夫との共通点があまりにもありません
作家、石田衣良
夫との共通点があまりにもなくて、いまさらながら当惑しています。例えば、私は学生時代は体育会に所属したアウトドア系ですが、夫は文系のインドア系、食べ物の好みもがっつり系とさっぱり系、加えて背の高さや体型も真逆です。友達に「なんでこんなに違う2人が結婚したの」と聞かれるたびに、私も答えに困ってしまいます。(東京都・30代・女性)
まず最初に、おめでとうございます。ご相談の文面を読むと「これほど共通点がない真逆のふたりなのに、周囲から不思議がられるほど幸せな夫婦生活を送っている」という事実がほんのり伝わってきます。
結婚で一番大切なのは、そこ=いっしょにいるとなんとなくしっくりくる(しあわせ)ことじゃないでしょうか。あとは相手が宇宙人だろうと、サイコキラーだろうと、別にかまわない。
かくいうぼくも幼いころから、読んだ本を人に薦めることはありませんでした。どうせ周囲の誰も読んでないから別にいいや。この癖はいまだに変わらず、職業上推薦図書を求められない限り、身のまわりに本を薦めたりはしません。誰かと共通の趣味をつくり、ともにたのしむ習慣が欠落しているのです。
一般にカップルの場合、相手に未知の部分が残っているほど関係は永続きするものです。夫が書斎派の文系で、自分がアウトドア派の体育会系おおいにけっこう。相手に無理やり自分の趣味を押しつけない限り、夫婦は異なっているほど、より有利なのです。結婚生活の大敵「飽き」がなかなかきませんからね。
それにですよ。友人からなぜ結婚したのと質問され、「共通の趣味があるから」なんて底の浅いこたえを口にするほど、悔しいことはないではありませんか。誰かを愛し、一生のパートナーとして決定する。その選択にはもっと言葉にできない不思議な相性やら愛情やら魔法やらがあってほしいものです。
ただひとつ、体型に関してはあなたの説は弱い。たくさんのカップルを見てきたぼくの経験では、肉体的な特徴について自分と正反対の異性を求める癖が、多くの人にはあります。背の低い男性は背の高い女性が好きですし、やせた女性はちょいポチャあるいはむっちり型のたくましい男性が好き。逆もまた真で、たいていは自分が考えるウイークポイントを補うような異性を選択するようです。
共通の趣味をたのしむ似た者同士の夫婦も、もちろん悪くはありません。でもね、こっそり本音をいうなら、それも若いうち。今から二十年後くたびれた旦那を急き立て、無理やり芝居に連れていってもたのしいはずがない。なにせ敵は大口を開けて最前列のプラチナシートで居眠りをする始末。好きな二枚目俳優と見比べて、彼我の差にがっかりなんてね。夫婦は似ているほうがいいなんて迷信は、さっさと捨ててくださいね。
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[日経プラスワン2016年9月31日付]
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