ディーパンの闘い
難民の再生、スリリングに
難民問題は今日の世界の大きな焦点であるが、難民が滞在を許可されたとしても、環境や文化の違いから生じる軋轢(あつれき)や差別が待ち受けている。そんな難民の現実を、フランスに定住したスリランカの偽装家族が新たな家族として再生する姿を通してリアルかつスリリングに描き出している。
スリランカで民族独立を訴える「タミル・イーラム解放の虎」の元兵士で、政府軍との内戦で妻子を失ったディーパン(アントニーターサン・ジェスターサン)は、赤の他人の若い娘と少女を妻ヤリニと娘イラヤルに見立て、3人家族を装ってフランスに逃れる。
難民審査を何とか通った3人は、パリ郊外の集合住宅に落ち着き、ディーパンは団地の管理人、ヤリニは家政婦の職に就き、イラヤルは小学校でフランス語を学ぶ日々を送る。この団地は麻薬の密売組織の拠点となっていて、そのリーダーはヤリニが世話する老人の甥(おい)だった。
映画の前半は難民、偽装家族、麻薬密売という社会問題が重ねて描かれる。外では家族を装いつつも部屋では他人という疑似家族が次第に打ち解けて、例えばディーパンとヤリニが結ばれ、子育ての経験のないヤリニが実の母親のようにイラヤルに接するなど、3人が心を開いていく様子が丁寧に描かれる。
後半は、パリに潜伏する元上官からディーパンに武器調達の命令が伝えられ、また麻薬の密売組織の抗争が団地で始まる。ディーパンは新たな家族の絆を守るため、自分の中ではすでに終わった闘いを再び始めるが、その姿はフィルム・ノワールのような迫力ある描写であり、実にスリリングな展開になっている。
ジャック・オディアール監督は、骨太な演出で人間ドラマを構築。主演のジェスターサンは亡命した実際の元兵士であり、映画出演はこれが初めてとなる。1時間55分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2016年2月12日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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