長期漬け込みでうま味を熟成 先人が伝えた生活の知恵
伝統の珍味・へしこの魅力を探る(1)
福井県の伝統料理・へしこ。
福井県の味として知られるが、北陸から鳥取にかけての日本海沿岸で広く食べられている。
へしことは、魚の糠漬けのことで、強い塩味と独特のうま味が特徴だ。日本酒の肴に、あるいはお茶漬けにしてもおいしい。
いったん塩漬けにした後、改めてぬかに漬ける。保存を目的に編み出された製法だが、長期にわたる漬け込みの間に熟成が進み、単なる「塩漬け」にとどまらない、豊かな味わいが魅力だ。
へしこにする魚種に決まりはないが、いちばん馴染みがあるのはサバだろう。
サバを背開きにして内臓を取り、塩漬けにした上でぬかに漬け、1~2年かけて熟成させる。
福井県立若狭高等学校の小坂康之教諭は、へしこ研究で博士号を取得、「へしこ博士」と呼ばれている。小坂先生が地元の生産者を調査したところ、次のような言葉で「へしこの作り方」が言い伝えられてきたことを知る。
「両手ごっぽりの塩」で漬けて、樽でぬか漬けにし、重しをのせた上に塩水(すえ)を張って「ひと夏越えなあかんのや」で7カ月…。
この言葉に「へしことは何か?」が凝縮されていたという。
漬け込みに半年以上を要するのはなぜか。
樽の中には、うまみを生成する乳酸菌のほかにさまざまな雑菌が繁殖している。しかし、塩水を上から張って7カ月を経過すると、酸素がなくなり、雑菌は死滅するという。
また、気温が30度以上になると、アミノ酸と乳酸菌が一気に活性化、増加する。「ひと夏越えなあかん」のだ。
ただし、塩分含有量が少ないと、今度は乳酸菌が増えすぎてしまい、うま味以上に酸味が際立ってしまう。つまり、すっぱいへしこになってしまう。
だから「両手ごっぽりの塩」が必要、というわけだ。
加塩量15%以上、気温30度以上での熟成、熟成期間中は樽に塩水を張る、6カ月以上のぬか漬け熟成――。研究の結果導き出された「へしこに必要不可欠な要素」は、若狭に伝わる「へしこの作り方」そのものだったそうだ。
(渡辺智哉)
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