変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

国際通貨という言葉を最近、よく耳にするわね。一体どんなもので、誰が決めているのかしら。国際通貨になると、いろいろメリットがあるのかな。

国際通貨をテーマに山崎真理さん(22)と荒川美紀さん(45)が清水功哉編集委員に話を聞いた。

 国際通貨って、どんなものなのですか。

「簡単に言えば国際的に使われていて存在感が大きい通貨のことです。国際通貨になるには人々が貿易や国境をまたいだ投資の際に安心して使えることが必要です。そのための条件はまず価値の安定です。国内での通貨価値を示す尺度は物価ですが、今日は2000円の商品が翌日に3000円になるなど物価が落ち着かない国の通貨では困ります。対外的な通貨価値を示す為替相場についても乱高下を繰り返すようでは安心して使えません。金融システムが安定していて円滑に決済や預金ができたり、規制が少なく自由に取引できたりする国の通貨であることも不安なく使えるための条件です」

「現在、国際通貨といえるのは米ドルと欧州のユーロ、日本円、英ポンドというのが一般的な見方です。国際通貨のなかで最も中心的な存在を基軸通貨といいます。強力な経済力、政治力、軍事力を背景に信認が維持されているうえに、利便性も高いと世界の多くの人々からみられている通貨で、現在はドルです。基軸通貨は貿易や対外投資に使われる割合が高いので、自国通貨が基軸通貨になると、為替相場変動リスクが減り貿易や海外投資がしやすくなるなどのメリットを享受できます」

 安心して使える条件を満たすにはどうすればいいのですか。

「通貨価値の安定にはしっかりとした当局の存在が不可欠です。物価の安定には政治からの独立性が高い中央銀行が責任を持ちます。日本でいえば日銀、米国なら米連邦準備理事会(FRB)、欧州のユーロ圏では欧州中央銀行(ECB)、英国はイングランド銀行です。為替相場の安定に責任をもつ機関は、国・地域によって若干違いますが、日本では財務省です。円が下がりすぎれば買い支える市場介入を実施し、逆に高くなりすぎれば売ります」

「金融システムの安定には銀行経営の監視などが重要で、日本では金融庁や日銀が担っています。経営破綻によって決済が滞ったり、預金の払い戻しが受けられなくなったりする非常事態を防ぐのが仕事です。通貨の利便性を上げるためできるだけ規制を緩めていく当局の姿勢も必要でしょう。もちろん通貨価値や金融システムの安定には、その国の経済の健全な成長も重要で、当局だけでなく国民全体の努力も求められます」

 誰が国際通貨を決めるのですか。

「どこかの機関が決めるわけではありません。人々の間に『この通貨は安心して取引に使える』という認識が自然と広まり、国際通貨が決まるのです」

「今後、中国の人民元が国際通貨として認知されるかが注目されています。国際通貨基金(IMF)の加盟国が、外貨不足で対外債務が返済できなくなった場合などにドルやユーロ、円、ポンドを融通してもらう特別引き出し権(SDR)という制度があります。昨年末、IMFは人民元もSDRに採用することを決めました。ただ、あくまで国際通貨になるための通過点の一つでしょう」

 中国の人民元の台頭で円の地位は低下しませんか。

「国際決済銀行(BIS)によると、2013年の外国為替取引に占める通貨別シェアで円は世界3位です。人民元がすぐに円に匹敵する地位を獲得するのは難しいでしょう。貿易取引などに人民元が使われるケースが増えてきたのは事実です。ただ規制があるため、国境をまたいだ投資など資本取引では自由に使いにくいのが実情です。足元の元相場も中国経済への不安から下落傾向にあります」

「ただ、中国は近年、人民元の国際的地位を高めようとする動きに熱心で、円の地位も安泰ではないでしょう。まずはアジア域内で円建ての取引を増やすことがグローバルな存在感を高めるうえで意味を持ちそうです。15年下半期の日本からアジアへの円建て輸出は全体の約4割なのに対し、ドル建ては約5割。アジアから日本への輸入に至っては約7割がドル建てです。アジアでの円の利用を増やすため、円建てで資金を借りやすくしたり、運用をしやすくしたりする工夫が必要かもしれません」

ちょっとウンチク 「世界の基軸金利」担うFRB

1999年、欧州に単一通貨ユーロが生まれた際に、通貨だけでなく、中央銀行が決める政策金利もひとつになった。ユーロ圏の金融政策は欧州中央銀行(ECB)が一括して運営するようになったのだ。このように通貨と金利は密接な関係にあり、通貨の対内的な価値(物価)や対外的な価値(為替相場)は金利によって左右される。

従って、ドルが世界の基軸通貨であるなら、その金利も「基軸金利」と呼べるような重要な存在だといえる。ドル建ての債権や債務を世界中の企業や個人が保有するから、ドル金利の変動は様々な国・地域の企業の経営や個人の生活に影響を及ぼすのだ。

そのドルの政策金利を決めるのが米国の中央銀行、米連邦準備理事会(FRB)だ。つまりFRBは「基軸金利」を決める立場にいる。FRBは昨年12月、事実上のゼロ金利政策の解除を決め、金融政策の正常化に乗り出した。「基軸金利」はどんなペースで上がっていくのか。その点が世界中の人々の関心事項になるのは当然だろう。

(編集委員 清水功哉)

山崎 真理さん 大学生。美術史を専攻しており、卒論に向けて日本画の上村松園の研究の真っ最中。「将来は美術の知識も生かせる仕事に進めればと思っています」
荒川 美紀さん 幼稚園教諭。海釣りが趣味。春から秋にかけ、多ければ月2回は東京・羽田沖などに釣りに行く。「この夏には船舶免許を取ろうと思っています」
[日本経済新聞夕刊2016年2月1日付]

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック