニーの名作『美女と野獣』が実写映画化された。『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニーで知られるエマ・ワトソンがベル役、テレビドラマ『ダウントン・アビー』で注目を集めたダン・スティーヴンスが野獣役を演じる。監督は『ドリームガールズ』のビル・コンドン。今年はミュージカル映画の当たり年とあって、本作は興行収入100億円を超える大ヒットが期待されている。
ある城に、魔女に呪いをかけられ野獣の姿に変えられた王子がいた。魔女が残した一輪のバラの花びらがすべて散るまでに、誰かを愛し、愛されなければ永遠に人間の姿には戻れない。希望を失いかけていた野獣と城の住人たちの前に、村の美しい娘ベルが現れる――。
『美女と野獣』といえば、アカデミー歌曲賞に輝いたメインテーマをはじめとするミュージカルナンバーも大きな魅力の1つだ。実写版でも、それらなじみの曲が使用されている。そこで気になるのは、エマ・ワトソンの歌声だろう。ミュージカル経験のないワトソンだが、本作では美しい声を披露。歌い上げるというより、語るように歌う爽やかな声質が印象的だ。
アニメーションの世界観はCGで再現される。給仕頭ルミエール(ろうそく台)と執事コグスワース(置時計)の名コンビをはじめ、料理番ポット夫人(ティーポット)など、アニメーション版で個性が際立っていた城の住人たちは、より愛嬌のある姿に。また、城の住人たちがベルをもてなしながら歌い踊る『ひとりぼっちの晩餐会』や、主題歌『美女と野獣』に乗せてボールルームで黄色いドレスを着たベルが野獣と踊る場面といった、アニメーション版での名シーンの数々は、豪華絢爛さをさらに増して実写化されている。
注目したいのは、より繊細に描かれる野獣だ。俊敏で力強い動きをする一方、目は繊細に動き、心の陰や細かい芝居がしっかりと伝わる。野獣の作成にあたって、体の動きをデータ化してコンピュータに取り込む「パフォーマンス・キャプチャー」と、顔の動きをデータ化する「フェイシャル・キャプチャー」を併用。実際にダン・スティーヴンスがエマ・ワトソンと演技をした際の動きが取り入れられており、目の部分はダン・スティーヴンスの目が使われている。
ミュージカル界の名優集結
本作は、日本語吹き替え版も人気を集めそうだ。「プレミアム吹替版」と称し、ベルの声を務める昆夏美、野獣役の山崎育三郎をはじめ、島田歌穂、濱田めぐみ、吉原光夫らミュージカル界で活躍している俳優を中心にキャスティングされている。日本語で歌われるミュージカルナンバーの数々に酔いしれたい。
『美女と野獣』は今なお原作の人気が高いうえに、劇団四季のミュージカル公演もあり、知名度は抜群。興収100億円を超える可能性は十分あると見込む関係者は多い。配給するウォルト・ディズニー・ジャパンでは、日本の市場にあわせたマーケティング戦略をとって、大ヒットを狙っている。宣伝ビジュアルなどで恋愛色を強調したことと、観客の好みにあわせて複数の上映バージョンを用意したことだ。
アメリカ版のポスターは、ベルと野獣を中心に他のキャストも掲載したミュージカル風の構図になっている。しかし日本では、主役のベルと野獣のみに焦点をあてたビジュアルを採用し、2人の愛の物語を強調。ディズニーファンや大人の女性にアピールする。
また本作は字幕版、吹き替え版、3D版と様々な選択肢を用意し、劇場によって上映バージョンを変えるという。ファミリーから大人まで幅広い層の来場、さらにリピーター客も呼び込み、息の長いヒットにする構えだ。
(ライター 相良智弘)
[日経エンタテインメント! 2017年5月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。