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内田和成・早稲田大学ビジネススクール教授

内田和成・早稲田大学ビジネススクール教授

日本経済新聞の人材教育事業「日経ビジネススクール」と早稲田大学ビジネススクールは、早稲田大学日本橋キャンパスで、「日本発グローバル経営のあるべきかたち」と題したセミナーを開いた。人事の専門家である八木洋介・LIXILグループ執行役副社長、ボストン・コンサルティング・グループ元日本代表の内田和成・早稲田大学ビジネススクール教授、ベストセラー書『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』の著者、入山章栄・早稲田大学ビジネススクール准教授の3人が、鼎談した。

ハーバード人材育成法 知識から行動力、そして…

入山氏

入山氏

入山氏ハーバード大学ビジネススクールの例を紹介します。ハーバードのリーダー養成の哲学は、時代と共に徐々に変化してきました。キーワードでたどると、最初は知識を重視するknowing。20年ぐらい前からは、行動力を重んじるdoing。それがリーマン・ショック以降、beingに変わりました。自分たちは社会のためにどうやって生きるべきなのか、2年間の在学中に徹底的に考えさせるのです。プログラムも完全に見直し、例えば、現在は、毎年、日本の東北の被災地を訪れています。そうした行動を通じ、一人ひとりが自分の価値観をしっかりと身につける。それが現在、ハーバードがリーダー育成のために最も重視していることです。

八木氏 とても面白い話ですね。経営というのは、ロジックだけでは答えはでません。大きな組織を動かすには、最後は価値観や心が大切になってきます。だからLIXILでは研修などの場で、「あなたの価値観は何か」と聞き続けているのです。

内田氏 最後に、企業の幹部クラスの教育には何が必要か、ビジネススクールへの注文も含めて意見を聞かせて下さい。

八木氏 徹底的に知恵を高める研修をして欲しい。日本の経営者は経営の勉強をしなさすぎです。ビジネススクールを出ることがすべてとは思いませんが、せめて経営の基本的なところは勉強し、理解して欲しい。もう1つ望むことは、経営環境がものすごく変化しているので、経営の最先端のところをビジネススクールで教えて欲しいということです。重箱の隅を突くような知識ではなく、経営のど真ん中を教えるような授業を、ビジネススクールはするべきだと思います。気付きの場としても期待しています。

八木氏

八木氏

八木氏「わが社の人材教育は10点」

内田氏 企業の人事に対しては、何かアドバイスはありますか。

八木氏 これまでのやり方を変えるのは容易なことではありませんが、変えることを大変だと思うから、大変になる。大事なことは、チャレンジすること。LIXILの人材教育はけっして100点満点で100点ではなく、10点ぐらいです。でも競争相手が7点や8点だから、それでも勝つ。まずは行動を起こすことです。最初から完璧を目指さずのではなく、その時々のベストを尽くすことが大切です。

入山氏 経営幹部クラスがビジネススクールに通う意義の1つに、様々な人との出会いがあると思います。同じ業界に長年いると、付き合う相手はどうしても同質、同世代の人に限られてしまう。それでは、気付きができないし、異質な知の出合いもイノベーションも起きない。早稲田大学ビジネススクールは、いろいろな業界の人間、女性、外国人、若者など様々な人種がいて、まさにダイバーシティの世界。うまく活用すれば、会社に大きな利益をもたらすことができます。

◇  ◇  ◇

パネル討論に続いて、早稲田大学ビジネススクールが企業のエグゼクティブ向けに昨年9月に新設した教育プログラム「EMBA Essence」について、同校の長谷川博和教授が説明した。(以下はその要約)

長谷川氏

長谷川氏

長谷川氏 早稲田大学ビジネススクールは、これまでにも、企業のエグゼクティブ向けに様々な教育プログラムを用意してきました。例えば、経営者や役員向けには、毎年「CEOラウンドテーブル」を開催したり、5日間連続の「トップマネジメント研修」を実施したりしてきました。

そうしたエグゼクティブ向けプログラムをより充実させようと、昨年、新設したのがEMBA Essenceです。

早稲田で「グローバル経営」

EMBA Essenceは、将来、企業の経営を担うことが期待されている、主に部長職や上級課長職が対象で、授業は月2回、1年間継続のプログラムです。正規のMBAコースではないので修士号はもらえませんが、全体の70%の科目に合格すると、早稲田大学総長名の修了証が発行されます。

プログラムの特徴はまず、将来の経営者の養成を目的としているので、どの授業も、問題解決能力向上へのニーズを満たすことに特化した内容になっていることです。例えばアカウンティング・ファイナンスの授業では、財務諸表の作り方を学ぶというよりは、財務諸表を見てそれをどう経営に生かすかを議論するなど、常に経営の視点からのアプローチを重視しています。

授業は原則、日本語ですが、グローバル経営の要諦を学ぶ「国際経営」の授業は英語なので、英語の訓練もできます。

また、先ほどのパネル討論で、リーダーの条件として価値観やビジョンの重要性が指摘されましたが、プログラムの中にも、企業理念や社会的使命、ガバナンス制度などについて考える「ミッション」という授業があります。

講師陣の充実も特徴です。LIXILの八木さんのような日本を代表する経営者を講師として招き、受講生が1対1に近い形で対話できる機会を豊富に設けています。また、教授陣は、実業界出身とアカデミック出身の教授のバランスがよくとれていて、受講生の様々な疑問や、さらには、日々の仕事上の悩みに関する相談などにも個別に応じられる体制を整えています。

海外研修もあります。今年度は、2月に米西海岸を訪問。スタンフォード大学ビジネススクールでレクチャーを受けたほか、ツイッターやセールスフォースなどの企業を訪問するなどしました。非常に刺激的な研修だったと思います。

次世代のリーダー育成に力

根来氏

根来氏

刺激と言えば、各業界から将来を嘱望された受講生が集まっているので、彼らとの授業を通じた議論や交流は、大きな刺激となります。培った人的ネットワークは、生涯の財産になるでしょう。

最後に、この4月から早稲田大学ビジネススクールの学長に就任予定の、根来龍之教授が閉会のあいさつをした。

根来氏 私は、民間企業から大学の研究者に転身してからは、研究者として成功するためにはどうしたらいいかと、自分のことばかり考えていました。論文もたくさん書き、海外留学もし、学会の会長にもなった。しかし、数年前から組織のリーダーとしての仕事も任されるようになって思うのは、自分だけよくなっても、次の世代を育てないと社会や国家は立ち行かなくなるということです。本日のパネル討論を聞いていて改めてその思いを強くしました。企業も、次の世代を育てて行かないと、会社はよくならない。それは人事の役目でもあります。みなさん、一緒に、次の世代のために働き、次の世代を育てて行きましょう。

[日経Bizアカデミー2016年3月25日付]

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