2次元は古い? 飛び出す絵本、3Dに「わぁ」
わたしたちが絵本に抱いていたイメージをくつがえす、ちょっと変わった3D(3次元)のしかけ絵本が話題を集めている。90度に開いたり、手のひらの上で360度に開いたり。2次元の中に立体的な世界が広がって、思わず「わあっ」と驚きの声を上げてしまう。進化するしかけ絵本は子どもだけでなく、大人も魅了している。
福音館書店(東京・文京)は昨年10月、しかけ絵本「かがみのえほん」シリーズ(渡辺千夏さん作、税抜き1500円)を発売した。各ページに鏡のように反射する特殊な紙を使用。ユニークなのは「90度に開いて楽しむように」との説明書きだ。90度に絵本を開くと双方のページに絵や文字が互いに映り込む。2次元のページの中に3次元空間が広がってみえる。
シリーズは2冊。「きょうのおやつは」は、卵をフライパンに割り入れたり、牛乳を注いだりしておやつを作る過程を描く。湯気がふわふわ上がる様子が立体的に見えて臨場感あふれる。もう1つは「ふしぎなにじ」。鮮やかな虹の絵が反対側のページの虹と重なり合ったり、虹の数が増えたり。視覚で楽しむトリックアートだ。「ユニークな絵本で多くの人に『わあっ』と言わせたい」(作者の渡辺さん)
名古屋市の会社員、夫馬麻衣さん(30)の長男穂月くん(1)は「ふしぎなにじ」がお気に入り。麻衣さんによると、鮮やかな色と独特なデザインに加えて「自分が映り込んでいるのが楽しいみたい」。麻衣さん自身も「膝にのせて読み聞かせるときに、鏡で子どもの表情が見えるのも安心できていい」とほほ笑む。
名古屋市の教員、三田村明花さん(30)は、これまで友人3人の子どもの誕生日や出産祝いに「かがみのえほん」をプレゼントした。友人の子どもで4歳の女の子は、「きょうのおやつは」を開いたとたん、絵本の後ろをのぞき込みながら、「あれ、この絵本の後ろどうなっているの?」とつぶやいたという。
三田村さんは「4歳くらいになるとこの絵本の不思議さがわかるようで、絵本の仕組みを知りたがっていた。年齢ごとに目を付けるポイントが変わってくるので長く楽しめそう」と話す。
発売から4カ月で、「きょうのおやつは」はすでに5刷、「ふしぎなにじ」は4刷。特殊な製法を用いて制作に時間がかかるため、現在入荷待ちの書店や通販サイトもあるという。
360度に開く絵本も登場している。「360°Book」シリーズ(大野友資さん作)は、手のひらサイズの絵本が円形に360度開く。絵本の1ページ1ページを細かくレーザーカッターで切り抜いて製本する。
14年初めから米国のデザイン会社、アルテクニカの通販サイトで一部作品を販売している。価格は32ドル。購入者からは「一見すると本だが、開くと立体的なオブジェとして楽しめる驚きがある」という声が寄せられているという。
若手デザイナー、梶原恵さんと新島龍彦さんが制作したしかけ絵本「モーション・シルエット」も注目を集める。絵本のページ中央から立ち上がるしかけに光をあてるとイラストに影が映し出され、1つのしかけで左右のページで異なる物語が楽しめる。アイフォーンに搭載されている懐中電灯などで光を左右に動かすと、アニメーションのようにイラストが動いて見えるしかけも。
昨年末、雑誌「WIRED(ワイヤード)」のイタリア版ウェブサイトで紹介されて以来、海外からの注文が相次ぐ。特に米、英、仏、中国からの注文が増加し、いまでは全体の7割が海外からの注文。新島さんが手作業で製本し、価格は6000円。受注数は累計で200冊にものぼり、男性から「恋人や子どもに贈りたい」といった声が多いという。
「かがみのえほん」シリーズも海外からの引き合いが増えている。福音館書店によると、すでにスイスや米国、中国、台湾、韓国などの会社から問い合わせが寄せられている。進化し続けるしかけ絵本は、「わあっ」という驚きの声の輪を世界中に広げていきそうだ。(鎌田倫子)
[日経MJ2015年2月4日掲載]
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