唐揚げ、竜田揚げ、ザンギ…呼び名の違いはどこに?
北海道出身の知人と食事をしていたときのことだ。
運ばれてきたローストビーフと付け合わせを見て「北海道ではローストビーフには必ずこれなんだ」と知人。
「ああ、ホースラディッシュ」と私が答えると相手は「違う、レホールだ」と不満そう。
レホールという呼び名ははじめて聞いたのでレホールとはなんぞや?と早速調べてみるとどうやらホースラディシュもレホールも同じもの。
和名はセイヨウワサビで、すりおろせばツーンとした清涼感のあるアレだ。
日本わさびと区別するために西洋わさびとも、山わさびとも呼ばれ北海道で自生したものは蝦夷山わさびと呼ばれる。
レホールとは仏名のレフォールがなまった呼び名で、なんと北海道ではあつあつのご飯にすりおろしたレホールと醤油をかける食べ方もあるとか。
しかし、同じものを目の前にして
「これはレホールだ」
「いやホースラディッシュだ」
とやっていたのだからちょっと愉快な一幕だった。
同じ食べ物なのに地域によって呼び名が違う食べ物は色々あるが、なかでも悩ましいものに唐揚げがある。
「唐揚げ」と「竜田揚げ」と「ザンギ」と「とり天」と。どれも見た目は似ているが、一体何がどう違うのだろうか。
唐揚げといってほとんどの人が想像するのは、鶏もも肉をカラッと揚げた「鶏の唐揚げ」だろう。
日本唐揚協会の定義によると唐揚げとは「食材に小麦粉や片栗粉などを薄くまぶして油で揚げたもの」。つまり材料は鶏でも魚介類でも野菜でもよく、粉は小麦粉でも片栗粉でもかまわないのだ。
唐揚げという名前からも分かるように起源は中国料理で、江戸時代初期に伝わった普茶料理には「唐揚」の名前があったとされている。
このときの唐揚げは豆腐を小さく切ったものを揚げ、さらに味付けして煮たものだった。
一方、竜田揚げの語源は、百人一首も詠まれている紅葉の名所・奈良の竜田川からきており、下味をつけてカラッと揚げたその色が、紅葉の色にも似ていたことから「竜田揚げ」の名がついたそう。
製法は醤油や酒・みりんで下味をつけた鶏肉に、片栗粉をまぶして揚げたものを指すのが一般的だ。
北海道のザンギもやはり下味をつけた食材に粉をまぶし油で揚げたもの。
食材も鶏肉に限らず、魚介類を揚げてもザンギ。つまり唐揚げと竜田揚げとザンギはほぼ同じもので、これらは全て唐揚げだということになる。
そんな中、とり天だけは違う。
大分県の名物であるとり天は読んで字のごとく「とりの天ぷら」。鶏肉に下味をつけるところまでは同じだが、粉に卵を加え水で溶いた衣を使うことで、ふんわりと衣の厚い天ぷらにし、天つゆや酢醤油につけて食べる。
もうひとつ私にとって長年謎だったのが「トンポーロー」と「角煮」と「とんこつ」問題だ。
中国料理の東坡肉(トンポーロー)は豚バラ三枚肉を、紹興酒と中国醤油を使って蒸し煮にしたもの。
これが長崎に伝わったものが卓袱料理のメニューである東坡煮(とうばに)で、作り方も日本風にアレンジされ、水煮してから醤油・酒・みりんで煮込む。これが豚の角煮とも呼ばれるようになった。
ところが私の地元鹿児島には、角煮によく似た郷土料理「とんこつ」がある。
これは豚骨ラーメンのことではなく、豚の骨付きあばら肉を黒砂糖や焼酎、味噌で長時間煮込むもの。トロットロとやわらかく一度食べると忘れられないおいしさで、地元ではおでんの具にもなる郷土ならではの味だ。
その違いは使う部位と調味料。
同じような肉料理でもところ変われば名前も変わる。あるいは同じ見た目なのに、食材や調味料がちょっとだけ違う。そんな風に味わい方も幾通りもある肉料理。
今宵、食べたいのはどこのなんという肉料理だろうか?
(日本の旅ライター 吉野りり花)
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