社員の残業減 秘訣は図解思考とホワイトボード
インターネット関連企業のショーケース・ティービーは、徹底した業務効率化を目指すことにより、従業員の残業時間を大幅に削減することに成功した。長時間労働になりがちのエンジニアでさえ、月の平均残業時間は17時間だ。同社が残業時間を減らせた理由は「思考塾」などを通じた意識改革、そして「ホワイトボード」「スマートフォン(スマホ)」という情報ツールの活用である。
「図解思考」植え付け効率アップ。残業がぐんと減る
ある日の夕方、ショーケース・ティービーの会議室に、20人強の社員が集まった。「思考塾」に参加するためだ。
思考塾は同社COOの永田豊志さんが実施しているワークショップスタイルの社内研修。永田さんは「知的生産研究家」としての顔も持ち、ビジネススクールや外部企業向けに講師を務めたり、これまで13冊以上の本を執筆してきたりした。思考塾は約1年間、同社内で実施。部門・上司部下・国籍を超えたグループ編成で、1回2時間で5~6回、「図解思考」をたたき込んだ。
図解思考とは、人の話を聞いてメモを取ったり、資料をまとめたりするときに、図解を多く用いることで、理解しやすく、覚えやすくする方法のこと。仕事ではどのように生かせるのだろうか。
具体例を見てみよう。
例えば、以下のような説明を聞いたとき。
・A社の同業B社にも30%出資
・業務提携しているC社もA社に50%出資
・C社の親会社D社は、わが社の筆頭株主
上記のように箇条書きでメモを取ると、結局、どの会社が支配しているか分かりにくい。
そこで、下のような図にまとめると、一目で全体像が把握できるというわけだ。情報を構造化して理解・記憶するので、その情報が必要なときも、さっと思い出せて使いやすいという。
自分のノートだけでなく、プレゼンや提案、会議や商談、ビジネス分析などにも利用でき、仕事のスピードが目に見えて向上することもあるという。
壁という壁にホワイトボード
次に「ホワイトボード」。ショーケース・ティービーでは社内で多くのホワイトボードを活用している。その総面積は約75平方メートル。執務スペースや会議室など、部屋の壁はホワイトボードになっており、連絡事項をシェアしたり、壁の前で話し合ったりできる。壁などに貼り付けられる、ホワイトボードの役割を果たす「白いシート」も大活用。貼って書き込み、違う部屋などに運ぶこともできるアイテムだ。
「何かを話し合う必要があるとき、ホワイトボードのある壁の前に集まって、図にまとめながらささっと15分ほどで打ち合わせができます。情報が見える化するので、自然に意見も出やすくなります。またアイデアは豊富なのに、対面の会議だと発言するのが苦手な人でも、皆がホワイトボードという一点を見ている状態だと、自然に言葉が出やすいのです」(永田さん)
会議だとどうしても、あらかじめ各人の時間を確保して、その時間中は会議を続ける…という状況になる。開催までにタイムラグが発生するほか、開催時間も長くなりがち。ここでも数十分の効率化が図れることが多い。
ホワイトボードの前で打ち合わせした後は、その図やメモをスマホで撮影し、後で見返したり回覧したりする。ショーケース・ティービーでは、スマホ向けの商品などを提案していることもあり、全社員にスマートフォンを支給している。
このような取り組みにより、同社の離職率は、2012年の20%から、2015年には10%強に減少。思考塾や社内大学を開催し、「ビジネスに役立つことを学びたい」という社員の意欲に応えたほか、結果として業務が効率化し、仕事と私生活のバランスが取りやすくなったためではと永田さんは分析する。
幹部が率先して定時で上がる
COOの永田さん本人も、3歳の子どもがいるパパ。「トップ自らが帰らないと、従業員は帰りにくい」ということも十分に理解しており、普段は定時に仕事を終えている。子どもに朝ごはんを食べさせ、お風呂や寝かしつけなどもほぼ毎日、永田さんが行っている。
「僕だけでなく、部長クラス以上でも育児と仕事を両立したい、という人は非常に多いです。定時で上がるという意識が根付いており、独身の社員でも勉強したり、趣味に没頭したりと時間の使い方が非常に上手」
「必ずしも残業がダメ、というわけではありません。それよりも、時間を決めずにダラダラ仕事をすることが一番ダメだと思っています。例えば、長期休みを取る前には、それまでにやるべき仕事を終わらせたり、引き継ぎをしっかりしたり、多くの人ができるでしょう? そういうときに比べて、普段はいかにのんびり仕事をしている人が多いか、ということです」
永田さん自身も、その日のタスクリストを基にスケジュールを組んでいるが、1時間よりも長くかかる仕事は、15分~1時間の単位に細分化することを心がけている。以前は、自分がどれくらいのスピードで特定の業務ができるのか、メール1通に平均何分かかるのか、調べるためにストップウオッチを手元に置いていたとか。
「仕事が終わらない人は、たいてい時間の見込みが甘い人。自分がどれくらいの時間で特定の仕事ができるのかを理解し、急な仕事が入ったときは、優先順位をつけて翌日に回すなど工夫することも大事」と話す。
週5日快適にリモートワークできる環境を整える
同社には、仕事と育児が両立しやすい「文化」だけでなく、「制度」ももちろん整っている。子の看護休暇は5~10日あり、男性社員の取得率は4割。育児休業や時短勤務を利用する男性社員もいる。
また子育てに限ったものではないが、リモートワークができる環境も整いつつある。今も配偶者の転勤や、介護のためなどに台湾、茨城などにいる社員3人が、毎日リモートワークを実施。つなぎっぱなしのテレビ電話を使うことで、滞りなく仕事ができているという。
「利用しているのは、みな正社員、しかも上級職です。地方にいても仕事ができることが証明されています。ただ、リアルに表情などを見られる環境に比べると、同じ業務をしていても負担が大きい面もある。サポート体制などを整えて、もっと大勢の社員向けに広げていきたいと思っています」
「育児や介護などで、『出勤できない』という理由だけで、優秀な人が辞めていったり、優秀な人を雇えなかったりすることは、とても残念。その意味でリモートワークは今後、ますます重要になっていくことでしょう」
四半期ごとの成果発表会では、本業のほかに「どれだけ生産性を高める工夫をしたか」という視点での評価もある。例えば、繰り返しの仕事をサポートする自動化ツールを作ったり、メンテナンスのリストを仕分けしてくれるアプリを作ったり。業務時間を減らす工夫をした人は、それも評価される仕組みだ。
「シリコンバレーなどのIT企業では、定時になるとスパっと仕事を切り上げる人も多い。業務が増えても、人を増やさず残業もしないで、できる方法を考えている」と永田さん。「人が足りない」と嘆いている、多くの企業にとってもまねできることがありそうだ。
(日経DUAL 砂山絵理子)
[日経DUAL 2016年4月15日付記事を再構成]
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