有名腕時計メーカーが作ったスマートウォッチが面白い
スマートウォッチを「ファッション」として売る――。
いまだ決定打に欠けるスマートウォッチ市場に新たな一手を打つのは、アメリカ・テキサス州に本拠地を持ち、約150カ国で時計ブランドを展開するFossil Group(フォッシル・グループ)だ。社名を聞いてもピンとこない人も、「DIESEL(ディーゼル)」「SKAGEN(スカーゲン)」など、同社が取り扱うブランド名は耳にしたことがあるだろう。
同社の日本法人であるフォッシルジャパンは2016年9月20日、計7ブランドからスマートウォッチなどのウエアラブル端末を順次発売している。従来、一部の家電・パソコンメーカーが中心となっていた市場に、腕時計ブランドとして参入することで、デザイン性を重視する消費者にアプローチしていく。
実は、同グループはスマートウォッチの先駆け的企業でもある。2005年には腕時計型PDAを、2006年にはBluetooth対応の腕時計を製作している。その姿勢もあって、スマートウォッチ向けに開発されたOS「Android Wear」への取り組みも早かった。グーグルが同OSを発表した2014年には、ウエアラブル機器に注力しはじめていたインテルと提携している。
2015年10月には、Android Wear搭載デバイスの「Fossil Q」シリーズを発表。同年11月には、ウエアラブル製品を製造していたベンチャー「Misfit」を買収し、アクティビティトラッカー(活動量計)の分野にも本格的に手を広げ始めている。
展開するのは3種類
そんな同社は日本市場向けに、ライセンスブランドを含む7ブランド(FOSSIL、Misfit、SKAGEN、DIESEL、EMPORIO ARMANI、kate spade new york、MICHAEL KORS)で、先述したように全107型のウエアラブルデバイスを2016年9月から順次投入している。
これらの製品は、タッチスクリーン式のスマートウォッチ、外観はアナログ時計でスマートウォッチとペアリングする「ハイブリッドスマートウォッチ」、活動量測定機能などを有するアクセサリー「トラッカー」の3種類に分かれている。
自社ブランド「Fossil」で展開するモデルの一部は、既に発売が開始されている。今回はスマートウォッチの「Qマーシャル」とハイブリッドスマートウォッチの「Qネイト」を実際に使用してみた。
王道モデルの魅力とは?
スマートウォッチタイプの「Qマーシャル」(税込み3万9960円)はタッチスクリーンを搭載するスマートウォッチだ。今回チェックしたのは、ステンレススティールバンドの男性向けモデル。ケースサイズは45mmで厚さ14mm。円形のディスプレイを搭載している。
同機はAndroid Wearを搭載しており、Android 4.3以上のスマートフォン(スマホ)や、iPhone 5以降、iOS 8.2以降のiPhoneに対応。ただし、iPhoneで利用する際は、使える機能が一部限定される。
Qマーシャルは、文字盤のデザインをその日の気分や服装に合わせて変更できる。これは普通の腕時計にはない、スマートウォッチならではの魅力だ。一方、ディスプレーが完全な円形ではないことがやや気になった。細かい点ではあるが、デザインを売りにしている端末としてはもったいない。
Androidスマホとペアリングすると、Android Wearの標準機能を利用できる。腕を振って操作したり、「OK Google」コマンドで音声操作を行ったりすることも可能だ。
バッテリー駆動は最長24時間。毎晩の充電は必須だが、マグネット式のワイヤレス充電器が採用されており充電しやすい。アダプター部分にはライトが付いていて通電時に光るため、うっかり充電できていないというミスを防げる。
アナログとデジタルのよいとこ取り
「Qネイト」(税込み2万8620円)は「ハイブリッドスマートウォッチ」と呼ばれる製品だ。アナログ時計のデザインを採用しつつ、スマホの通知確認や遠隔操作に対応するなど、多機能さがユニーク。Android OS 4.4以降のスマホ、またはiPhone 5以降、iOS 8.2以降のiPhoneに対応し、「Fossil Q」アプリ経由で設定を行える。
ラウンド型のケースは、サイズ50mm・厚さ13.5mmと大きい。また、5気圧防水に対応しているので、水場での使用も問題ない。今回、レザーバンドモデルを使用したが、防水のためか腕に接する面は樹脂製で、質感は若干硬かった。
ケース右側面には3つのボタンが付いており、それぞれに機能が割り当てられている。上部ボタンを押すと時間が確認できる。ベゼルに日付が記されており、そこを指し示すという仕組みだ。
中央ボタンでは項目ごとの値を確認可能。例えば、サブダイヤルを「アラーム」に合わせたときには、アラームの設定時刻に針が移動する。そして、下部ボタンでは、カメラのシャッター操作や、見失ったスマホから音を鳴らす操作など、スマホのリモートコントロールが行える。
スマホの通知は、バイブレーションや針の動きで分かる。例えば、電話の通知では相手によって針の位置を設定可能。友人なら1時、家族なら3時といった具合だ。また、活動量の目標値を達成した場合にも針が回転して知らせてくれる。
電池持ちについては、充電不要で最大6カ月間利用可能。毎日充電する手間がないのは最大のメリットだ。付属の金具などを使ってケース裏面を開ければ、電池も簡単に交換できる。
「ファッションとの融合」は成功するか
フォッシル・グループは1984年に米国・テキサス州ダラスで創業した比較的若い腕時計メーカーだ。1989年には、スチール缶に腕時計を入れて販売する「TIN CAN(ティン・カン)」をスタートし、その斬新さで注目を浴びた。時刻を確認する役割を携帯電話に奪われた腕時計をファッションアイテムとして演出してきた功労者でもある。
今回もフォッシルは得意の演出によって、スマートウォッチをファッションアイテム化しようとしている。これに成功すれば、アナログ腕時計かデジタル腕時計か製品のデザインを選ぶような感覚で、店頭のスマートウォッチを手に取る時代が来るのかもしれない。
筆者は「Fossil Q」シリーズを使ってみて、特にハイブリッドスマートウォッチに強い期待を抱いた。音声コマンドや文字盤変更は利用できないが、アナログ腕時計なのに通知やスマホの遠隔操作が行えることは魅力的。毎晩の充電が不要となる点も大きい。
今後、こうした洗練されたデザインのブランド時計が次々に出てくれば、スマートウォッチの選び方もまた変わってくるかもしれない。
(ライター 井上晃)
[日経トレンディネット 2016年11月2日付の記事を再構成]
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