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人事面談では上司に成果を強くアピールするべきか(上) 会社人生を決める7つの選択(7)その1

平康 慶浩 セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント

2016/2/9

人事面談でアピールすることは損か得か

「目標管理制度」という人事の仕組みがある。大半の会社で採用されているこの仕組みは、期初に目標をたて、期末に結果を評価して、給与改定(昇給・減給)や賞与額、昇進などに反映しようとする仕組みだ。人によって達成できた目標もあれば、惜しくも達成できなかった目標もある。惜しかった理由によっては、たとえ未達であったとしても理由をしっかりと述べてなんとか達成扱いにしてもらうことも考えるだろう。 実際に私が多くの会社でチェックしてきた目標管理シートの記述内容には、数値的には若干未達であっても、自己評価では「達成」としているものが多かった。シートには未達に至る理由が記載されている。未達の原因は自分が悪かったのではない、環境がそうだったのでどうしようもなかった、というようなことだ。あるいは目標がそもそも高すぎたので、これくらい出来ていれば十分認められるはずだ、というような内容だ。

評価シート上でそういうアピールをする人は多いのだけれど、じゃあ面談の場でもそうすることがよいのだろうか。

実際の面談の現場を見てみると、評価シートの自己評価は強気なのに、口頭でのアピールが弱い人が多い。たとえば評価シートでは98%の達成度だったけれど、C評価(未達成)ではなくB評価(達成)として自己評価している。その理由もちゃんと書いている。でも上司に「これは未達だからCだよね」と言われると「まあ……そうですね……」と引き下がってしまう人などだ。もちろん一部には「いや、そこに書いたように理由があります。だからB評価で当然だと思います」と強くアピールする人もいるだろう。

なぜ自己評価は高めにした方がいいのか

では自分が出した成果や言い訳を強くアピールするのと、素直に上司の言い分に従うのと、どちらが得をするのだろう。

実はこのことについては、統計的な答えが出ている。強くアピールする方が得をすることが多いのだ。私が人事制度と運用の設計を行い始めた当初、その事実を統計的に分析し確認するまで、人事コンサルタントとして何度も苦々しい思いをしてきた。今ではそのようなアピール上手な人が得をしないような制度と運用の設計がはっきりしているが、会社の評価制度にもし「自己評価」があるのなら、その使い方を示そう。

まず、自己評価はなるべく高めにする。目標が未達成であったとしても、達成として記載する。達成していたのなら、さらに上位の評価になるような記述をする。

次に、理由をしっかりと書く。未達成を達成とするのであれば、周囲の環境やクライアント側の事情などを理由として記述しよう。達成をさらに上の達成とする場合にも、どれだけ厳しい環境の中で達成したのか、ということをアピールすればいい。

そして面談の場で、そのことについて再度話すのだ。仮に「とはいえ未達成じゃないか。これだと達成扱いにはできないよ」と上司に諭されたとしてもこう言えばいい。

「評価は会社がするものですからお任せします。でも私自身は自己評価に書いたような理由から、十分に認められるべきだと考えています」と。

厳しい上司であれば数値の結果に基づくデジタルな評価をするだろうけれど、多くの上司はあなたの自己評価をそのまま採用しなくとも、一つか二つの項目については尊重してくれるだろう。

自己評価という制度上のワナ

アピールする人、昔の言葉で言えば「パフォーマンスが上手な人」が得をする原因は自己評価という仕組みにある。

もともと自己評価という仕組みが人事制度に組み入れられている理由は、ギャップを理解するためだ。自分ではできていると思っていることが、他人の目から見たらそうではない。そのギャップを面談の場ですりあわせることで、成長や改善につなげていくためのものだ。

しかし自己評価の仕組みを導入した会社での経年的な評価結果を分析していくと、おかしなことがわかった。全体的な評価結果が常に高くなってしまうのだ。だから人事部では評価をする管理職に何度も教育をしたり、あるいは最後に出た評価結果を無理やり相対的に調整して低くしたりすることになっていた。

人事評価には「自己評価→課長による一次評価→部長による二次評価」というような段階が設定される。それぞれの段階ごとの平均や分布を調べてみると、中でも自己評価の結果が常に高いことがわかった。課長や部長はそこからせいぜい1段階しか調整していなかったので、結果としての最終評価も高止まりしていたのだ。

原因はアンカリングという心の動きのためだった。2002年に行動ファイナンス理論でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンが示したこの考え方に基づいて人事評価を考えてみると、次のようなことがわかったのだ。

自己評価が5段階の3についている人の最終評価は2から4の間に分布している。

自己評価が5段階の4についている人の最終評価は3から5の間に分布している。

つまり人は、最初に示された基準からすべての物事を判断してしまう癖があるのだ。それがアンカリングであり、管理職への教育を徹底したとしても、その人間が本来持っている癖はどうしてもなおせなかったのだ。それが自己評価のワナだ。

また評価者によってはあえて自己評価を尊重する場合もあった。なぜなら1段階の評価修正であれば説明がしやすいけれど、2段階の修正をする場合にはちゃんと理由を説明しなければいけなくなる。しかし詳しく説明することは面倒なので、ついつい日和ってしまう人もいたのだ。

もちろん結果そのものが自己評価と違いすぎていると問題になる。たとえば80%も達成できていないのに100%達成と同等だ、という自己評価をする場合などだ。そんなときにはアピール上手ではなく、自分のことが見えていない人、という残念な評価をされてしまう。しかし1段階程度なら評価をする上司の心理が誘導されてしまう。95%なら100%以上、100%達成なら110%達成と同等、というような自己評価はアピールするだけで評価をする上司に影響を与えることができてしまう。

アンカリングの影響は一次評価だけでなく、二次評価にも影響を与える。結果として、会社全体の業績は前年割れしているのに、なぜか従業員の評価の平均は高い、というおかしなことがあたりまえのようにあらわれてきた。だから人事部が最終調整で評価結果を操作するのだけれど、そうなるとさらに自己評価は高くなったり、あるいはそもそも「どうせ人事が評価を決めるんでしょう」という意識が蔓延して、評価制度が機能しなくなったりもしたのだ。

アピールを繰り返してはいけない

押しの強い人が得をする。残念ながらそれは私たちに心がある以上逃れられない事実だ。

しかし世の中はそれほど単純にはできていない。会社という組織にもやはり自浄作用はある。たしかに上司の心理は自己評価によるアンカリングの影響を受けるが、それが繰り返されると確実にマイナスの結果を生む。

第一に、未達成の結果が繰り返される場合。

たとえば営業として活動していて、営業数値の目標が未達成だとすれば、アピールはできても一回だけだ。毎年未達成なのにアピールし続けるようだと悪印象が強化される。アンカリングは機能するが、評価をする上司の側に不信感が高まっていく。そうして評価結果を維持できたとしても、昇進に際しての推薦を受けられることはなくなっていく。

またあまりにも自己評価が高いようだと別の判断もされることになる。この人は客観的に自分を見ることができない人だ、というように。『薄っぺらいのに自信満々な人』(榎本博明、2015)にもあるように、自己評価の高すぎる人というのは能力のない人に多い。そんな残念な人に思われてしまうリスクもある。

第二に、チームワークが求められる業務の場合。

強いアピールの影響は上司との関係だけでとどまることはない。その行動は周囲にも自然に知られることになる。絶対評価であるからこそ、自分よりも結果を出していない人が自分と同等、あるいはより高い評価を受けるようなことが繰り返されるとどうなるだろう。このような状況は、ゲーム理論における繰り返しゲームとして証明されている。自分の評価だけを高めるためのアピールはチームメンバーに対する裏切りでもある。そして何度も裏切る人に協力する人はいなくなる。上司からだけでなく、チームメンバーである同僚たちにも残念な人と思われてしまうようになる。

つまり結果を伴わないアピールの繰り返しは、出世の道を閉ざすとともに、普段の業務におけるチームの協力を失わせていくのだ。その結果、会社に居づらくなってしまうことすらあるだろう。

アピールしなくても面談は使いこなせる

少なくとも私の経営するセレクションアンドバリエーションで人事制度を設計する場合には「自己評価欄」は設定しない。また明確な数値目標でのみ評価を行うような企業=特に欧米系やアジアの新興企業などでは自己評価の余地はもともと存在しない。しかしそれでも面談の場は設けられていることが多い。

自己評価のない面談にどのように臨むべきだろう。

自己評価が存在しない会社での面談であなたが話すべき事柄は、「あした」についてのことだ。

もちろん「過去」の結果について話す必要はある。しかしそれは結果から評価に結びつけるために行うのではない。次の期の目標をどのように設定するのか、どの領域を改善するのか、どの分野に時間やお金をかけていくのか、というあしたにつなげる話でなくてはならない。

目標の達成度や行動の結果はすでに決まってしまっている過去の話だ。その事実をどうとらえるかは上司や会社の経営層などの他人がすることであって、自分自身ではない。仮に低い評価になったとして、一時的に給与や賞与が少なくなることもあるかもしれない。しかしあなたが行っているのはただ一度の試験の結果で判断される入学試験ではないのだ。毎年繰り返し行う業務であり、そのゴールは遠い先にある。人によってはやがて永眠するまで走り続ける場合すらある。

だからこそあした何をすべきかを話し合うべきだ。それが本来の人事面談の使い方だ。

面談で上司から建設的なアドバイスを引き出すためのコーチングスキル

具体的にあしたの話をする場合、どのような手順を踏むべきだろう。わかりやすい筋道は次のような話し方だ。

事実を確認する 「今回の結果は達成度が〇〇%でした」
事実について質問する 「〇〇さん(上司)から見て達成/未達成の原因をどう思われますか」
返答に対して肯定を示す 「なるほど。たしかにそうですね」
改善について質問する 「では私はどうすれば来期も達成し続けられる/未達を回避できるでしょうか」

ちゃんとした上司であればあなたの問いかけに対して真摯に考え、意見を示してくれるだろう。あまりよろしくない上司であったとしても、この問いかけの手順を踏めば自然に考えてくれるようになる。

これらの問いかけに対して仮に、「私ならこうした」「そんなことは自分で考えろ」「来期も同じようにしていればいいんじゃないか」「(できなかったとしたら)それは君の怠慢だろう」というような答えが返ってきたとしても、「そうですね」とうなずく。そして再度質問するのだ。「〇〇さんの時代にはそうしたらうまくいったわけですが、今でもその方法は通用するでしょうか」「ぜひ一緒に考えてほしいんです。特にどの点がまずかったでしょうか」「来期の状況は今期と変わらないでしょうか」「怠慢な部分はあったと思います。そこをどう意識すればいいでしょうか」というように。

実はこの問いかけ方法は本来、上司側に求められるものだ。コーチングというスキルの傾聴という方法を用いている。上司側が一方的に指導するのではなく部下に気づきを与えるためのスキルがコーチングであり、現在の管理職の必須スキルになっている。

そのコーチングスキルを、部下の方が使ってしまう。

そうすればできる上司ならすぐに意図を理解して、より深く考えてくれるだろう。できない上司であっても、丁寧に繰り返していけば上司としての意見を示すべく行動してくれるようになる。

コーチングスキルを用いた面談の受け方は、自己評価が存在する場合にも使うことができる。アンカリングを狙ってアピールすることもよいが、それは今期の評価にしか影響を与えることができない。あなたが来年も再来年もその上司と付き合っていくのであれば、良い結果を生むのはこちらの面談方法だ。

◇   ◇   ◇

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に3万部超のヒットになった『出世する人は人事評価を気にしない』のほか、『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。

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[日経Bizアカデミー2016年2月9日付]

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