ラサへの歩き方/祈りの2400km

仏教では全身を地に付けて礼拝する五体投地という方法がある。チベットの人々はその五体投地を行いながら聖地に巡礼するのを信仰心の最高の発露とするがそれは長い月日をかけた過酷な旅でもある。

そんな巡礼の旅を、チベットの人々の現実生活に即してリアルかつ丁寧に描き出した中国映画である。

チベット東部、四川省に近いマルカム県プラ村。父親が亡くなったニマは、叔父ヤンペルの願いを叶（かな）えるため聖地ラサに巡礼に行く決心をする。

2人の巡礼を聞き、隣家のケルサン家では長女ツェリン、その夫セパ、次女ツェワン、親戚筋の若者2人の5人が参加。さらに幼い娘を含めたジグメ家3人と友人が加わり、総勢11名で巡礼に旅立つ。

彼らの村からラサまで1200キロ。マニ車を手に祈りを捧（ささ）げる老いたヤンペルと妊娠中のツェリンを除いて一行は五体投地を繰り返しながら聖地に向かって進んでいく。

途中、大雨で道が川のようになり、また食料や寝具を運ぶトラクターが破損するなど障害や困難に遭う一方、一行はツェリンの出産など人生の哀歓に見舞われる。そしてラサに到着した彼らは、さらに1200キロ離れた聖山のカイラス山を目指す。

物語はフィクションとして構成されているが、登場人物はすべて実在の村人たちであり、彼らは自分自身を演じている。しかも彼らの実生活を採り入れてドキュメンタリーのような現実味を醸し出し、チベットの人々の信仰と生活感を画面に巧みに滲み出している。

チャン・ヤン監督は「胡同のひまわり」などで知られるが、チベットに特別な関心を寄せていたという本作では、これまでと違った演出方法で人々の生活を見つめ、その豊かな自然をとらえた映像と相まって独特な世界を築き上げている。

1時間55分。

★★★★

（映画評論家　村山　匡一郎）

［日本経済新聞夕刊2016年7月15日付］