おでんにつけるもの、からし以外 実はけっこう多い?
おでん(1)
酒の友には欠かせない、おでん。
たまごとガンモとチクワが好き。変なやつだと思われるかもしれないが、大根はどうも苦手だ。
大阪に行ったら軟らかなタコとか梅焼きが楽しみ。おごってもらうときは、大胆にもサエズリなんかも食べる。
北海道にはマフラーというおでん種があるそうだ。何メートルくらいあるのかなあマフラーって。
島根県が誇る国際文化観光都市松江。そこに行ったとき、おでんを食べまくった。
ある専門店でイワシのだんごを想定しつつ「つみれを下さい」と注文した。だが口に入れると小骨がガリガリと歯にあたる。こんなに歯ごたえがあるつみれは未見だった。
店の人に「何のすり身ですか?」と尋ねた。
「キスです」。
ということで、私は生まれて初めてキスのつみれがおでん界に存在することを知ったのである。
その折の小骨の感触がいつまでも記憶の奥に残っていた。歯が元気になってきたいま、私は再び食える。あのキスだんごを。
その店の常連が自慢していた。「こっちではシーズンになると赤貝がおでんに入るよ。セリもおいしいよ」と。
「赤貝のおでんかー」と目を遠くしながら「たまご」を頼んだ。当然殻をむいたゆでたまごだと思っていたら、厚焼きたまごのくし刺しが出てきたので、しみじみと嬉しくなったのだった。
これまでに食べたおでん種のなかで「美しい」と思った一品は金沢の「かに面」である。ズワイガニの雌のコウバコ(香箱)の身を足先まできれいに出し、それを甲羅にびっしり詰めておでんのつゆにくぐらせる。これはうまかった。
まんじゅう貝やガスエビの刺し身を少し切ってもらって熱燗をくいっとやって後、かに面に箸をのばすなんていうのは雪国の夜ならでは風流ではなかろうか。いまがそのシーズン。
と、このようにおでんの種というのは土地土地によって千差万別。旅先でおでんの店に入って「さあ、何があるんだろう」と鍋の中をのぞく瞬間のあの期待と喜びには格別のものがある。
しかし、種の違いについての日本地図を作るとなると、変数が多すぎて収拾がつかなくなる恐れが多分にある。それと「食の方言」なのか「店の特徴」なのかがわかりづらいという問題も潜在する。
そこで今回のテーマは「おでんになにをつけて食べるか」にしたい。これだと計測可能と思われる。
前回このことを予告したら、知り合いから個人的なメールが届いた。
「からし以外につけるモノってあるんですか? 質問の意味がわかりません」。
あります。必ずあります。それも思いの外、種類が多いはず。
サブのテーマとしては「白こんにゃくと黒こんにゃくの境界線」にしようかなとも思ったが、参考にしている「とことんおでん紀行」の著者、新井由己氏に敬意を表して「ギョウザ巻き」というおでん種の分布を調べたいと思う。
「ギョウザ巻き」というのはギョウザを魚のすり身で包み油で揚げたものである。中から軟らかくなったギョウザの皮が出てきて、ついでギョウザの「あん」が濃厚なうまみととともに口に広がる。自分史上最高のおでん種である。
でも、これは個人の趣味で調べるのではない。新井氏の韓国、台湾を含む壮大なおでん行脚の動機となったのがこの「ギョウザ巻き」だったからである。敬意を表するというのはそういう意味。
局地的な食べ方もいろいろあるので「うちへんじゃあ白味噌で煮込むけど、選択肢に入っていないじゃないか」「田楽味噌がない」などという声がでてくるだろう。
(調査は終了しました。)
今回の調査は複雑な作業になるだろう。でも頑張る。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
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