みそ汁でてんぷら、豚まんにはソース、ラーメンに酢?
ソースでてんぷら(2)
私は自称フードライターのくせに歯が悪い。だましだましやってきたが、とうとうどうにもならなくなって先週、激しい手術をした。入社以来初めての「病欠」で会社を5日も休み、腫れた左顎に冷却ジェルを張ってよろよろと出社した。すると世の中が変わっていたのである。
「食べ物 新日本奇行」へのVOTE(回答)がわずか4日で軽く4ケタに達し、メールも40通に及んでいる。こんなはずじゃなかった。
いやあ、それにしても反響の大きさには驚きましたねえ。と同時に皆さんへの感謝の思いが込み上げてきた。本当にありがとうございます。
回答結果の公表の前にメールの内容を紹介しよう。今回は実名を出す許可を得る時間がないので全員匿名にする。
で、40通のメールのうち「お前はアホか」「こんな企画はもっと食文化を勉強してからやるもんだ」「てんぷらを和食の雄とは何事か。あれは渡来した洋食だ」というご意見もあったが、ほかは一応おつきあいしてもいいみたいな内容だったので、おしかりには恐縮しつつも大方のご好意に依拠してこの企画を歯をくいしばりつつ続けていこうと思う。
Yさんは香港在住中、16年にもわたって現地職員や周囲の人に「ソースでてんぷら」を教えていたそう。「ソースでてんぷら教」のイエズス会みたいだなあ。頭が下がる。香港から回答がきたらYさんの信者である可能性が高い。
あれは「情熱の味」だろうか。たしかに情熱的に真っ赤っかだけど、味はちょっと酸っぱくて淡泊。どっちかというと「冷静と情熱のあいだ」でしょうかね。
「どろどろ」ですか。それならとんかつソースでしょうが、ウスターで育った私はやはり「しゃばしゃば」の方がいいような気がします。「どろどろ」のてんぷらはイヤです。
そうなんです。この調査の目的は「ソースでてんぷら」の境界線を探るということではあるけれど同時に「飛び地」の探索という隠された狙いもあるのです。
九州の一部には昔から納豆文化の飛び地があったし、ソースかつ丼も福井や駒ケ根市などに点在していますからね。岐阜は鉄板ナポリタンがあるから食文化的には名古屋と同じであるようですが「ソースでてんぷら」に限れば非名古屋なのでしょうかねえ。
「私自身もラジオの軽いネタにするつもりです」と書いてありますが、「軽いネタ」なんて遠慮せずに、重くいってくださいよ重く。そしてその結果を教えていただけるとうれしい。
ね、岐阜がアヤシイでしょ?
全部を紹介できなくて申し訳ないが、いずれもとっても面白い内容だった。また地図ができあがった段階で紹介する機会があるかもしれない。
ところで「こんなものも調べてほしい」というご要望がいくつかあった。
「ラーメンに酢をかける習慣はどこのもの?」「福島県会津地方ではあんこの入ったまんじゅうをてんぷらにするが、ほかの地方にもあるのだろうか?」「豚まん、肉まんの境界線は? それにソースをかける地域と醤油で食べる地域の分布は?」などなど。いやいやネタはつきそうもない。
特に会津には行ってみようと思う。行って「まんじゅうてん」を実食したいと切に思う。甘いの嫌いだけど、後で酒飲めばいいことだし。
「ラーメンに酢」について言えば吉祥寺の某ラーメン店の壁に「うちのスープは麺を食べ終わった後、酢を入れて飲んでください。おいしいですから」と張り紙があった。警視庁の職員食堂で機動隊の若者たちがラーメンにがばがば酢を入れているのを何度も見た。ということは関東以北の習慣ではないだろうかと思うけれど、今のところ根拠レス。
豚まん問題は私も以前拙著にちょこっと書いたことがある。大阪の某豚まん有名店の飲食コーナーで観察したところ、かなりの割合で客が豚まんの(紙がはってある)軟らかいところに箸や指で穴を開け、そこからソースを注入して食べていた。ひっくり返るほどびっくりした。
でも真似した。おいしかった。家でやろうとしたら家人がガン飛ばして牽制してきた(ような気がした)ので、できなかった。
ところでメールの中にてんぷらを「みそ汁に入れて食べる」「みそ汁につけて食べる」というのが2通あった。大阪の居酒屋ではてんぷらを注文すると、おでんのつゆがかかって出てくることがある。てんつゆの代わりなのだろうが、九州人にはつらかったなあ、あれ。
それにしても、みそ汁にてんぷらというのは知らなかった。でも真似しない。
そういえば一部の日本人はみそ汁に「かっぱえびせん」を入れるということをやっているらしい。私もやってみたが、結構いけるもんです。うちの子どもに食べさせようと思っているけど、家人の反応のこともあるのでまだやっていない。
話がどんどん逸れていく。飲みながらこんなことばかり4時間もしゃべり続けて嫌われた経験がある。この辺でやめる。
「ソースでてんぷら」地図は現在構築中。どんどん回答が増えているので、途中で締め切って完成させる予定。近日公開です。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
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