女が眠る時
スリル、妄想、解のない謎
夏の海辺のリゾートホテルで展開する、ミステリアスな数日間のストーリー。
香港出身で、アメリカで撮った「ジョイ・ラック・クラブ」(1993年)、「スモーク」(95年)等で名匠となったウェイン・ワン監督のはじめての日本映画だ。
30代後半くらいかと思える夫婦。夫、健二(西島秀俊)は、デビュー作で文学賞を受賞したが、ここ数年は何もかいていない小説家。妻、綾(小山田サユリ)は、文芸編集者。
逗留(とうりゅう)1日目、プールサイドのデッキチェアに寝そべる健二は、綾にうながされプールの反対がわにいる男女に目をやる。
少女の無垢(むく)さをのこした白いビキニのわかい女、美樹(忽那汐里(くつなしおり))と、ワイシャツに黒いズボンの、白髪まじりの男、佐原(ビートたけし)。見た目も、年齢的にも不つりあいだ。男は、なれた様子で女のからだに日焼けどめを塗る。どんなカップルなのか。
興味をひかれた健二は、それから、二人の行動をさぐるようになる。地元のまちに出た二人のあとをつけたり、芝生に面した1階の彼らの部屋をのぞいたり。
健二の視点で、のぞき見的なスリルをじっとりとにじませる前半のかたりくちは興味をひきつける。
佐原は、美しい下肢をあらわに眠る美樹をビデオで撮影している。もう10年間、毎日だ、と彼は健二にかたる。原作はスペインのハビエル・マリアスだが、この辺は川端康成的な趣味が混じっているのではないか。
二人のことを知るにつれ、健二の妄想もたかまる。
さまざまな謎がふきあげてきて、しかし、これはミステリー・エンタテインメントではないので、ひとつの解答は出ない。視点をかえて見ると、さまざまな模様が想像できるようにつくられている。とはいえ、終盤、いろいろな可能性を暗示しすぎて混乱をきたしているのが残念。1時間43分。
★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2016年2月19日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。