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トヨタ自動車の技術ポストの最高位といわれる技監職だった林南八氏。2001年から同職に就き、トヨタ生産方式(TPS)を推進できる人材の育成に力を入れた。TPSの生みの親である元副社長・故大野耐一氏や、元主査の故鈴村喜久男氏から直接薫陶を受けた最後の世代だ。

1966年に入社以来、一貫して生産現場の改善を中心としたTPSの構築に携わり、大野さんや鈴村さんが出す数多くの難題に取り組んできました。若手だった修業時代は張富士夫会長や池渕浩介顧問、旧関東自動車工業の内川晋元会長らが師範代でした。いずれの方々も厳しく安易に助けてはくれませんでした。

はやし・なんぱち 1966年(昭41年)武蔵工大(現・東京都市大)卒。トヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)入社。生産調査部長などを経て01年技監。09~11年取締役。11年から再び技監に戻り、現在は顧問 東京都出身。

はやし・なんぱち 1966年(昭41年)武蔵工大(現・東京都市大)卒。トヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)入社。生産調査部長などを経て01年技監。09~11年取締役。11年から再び技監に戻り、現在は顧問 東京都出身。

他人を当てにせず、自分の目で確認し「自分の頭で考えろ」「早く結果を出せ」。まさに現代でいうパワーハラスメントそのものでした。しかし、大きく違うのは部下の仕事を必ず見に来るというフォローがあったことです。当時は逃げ場がなく「いじめ」のようにも思いましたが、今にして思えば、見てくれているという安心感があったように思います。

答えを出すには現地現物で根気強く観察するしかありません。同じ場所に8時間近く立たされて観察したこともあり、徹底して現地現物の重要性を体にたたき込まれました。たとえ、良い改善提案ができても現場の理解を得られなければ実践できません。誰も助けてくれませんから、自ら現場に溶け込んで味方をつくらなければ、一歩も前に進めません。

このような突き放した指導のおかげで、どんな所に放り込まれても現場を動かす技が身についたと感謝しています。

TPSはモノづくりの世界にとどまらないと説く。

病院や流通業界の合理化、さらには農業まで色々手掛けさせてもらいましたが、生産性の低い所には何かしら問題があるものです。モノの流れや情報の流れを図に落として見ると、流れが滞留している原因が見えてきます。人の動きを観察することも大切ですね。

なぜ流れが滞留するのか、なぜリズミカルな動きが止まるのか、徹底的に現地現物で観察すると仕組みの悪さが明確になり、あるべき姿を思い描くと問題が見えて来ます。その問題一つ一つに「なぜ?」「なぜ?」を繰り返し繰り返し問うて、真因を追求し解決策を編み出し実践する。これを徹底して行っていけば仕事のムダは必ず減ります。生産部門だけでなく営業、管理など事務部門も同じことです。

08年の米リーマン・ショック以降、円高や税制など6重苦に悩まされ、トヨタは赤字に転落しました。戦後欧米の生産性は日本の8倍ともいわれた時代、大野さんは日本人の知恵で必ず勝つと色々工夫を重ねながら、TPSを構築してきました。その苦労を考えると、6重苦を言い訳にしてはダメ。トヨタでは原点に立ち返って取り組もうと必死にやってきたところ、円安の追い風もあってなんとか復活しつつある状態です。

今ではTPSは経営の根幹であるとの評価が世界中でなされ、経営学の教科書に載るまでになり、書店には実践のための本があふれています。喜ばしい半面、どうもTPSは改善手法だけにとどまるとの誤解があるようです。TPSの言葉だけが先走りして本質が理解されていないように思います。

次世代を担う若い人々に大野さんや鈴村さんが何を追求し、我々に何を残してくれたのか。私の経験を振り返りながら、人材育成の本質は何か、TPSの本質は何かを考えるヒントを皆さんが見いだしてくれれば幸いです。

(2)一命とりとめ自由に育つ >>

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