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私の履歴書復刻版

第24回 創業50周年記念式典(上) 松下幸之助(パナソニック創業者)

2012/1/12

松下幸之助 パナソニック創業者

 松下電器が創業50周年を迎えた昭和43年は、くしくも日本の明治100年に当たった。この記念すべき年の初めに、突如としてアメリカのロストウ国務次官が、ジョンソン大統領の特使として来日し、アメリカのドル安定の面について日本の協力を求めてきた。2日に来日し、4日には離日するというあわただしい日程だったが、私はそのとき「これはだいぶアメリカの様相が変わってきたな。ちょうど100年前には、黒船が日本にやって来て開国を迫ったが、それからみると大変な違いやな」と、感慨ひとしおであったことを覚えている。

 と同時に“昭和元禄”という言葉が流行し始めたころで、国民はしだいにぜいたくに慣れ、日本はあげて、太平ムードに酔っていた。そんななかで私は、明治100年の年頭にあたり、自らを引き締める意味もあって、経営方針発表会で従業員に“昭和維新の志士”になろうと、次のように呼びかけたのである。

創業50周年記念式典で夫人とともに

 「本年は、わが社の創業50周年であると同時に、国家として明治100年に当たります。明治は、政治、産業、教育の各面で、新しい近代的な感覚のもとに国家の経営に入ったと申していいと思います。以来、国内の整備、発展に努め、戦争などいろいろの起伏もありましたが、そういう起伏を乗り越えて、線でこれを結びますと、結局、上昇の一途をたどってきました。そして、100年たった今日、日本は多くの点において大きく脱皮、発展をみたと言っていいと思います。

 この記念すべき明治100年の正月に、現在、世界の繁栄の中心をなしているアメリカから、大統領の特使が派遣されてきました。最近、アメリカの経済も、なかなか安泰ではあり得ない、ドルの安定を図るとか、その他経済上の問題に関しましても、日本にも協力をしてもらいたい、という意向が伝えられたのです。100年前は、あらゆる外国の知識を吸収するために、海外に援助を求めなくてはならなかったのですが、明治100年のこの年の正月に、世界第一の実力のある国、アメリカから頼られる国となったことは、まことに意義深いことであります。アメリカから頼られるというのは、とりも直さず、世界から頼られる国になったと言ってもいいでしょう。

 これからは、お互いに世界的な地位に目ざめた日本人として、明治維新の志士のような強烈な信念に立ち、身を挺して、世界に範を示し、世界の繁栄に尽くす昭和維新、世界維新の志士の役割を果たそうではありませんか」――。

 そんなことを話したちょうどその年、京都・東山の霊山【りょうぜん】にある京都霊山護国神社の総代の吉村孫三郎さんと、頼山陽の孫にあたるという頼新さんから、明治維新の志士たちの精神を今日に生かすために、国民の力でお祭りをしていきたいと思うが、という話が持ち込まれた。そこで調べたところ、この霊山一帯には、明治維新の志士たち3115柱の霊が祭られていて、戦前は国費でお祭りや手入れがキチッとされていたが、戦後は、心をかける人もなく、荒れるがままの状態であった。明治天皇のおぼしめしで志士たちの霊が祭られたといわれ、坂本竜馬や木戸孝允などのお墓があり、日本の近代化を開いた志士たちの遺徳をしのぶことができた。

 こうした日本の恩人ともいうべき維新の志士ゆかりの霊場を、このような状態で捨てておいたのでは国民として申しわけない、私たちが一家の祖先の墓を整え、その霊に感謝の念をささげるように、この霊場をキチンと整備し復旧して、さらに永く維持していくべきであろう。私もその務めを強く感じたので有志に呼びかけ相寄って「霊山顕彰会【りょうぜんけんしょうかい】」をつくったのである。

 その後、志を同じくする人もしだいにふえ、霊場もその周辺も整備して“維新の道”をつくり、志士たちの遺品や資料を集めて一般に公開する“霊山歴史館”も建てた。私は、この歴史館で坂本竜馬の遺品展を見たが、竜馬の書いた詩の掛け軸を見て、見事な筆だなあ、と感心したことがある。竜馬のような人は、若くして脱藩し、さんざん苦労して身を賭【と】して日本の近代化に尽くした。それだけ精神の訓練を積み、人間的にもやはり高い人なのだということが、この書を見てもうなずけるような気がした。

 この霊山顕彰会は、昭和50年の12月に“財団法人”の許可を受け、日本の伝統精神の基本に立って、さらに本格的な精神文化活動を進めてきているが、昭和維新の志士になろうという気構えはお互いにいつまでも失いたくないものである。

 この連載は、昭和31年8月および昭和51年1月に日本経済新聞に連載した『私の履歴書』をまとめた本「松下幸之助 夢を育てる 私の履歴書」(日本経済新聞出版社)を再掲したものです。毎週月曜日と木曜日に更新します。文中には今日、差別的とされる語句や表現がありますが、作者が故人であり、作品の発表された時代的・社会的背景も考慮して、原文のまま掲載しました。

[日経Bizアカデミー2012年1月12日付]

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