森昌子デビュー45周年 「歌を語る」新境地

森昌子が「せんせい」でデビューしたのは1972年。結婚を機に引退して歌から遠ざかっていたが、2006年に20年ぶりの復帰を遂げて話題を呼んだ。あれから10年。1日に開いたデビュー45周年記念公演の会場は自らの希望で決めたという東京都心のジャズクラブ、コットンクラブだ。
同日発売された加藤登紀子プロデュースの新作アルバム「百年の恋歌~時を超えて~」から5曲を披露したのをはじめ、「哀しみ本線日本海」「おかあさん」といった代表曲の数々を歌い上げた=写真。
アルバム制作に当たって加藤からマンツーマンのレッスンを受けた。歌唱力には定評があるのに「自分のコップにたまっていた水をすべて捨て、新しい水を入れてもらった。声帯の筋肉や舌の使い方、口の開け方など、根本から教えていただき、歌い方は180度変わりました」という。
加藤からアドバイスされたのは「歌の主人公になりきって歌うのではなく、歌を語ってみませんか」ということだったそうだ。この夜、その新境地を堂々と披露した。言葉がしっかりと伝わってくるのはもちろん、声の艶やかさや情感の細やかさはさすがだった。
ライブでは編曲や演奏の良さも際立った。アレンジ担当はロックバンド、ムーンライダーズの白井良明だ。特に素晴らしかったのは「立待岬」と「越冬つばめ」。おなじみの演歌を野性味あふれるハードなロックサウンドで彩り、森の歌声の凜(りん)とした美を浮き彫りにした。ゲストで参加した松本俊明のピアノも現代的かつ詩的で、歌のドラマにぴったりと寄り添っていた。
サウンドやアレンジ次第で演歌もがらりと変わる。森クラスのスターには自身の歌だけでなく、歌謡界全体の新境地を開く役割も期待したい。その一歩ともいえるライブだった。(俊)
[日本経済新聞夕刊2016年7月6日付]
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