会社の先輩を追い越して管理職になりました
著述家、湯山玲子
会社の先輩を追い越して、管理職になりました。管理・指導の際に「昔は○○だったのに……」などと言われそうで、気を使ったり、ためらったりしてしまいます。どんな態度で接すればよいのでしょうか。(香川県・40代・男性)
90年代の初頭ぐらいから、日本の会社はそれまで当たり前だった、年功序列アンド終身雇用を崩壊させ、実力成果主義に移り変わっていきました。私がかつて働いていたのは若い会社だったので、年下管理職と年上部下という事態は世間に先んじて実行され、その時の社員の戸惑いはかなりのものでしたが、あれから20年を過ぎても、状況は変わっていないのだなあ、と。
まず、相談者が心に刻まなければならないのが、年上部下は年下管理職のことを絶対に歓迎しないという点。年上部下も会社のシステムは理解しているので表だっての抵抗は少ないと思いますが、心の中では百パーセントそう思っているので、油断してはいけません。
一見効果ありに見えて、そうでもないのが「下手に出てへりくだって、みこしを担いでやるか、と年上部下に思わせたい」という戦略。ヨイショの達人だった故・橘家圓蔵師匠クラスの達人ならともかく、普通の人間がこれをやると、その本心はすぐに見透かされ、逆に年上部下は相談者をナメ始め、管理職イジメのようなことが起きる可能性がある。「気を使った方がいいかも」ということが、ヘタするとこういう事態を引き起こしがちなので、注意が必要です。
年上を追い越して管理職になるとは、ボスになるということ。ならば、上司ぶりを徹底したほうがいい。「この報告書だと上に通らないので、書き直して下さい」とクールにさばく。新しい上下関係にボス自らが適応することで、部下も納得する。「会社のルールだからしょうがない」と思いたい年上部下のプロ意識に訴えかけるのです。
気をつけたいのは、ダメ出しは人目のないところで行うべし、ということ。人前で恥をかかされる、というのは、我慢の生命線なので、ここを破ってプライドを傷つけると、後に相当面倒くさい事になるのは必須。そして残念ながら年上部下がマトモではなく、職場で相談者をおとしめるような暴言や態度を表明し始めても動じないこと。なぜなら人事評価というキャスチングボートは相談者の方にある、という厳然たる事実のもとに、年度末に適切な判断を下せばいいだけなのですから。
年下管理職がフェアで、私利私欲ではなく会社の利益を考えて行動するならば、年上部下も納得して従っていきます。しかし、そうではないのならば、彼らはすぐに心中のロックを外し、抵抗してくる。下手に出る戦略は逆効果、人目のないところで注意、そしてもちろん敬語使い。この三点でリーダーシップを取っていきましょう。
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[日経プラスワン2016年10月8日付]
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