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異動を受け入れるか、今の部署で専門性を高めるか 会社人生を決める7つの選択(4)

平康 慶浩 セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント

2016/1/19

どんな事情があれば異動を断れるのか

同じ部署に5年ほどいて、専門的なことにも慣れてきたし、部署のメンバーとのコミュニケーションもとりやすくなっている。そんな時に部署を変わる異動命令が出たとすればどう考えればいいのだろう。

専門性の変化とチームメンバーとの関係については企業タイプ別に詳しく記すが、要約すれば、まだプロフェッショナルと言えない状況での専門性の変化はキャリア構築においてマイナスに働くことになる。特に転職を考えている人であれば職務経歴書でのアピールポイントが減る可能性が出てきてしまう。

一方で新しい部署の人たちとのつながりは、今いる会社の中では大きくプラスになるし、仮に転職や起業を選んだとしても有用な場合が多い。だから今自分の中に蓄積されている専門性のレベルと、社外に出るタイミングとを踏まえて異動を受け入れるべきかどうかを考える必要がある。

それ以外の事情で異動命令に対して躊躇することがあるとすれば、おそらくそれは(1)働く時間の変化、(2)勤務地の変化、ということが理由になっているはずだ。

たとえば働く時間が変わるということは、残業の頻度が変わることであったりする。今の部署よりも残業が減るのであればよいが、増えるとなれば生活パターンを変えざるを得なくなる。習い事をしていたり、あるいは子どもの送り迎えに影響したりする場合には異動を断りたくなるだろう。

勤務地については、仮に引っ越す必要がなかったとしても遠方になる場合に迷いが生じるだろう。今の勤務地なら電車で30分で通勤できるけれど、新しい勤務地は1時間以上かかるような場合だ。

このような場合、異動することによるメリットと比較してみてほしい。会社のタイプによって異動の目的や事情が異なっていたりするからだ。

ロイヤリティ型企業の異動命令はジョブローテーションの一環

会社がロイヤリティ型であれば、異動命令は受けておくべきだ。その方が今の会社で出世しやすくなる。理由は二つある。

第一に、ロイヤリティ型の会社ではそもそも定期的に部署を変える異動を行うルールを持っている場合がある。それは従業員に経験を積ませるためのものであり、ジョブローテーションと言われている。

たとえばずっと経理畑でもう10年になる。しかし上の経理課長ポストはまだしばらく空く可能性はない。であればマネジメント経験を積ませるために支社の総務課長に異動させてやろう、というような考えを経営層や人事部が持つことは多いのだ。

ロイヤリティ型の会社では従業員とは仲間だ。そして仲間となった人材であればさまざまな経験を積ませながらゼネラリストを育てようとする。ゼネラリストになるためには種類の違う仕事の経験を積むべきだし、社内の多くの人と知り合って一緒に仕事をした経験を持った方がよい。それらの経験はロイヤリティ型の会社における経営の視点を持つのに役立つし、社内の人脈は成果を生み出すためのきっかけになっていく。それらを具体化するためにジョブローテーションという仕組みが導入されているのだ。

メーカーであれば営業しか経験していない人よりも、製造現場も知っており、管理部門も経験している人の方がバランスよく経験を積んでいると判断されるのだ。

異動を断ることができたとしても、その場合には他の人がその経験を積むことになる。だからその分だけ他の人が出世する可能性が高くなってしまうだろう。仮に左遷に見えるような異動でも受け入れて配属先で結果を出せば、将来は抜擢されて経営層の一員になれる可能性だってあるのだ。

第二の理由はやり直すためだ。もしあなたの最近の人事評価の結果が悪ければこちらの理由から、異動を受け入れた方がよい。

人事評価の結果が悪ければ、異動は受け入れるべき

時に異動は評価の悪い人に対して実施されることがある。最近ではどの部署でも十分な人員が確保できていない。少ない人数で仕事を進めているのだから、業務の効率性が重視される。だから仕事ぶりの悪い人を別の部署に異動させることがあるのだ。

ただ人事評価には上司との相性も強く影響する。実際に人事評価結果の推移を見ていると、役員にまで出世している人でも、極端に評価が悪かった時期があったりもする。その理由を聞いてみるとたいていは上司との相性が悪かったということが原因だ。

たとえば指示命令をきっちりと行うタイプの上司の下で、部下が自分の判断で勝手に契約を進めたり、資料を完成させたりすると反感を買う。また部下に任せるタイプの上司の下で、過剰なまでに報告連絡相談をするようだとやはり疎んじられる。仕事ぶりや出している成果はそれなりでも、自然と評価が低くなってしまうことはあるのだ。

経営層や人事部でも、上司と部下の相性は常に意識している。そしてどうしてもあわない関係であればどちらかを異動させる。上司側が複数の問題を起こしているようであれば上司の方が異動するが、たいていは部下の方を異動させて相性の問題を解消しようとする。

このタイプの異動の場合には、やり直しが効きやすい。たしかに培ってきた専門性は一度リセットされるかもしれないが、専門性そのものの幅を広げることもできるだろう。

要は低い評価だから異動させられるような場合であっても、そのことを前向きにとらえればチャンスに変えられるということだ。

ロイヤリティ型の会社の場合には、そうして異動命令を素直に受け入れる方が人事部の印象も良くなる。それは会社に対する忠誠心の一つとして判断されるからだ。

環境適応型でもジョブローテーションは実施される

環境適応型と定義している企業は、企業の都合は明確にしつつも、従業員側の事情も勘案しようという人事マネジメントを採用している。時代の変化の中でロイヤリティ型から環境適応型に移る場合が多いが、最近できたばかりの企業でも、従業員事情をちゃんと確認してから異動判断をしようとする環境適応型の企業はある。

とはいえ、事情を勘案するとはいっても、よほどのことでなければ異動命令は断れない。唯一可能性があるのは、働く時間や通勤時間が変わることが生活に極端に影響を与える場合で、それは育児や介護などに関してだ。

人事部としても、異動させてみたものの、育児や介護を理由として残業命令ができなかったりすれば新しい部署の管理職に不満をぶつけられることになる。だから事情の勘案というよりは確認のためであり、可能な限りそういう事情のない人を優先して異動させようとしているのだ。従業員のため、というわけではない。

環境適応型の企業であったとしても、異動はやはりジョブローテーションの一環だ。だからどんな事情であれ異動を断ることはチャンスを逃すことにもなる。もし異動に際してプライベートな事情があるのならそれは仕方がない。しかしそうでなければロイヤリティ型の会社と同様に、前向きに判断してほしい。

人事評価の高い某社課長はなぜ異動になったか

ロイヤリティ型企業はもちろん、環境適応型の会社であったとしても、40代から異動を打診された場合、その意味を強く考えなければいけない。その意味が良くないものであるとすれば、それでもその会社にしがみつくか、あるいは新天地を探して転職するかを判断しなくてはならないからだ。

たとえばある会社の経営企画課長に対して、事業部の営業企画部門への異動命令が来た。幸い勤務地は同じ建物の中だけれど、フロアが違う。そして部署の印象としては、社長や役員とも頻繁にコミュニケーションをとる経営企画課に対して、事業部の営業企画部門はせいぜい事業部長とのコミュニケーションにとどまってしまう。はっきりと言われているわけではないが、なんとなく左遷のにおいがする、ということで相談されたことがある。

「おまけにこの事業部は縮小しつつある国内市場がメインなんで、売上がじわじわと右肩下がりなんです。ご存じのようにうちの会社では事業部業績に応じて賞与の配分が決まるので、本社所属の今よりも賞与が減る可能性だってあると思うんですよね」

この課長の会社は、タイプとしては環境適応型に属していた。なぜなら組織と人事の改革のために進めているプロジェクトのために私が関与していたからだ。売上の20%がすでに海外からのものであるため、グローバル経営にふさわしい組織と人事に移行することが目的だった。そのために組織体制も大幅に変え、あわせて人事評価制度も抜本的に変えるところだった。

経営企画課から営業企画課への異動は左遷なのか

表情を暗くしている課長に対して私はいくつかの質問をした。

「まず最近の評価結果はどうでしたか?」

「良い方でしたね。少なくとも平均よりは上です」

「今の経営企画の後釜になる人はどんな人か聞いていますか?」

「なんでも外資系から中途採用で入ってくる人らしいです。仕事ぶりはわかりませんが、少なくとも英語は堪能らしいので、部長はずいぶんとびびってました。まあ私も英語は苦手ですけれど」

「事業部の営業企画の仕事内容はどういうものでしょう?」

「基本的には事業部ごとの中期計画と年度計画の策定ですね。あとその進捗状況をとりまとめて、その都度、本社の経営企画に報告することです。今私がやっている仕事がそれらの進捗をとりまとめて役員会資料にすることですから、ちょうど立場が逆になる感じです」

「ちなみに経営企画以外のご経験はどんなものでしょうか?」

「経営企画に来る前は別の事業部で営業をしていました。ずっとトップクラスの営業成績だったんで、それで経営企画に異動になったと聞いています」

つまりこの課長の場合、人事評価の結果は平均よりも上の状態が続いているけれど、組織変革に伴う新しい人材の採用にあわせて、もう一度事業部側に配属される、というように理解ができた。仕事の内容については、今までが俯瞰的だったのに対して、個別の事業部に入り込むものになるので視点は一段階下がる。とはいえより具体性を帯びるとともに、事業そのものに携われることは大きなメリットになるはずだ。

40代からの異動は「ポストのその先」で判断する

「伺った情報から判断すると、会社はあなたに期待しているように思えますね。ぜひ異動して活躍されてみてはどうでしょう」

そう答えた私に、彼は理由を訪ねてきた。なぜこの異動が期待されていることになるのか、と。

理由は「ポストのその先」にあった。仮にこの課長が今の経営企画に居続けたとして、会社はグローバル経営に舵を切っている。そこでの経営企画となれば英語力はもちろん、海外勤務経験も重要だ。しかし社内でそういった経験を今から積ませるだけの時間的余裕はない。だから経験者を中途採用したわけで、経営企画部長やその上の役員ポストに彼が出世できる可能性はかなり低くなっていると考えられる。

一方で社内でも優秀であると評価されている彼をそのままにしておくのはもったいない。だから国内で伸び悩んでいる事業部に企画課長として配属し、その立て直しを頑張ってほしいと考えている可能性が高い。おそらくはそのための人事だ。

そして仮に彼が事業部の立て直しに成功すれば、営業経験もあるのだから、その先の事業部長に昇進できる可能性もある。

つまり今のポストに固執すると次のポストが見当たらないけれど、異動を受け入れるとさらに出世できる可能性があるということだ。

そのことを理由として説明することで、彼は新しい事業部営業企画課長への異動を快く受け入れることができた。

ちなみに彼のその後だが、事業部の立て直しそのものは横ばいの状態だった。それだけ環境変化は厳しかったのだ。しかし彼の評価は下がることがなく、やがて本社の管理部長として戻ることになった。経営企画とは別ラインで、中途採用から昇進した経営企画部長ともうまくやっている。

もちろん40代からの異動は、メリットよりもデメリットの方が大きい場合もある。次のポストがないような異動だってあるだろう。

しかし一方で前著『出世する人は人事評価を気にしない』にも記した、役職定年そして60歳からの再雇用という人事の仕組みは今後さらに厳しくなる。すでに35歳の年収が人生の最高額だったという時代になっているからだ。また早期希望退職も増えこそすれ減りはしない。

だからデメリットの多い異動を受け入れることで会社に長く居続けられるのであれば、それは最終的にメリットが大きくなる選択になるだろう。

異動命令が会社からの「三行半」になるケース

自立型の会社での異動命令は、ロイヤリティ型や環境適応型の会社とは事情が大きく異なっている。たとえば会社が自立型で自分の専門性が明確であるにもかかわらず、職種を変えた異動命令が出されたとすれば、どう考えればいいのか。

残念ながらその異動命令はまず間違いなく遠回しな退職勧奨だ。幸か不幸か日本では表立っての退職勧奨が行われない。契約概念で雇用をする自立型であってもそれは同様で、仕事が不出来であったとしても正社員には別の職種でのチャンスを与えなければいけないという法的解釈に従っている。だから自立型の会社における職種を超えた異動とは会社側からの遠回しなメッセージだ。

ではこの異動を断ることはできるのだろうか。

たとえばSEとして経験を積んできた人がある日、営業に回ってくれと言われる。ロイヤリティ型の会社ならあたりまえのことだけれど、自立型の会社では営業には営業のプロがいる。そもそもSEと営業では行動や意識も違う。だから断りたいと思う人がいてもおかしくはない。

異動命令が出る背景には二つの理由が考えられる。

一つは社内においてその人の職種や専門性が不要になっている可能性だ。事業そのものを縮小する場合もあるだろうし、あるいは同じ専門性であってもそのタイプが変わるような場合だ。SE職の例で言えば使用言語の変化が原因となったりする。

二つ目は異動先の職種にまだ人材がいない場合。新しく人を雇うにはリスクが高いと判断したとき、自立型の会社とはいえ社内で向いていそうな人、あるいは今の仕事で成果を出せていない人を異動させてまずやらせてみようという場合がある。

自立型企業では成果を出している人をわざわざ異動させない

いずれが理由であったとしても、もちろん異動命令を断ることは可能だ。しかし実はそれは退職を選んだのとほぼ同じ意味になる。自立型の会社では、今の職種で成果を出している人をわざわざ異動させようとはしない。それは会社にとっても大きな損失になるからだ。だから自立型の会社で職種を超える異動の対象になった時点で、異動したとしても会社には損失にならないと判断されたということだ。

だからとるべき選択肢は二つしかない。職種を変えてでも会社に残るか、転職・起業などで社外に出るかだ。

もちろん職種を変えて会社に残る選択肢は有効だ。ただし自立型の会社である以上、異動したあとに「やっぱりできませんでした」とは言えないので、その分だけ努力は必要になる。しかし自立型の会社で複数の専門性を持つ機会はなかなか与えられないのだから見習いからの再出発であったとしてもチャンスとすることはできる。

一方で退職を選ぶのはどうだろう。転職や起業を考えてみる選択肢だ。あなたが今持っている専門性で食べていこうと考えているのなら、ぜひこちらを選んでほしい。

近年早期希望退職を募る会社が多い。早期「希望」退職ではあるが、実態としては退職勧奨が行われる。この時の常套句が、「現在あなたに担当してもらっている仕事がなくなります。会社に残ってもらうとすれば、別の〇〇という職種に異動してもらうことになります。そのことを踏まえて、今回の制度に応募するかどうかを考えてください」というものだ。

実際私自身もそういう制度の設計を数多く行ってきたので、会社側の考えや事情もわかる。だから知人から「早期希望退職に応募しないと別の仕事に回されるんですけれどどうすればいいでしょう」という相談を受けた時には必ずこう答える。

「退職金を積んでもらえるうちに応募した方がいいですよ。多分その仕事がなくなるのはあなただけじゃなくて、会社全体で、でしょうから。残っていても今までやっていた仕事は絶対にさせてもらえません」

さらに一つ付け加えるとすればこうも言う。

「もし可能なら、転職や起業のための活動をするために3カ月だけでも会社に籍を置いてもらえるように交渉することをお勧めします。転職については最近でこそ就職の空白期間を気にしない会社も増えましたが、あえて空白期間を作る必要はないですからね。起業にしても会社の名刺がないと会えない人もいるかもしれませんから」

交渉というと大変に感じるかもしれないが、会社側の異動命令が実質的な退職勧奨だとすれば、交渉できる可能性は高い。

いずれにしても自立型の会社を選んだ時点であなたはキャリア構築を自己責任で行わなくてはならなくなっている。ロイヤリティ型や環境適応型の会社とはその点が大きく異なっている。

要約
ロイヤリティ型・環境適応型の会社での異動はジョブローテーションの一環であることが多い。ぜひ前向きに検討しよう
40歳からの転勤は、その次のポストがあるかどうかで判断する
自立型の会社での職種を超えた異動命令は深刻にとらえるべき

◇   ◇   ◇

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に3万部超のヒットになった『出世する人は人事評価を気にしない』のほか、『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。

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[日経Bizアカデミー2016年1月19日付]

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