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プロが明かす出世のカラクリ

転勤に応じるか、家庭の事情を優先させて断るか 会社人生を決める7つの選択(5)

平康 慶浩 セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント

2016/1/26

ロイヤリティ型企業では転勤を断ると出世の芽はなくなる

 転勤に関する人事の事情を会社のタイプごとに見てみると、それぞれの特徴がわかる。特にロイヤリティ型の会社での転勤はどんな状況でも受けなければいけない。そうしなければ出世の芽はほぼなくなってしまうと考えた方がよい。

 第一に、それは出世するためというよりは、競争から外されないためだ。同期間の出世競争(ランクオーダートーナメント)は、新卒採用を基本としてきた多くの日本企業の常識だ。

 都銀や官公庁など、今なおバツがつかないようにすることを常に意識しなければいけない組織は多い。

 なぜ転勤を断ると競争から外されるのか。それは「会社都合での転勤を断る」ということは「残業を断る」こととはレベルが違うからだ。残業を断ったとしても定時内の仕事できっちりと結果を出していれば問題はないが、転勤はより大きな意味での会社都合だ。それを断るということは、ビジネスよりも優先するものがあるということであり、すなわち会社に対する忠誠心が低いということの証明になってしまう。

 第二に、転勤も異動である以上、ジョブローテーションの一環として従業員に経験を積ませるために行う場合があるからだ。その異動が転居を伴うだけで、会社としては善意での異動判断だと考えていることもある。

 そのような転勤を断るということは、忠誠心が低くて、チャンスもみすみす手ばなしてしまう人物だという評価を受けてしまう。残念ながらロイヤリティ型の会社は、そのような人材が将来出世できるタイプの会社ではないのだ。

 もしあなたがいる会社がロイヤリティ型で、どうしても転勤が難しいとすれば、残念だけれども社内での出世は難しくなるだろう。その時には社外での出世を目指してほしい。

環境適応型でも出世したければ転勤は断ってはならない

 環境適応型と定義している企業では、転勤に際してまず家庭事情を確認してくる。特に近年、介護や育児などの事情を踏まえて転勤判断をする企業が増えている。

 しかし環境適応型だといっても、どんな事情でも転勤を断れるわけではない。たとえば今住んでいる地域に友達が多いから、生活に慣れているから、というプライベートな事情で断ることはほぼ不可能だ。あるいは慣れた仕事から変わることが不安だ、引っ越すことが面倒だ、というような心理的な都合も考慮されることはほとんどない。あくまでも、介護や育児、あるいは配偶者の勤務都合など、自分ではどうしようもないライフイベントだけが事情として許される。心理的な不安を口にするようであれば、人事部や上司側はこれをきっかけにさらに成長するように親心を出して積極的な説得を試みるだろう。

 重要なことは出世、すなわちキャリアをどのように考えていくべきかという点にある。

 ジョブローテーションの仕組みがそうであるように、ロイヤリティ型も環境適応型も、いずれの場合であっても30代前半までは、企業側が出世のキャリアを考えてくれている。20代であれば特にそうだ。ある部署で結果を出せなくても、次の部署では成長するかもしれない。

 だから積極的に新しい部署に配属してみようと考える企業は多い。適材適所は決してお題目ではないのだ。多くの企業の経営層や人事部は、真摯に従業員の成長を考えている。20代であれば逆に少しぐらい出来が悪い方がチャンスがある。なぜなら20代で優秀であると認められた人材は、最初に配属された部署が手ばなそうとしないからだ。その部署が成長している部署ならいいのだけれど、横ばいや右肩下がりの状況だったりすると、結果的に異動を繰り返す同期よりも経験の量と質で劣る場合もある。

 だから転勤をしたくない事情がライフイベントでないのなら、キャリアを積むためにも受け入れた方がよい。仮にライフイベントを理由として異動・転勤ができない場合には環境適応型の会社であっても若干出世が遅れることになるが、それでもロイヤリティ型のように完全に競争から外されるわけではない。

 しかしもし転勤を打診された人の年齢が40代だとしたら?

社内政治によって起案された転勤は断ってよい

 あなたは今住んでいる場所をどのように選んだだろうか。

 生まれ育った家に住んでいるだろうか。そうではなくとも生まれ育った地域に住んでいるだろうか。大学への進学、あるいは就職にあわせて転居した人も多いだろう。もしあなたが転居を経験しているのであれば、その時に人生が変わったことを感じているはずだ。

 人間が変わる方法は3つしかない、と言ったのは、日本で最も著名なコンサルタントの一人である大前研一氏だが、彼が示した方法の一つが住む場所を変えることだ。私自身も今までに6回転居を経験している。大規模なコンサルティングプロジェクトごとに転居したわけだが、その都度付き合う人、生活における時間配分が変わってきた。そうしてその変化があったからこそ今の自分がいる。

 転勤は会社の中での出世要素であるとともに、ビジネス上のキャリアパスを形成する。さらにそれだけではなく、人生そのものを変えるきっかけでもある。だからもし私が個人的に転勤について相談を受けたのなら、積極的に受け入れることを勧める。

 ただし、次の場合には転勤を断ることを勧めるだろうし、実際にそうしてきた。

 それは転勤があきらかに社内政治によって起案された場合だ。そしてあなた自身がすでに課長以上のポストについていてさらに上の役職への昇進が視野に入っている場合だ。

転勤は「48歳」という年齢を基準にして考える

 関西のある建設業で、小さいながらも一つの事業部を任されていた部長がいた。この会社では複数の派閥があり、残念ながら部長は次期社長派には属していなかった。そうして異動の時期に、部長に転勤を伴う異動の内示があった。それは東京支社長への就任だった。通常、東京への転勤は栄転と言われる。それはもちろんこの建設業でもそうだったのだけれど、2人で並んで座った酒の席で部長は苦悩を打ち明けてくれた。

「これ、左遷ですわ」

「え? まさか」

 驚いた私に部長は苦笑いした。

「平康さんにはまだ伝わっていないと思いますが、次の株主総会で社長が代わるんです。それにあわせて私の1つ年下の部長がいるでしょう。あいつが取締役になります。私は東京支社長になりますが、部長級どまり。要は最後のお勤めということですわ。おまけに事業部からも外されるんで、結局支社長といっても営業のとりまとめだけです」

 部長の言葉を聞きながら、出世競争に敗れた悲哀を痛切に感じた。しかしそれでもなお、最後のお勤めの機会をもらえるだけ彼は恵まれていた。役職定年はまぬがれることができるし、その後の再雇用の待遇も手厚い。

 社内政治に敗れたのが仮に40代後半だとすればどうすべきだろう。転勤を伴う異動が実質左遷であったとすれば、会社が面倒を見てくれるのはせいぜい5年が上限だ。そのあとはお決まりの役職定年から本当の定年、そして再雇用が待っている。

 こういう状況であれば転勤を断り、そして新しいきっかけを作っていくことを勧める。もちろんあえて転勤を受け入れて復活を期することも考えられる。しかし60歳や65歳という出口が決まっている企業組織の中では、それは「48歳前後」が限界だ。それ以上の年齢で望まぬ転勤を求められる場合には、後述する世代別の生き方を参考にしてほしい。

海外への転勤はリスクを伴うが、キャリアの大きなチャンス

 海外への転勤が増えている。若手を優先して海外に配属する会社も多いが、現地でのマネジメントを担当させるにはやはり一定の経験が必要だ。結果として30代後半から40代の人に対してもどんどん海外への転勤命令が出ている。

 たとえばあるサービス業で、40歳ちょうどの営業課長代理に転勤の打診が来た。東京本社から、進出したての海外支社への異動だ。ポストは現地の営業マネジャー。課長級であり、昇進を伴う。給与も現地建てと日本国内の支給とそれぞれあるので、年収はかなり増える。

 しかし、彼には私立中学に合格したばかりの子どもがいて、とてもついてきてくれとは言えない。だから単身赴任になるので、ずいぶんと悩んで私に相談された。

「政情も安定している国じゃないし、不安が多いんです。英語はまあなんとかなるとは思うんですが、部下はみんな現地の人だし、考え方や習慣も違うでしょう。家庭の事情をでっちあげてでも断れるなら断りたいんですが……」

 そこで彼に状況を整理してもらった。

デメリット ・政情の不安定さと家庭事情から、単身赴任になる
・赴任期間はとりあえず2年だが、長くなる可能性もある
メリット・課長級に昇進でき、年収も増える
事実・グローバル企業として成長を目指す、という年頭訓示があった
・社長はもと北米担当役員で海外が長い

 そこまで整理してみてようやく彼は気づいたようだった。

「なるほど。この転勤は課長級になれるだけじゃなくて、その先のキャリアアップのチャンスなんですね。ただし生活面でのリスクが高いこととのバーターだと」

 彼は結局、海外転勤を受けて単身赴任した。今は2年の約束を超えて3年目に入っている。支社立ち上げは完全に順調というわけではないので課長級のマネジャーのままだけれども、新しい市場での取り組みは彼の生きがいにもなっているようだ。家族とは年に数回しか会えないが、海外の働き方にあわせて長期の休暇をとり、なるべく長く一緒の時間を過ごすようにしている。また日々のwebカメラを通じてのやりとりも欠かしていない。

 もちろん海外転勤は転居の最たるものだ。だから人生に対する変化の度合いも極めて大きい。それはリスクでもあるが、その分だけチャンスでもある。

 また海外に出ると、日本での働き方や、積んでいるキャリアを客観的に見ることができるようにもなる。

 たとえば働き方ひとつを取ってみても、時間に対するとらえ方がまったく異なる。日本での働き方はたとえ正社員であったとしても時給的な考え方だ。

 労働法が古いままで据え置かれているし、ホワイトカラーエグゼンプションに対しての否定的な見解も強いので、どうしても私たちは働くこととは自分の時間を切り売りすることだ、という概念にとらわれがちになってしまう。

 しかし海外のビジネスパーソンたちの働き方を目の当たりにすると、それが日本独自の特殊な状況であることがわかってくる。

 24時間働きづめのエリートもいれば、毎日6時間程度しか働かない職種だってある。それらはすべて契約に基づいて定められていることであり、その契約は現在の環境にあわせてその都度変わっているのだ。それらを理解しておくことが、自分自身でキャリアを積み上げていく準備にもなるだろう。

自立型の会社での転勤は「契約見直し」の視点を持つ

 では日本国内においてもすでに自立的に働くことを求められる自立型の会社で、転勤命令が出たとすればどう考えればよいだろう。

 その転勤が職種の変更を伴うものであれば、異動の項に記した内容と同じく、会社からの三行半(みくだりはん)の可能性が高い。

 しかし同じ職種での転勤であるとすればどう考えればいいだろう。やる仕事は同じだけれど引っ越さなければいけない場合だ。

 このような場合には、自分と会社との間にある契約関係をもとに条件を考えてみよう。あなたが会社にとって有用な人材であれば、特例を作ってくれることもあるからだ。だから就業規則に転勤に関するサポートの制度がなかったとしてもぜひ交渉してみよう。

 たとえば、自立型と言える某IT企業で働いていた知人が遠隔地に転勤するというので、送別会をしたときの話だ。東京の本社から福岡の取引先に部長として出向するとのこと。独身で自由に生きているので転勤も簡単なんだろうと思ったが、「いや、彼女には怒られましたよ」と笑っていた。

 では彼はどうしたのか。

 彼の出向期間は1年間ということだった。1年間で出向先の業務システム全体のシステム監査を行い、新しいシステムへ移行するための基本計画を策定することが彼の新しい職務だった。会社としてはその新システムの設計および開発のプロジェクトマネジメント業務を受託することが目的なので、彼への期待は大きかった。

 しかし彼にしてみれば、1年間の出向のために現在住んでいる東京のマンションを引き払うのもばかばかしい。もう一度戻ってきたときの費用もばかにならない。そこで彼は経営層と交渉し、転居に伴う費用をすべて計算して示した上で、転勤ではなく出張形式で異動することにしてもらったのだ。つまり東京の自宅の賃貸契約はそのままで、毎週月曜日の早朝の飛行機で福岡に出勤する。月曜から金曜までは出向先まで歩いて通えるビジネスホテルに投宿する。そして金曜日の夜にまた飛行機で東京に戻る、という生活だ。

 転居ではなく、長期出張の繰り返しというこのタイプの転勤を見ることが増えた。あなたの周りにもそういう人がいるのではないだろうか。

 ただし転勤を長期出張型に切り替えた場合、転居という環境変化を得るチャンスを失う。転居をしないことが強いメリットになるのでない限り―たとえばすでに起業の準備に入っているとか、サイドビジネスのためにも今いる場所を離れるわけにはいかないとか―でない限り、転勤をチャンスとしてとらえることを勧めたい。

要約
ロイヤリティ型・環境適応型の会社で出世を目指すなら転勤は受け入れるべき
転居を伴う転勤は、チャンスとして考える。ただし「48歳」という年齢を基準として熟考すべき
海外転勤は大いなるチャンス
自立型の会社では転勤ではなく長期出張という選択肢が生まれている

◇   ◇   ◇

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に3万部超のヒットになった『出世する人は人事評価を気にしない』のほか、『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。

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[日経Bizアカデミー2016年1月26日付]

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