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早稲田大学大学院 経営管理研究科長予定者の根来 龍之氏

早稲田大学大学院 経営管理研究科長予定者の根来 龍之氏

経営管理修士(MBA)を取得するのが世界の潮流になっている。そうした中、世界に20年遅れていると言われる日本のビジネススクールでも、国際化の流れが加速している。国際認証の取得を目指すビジネススクールが増えてきたほか、EMBAというワンランク上の幹部を養成するためのMBAも登場した。一橋大学大学院や早稲田大学大学院のように学科を統合して内容の充実を図るビジネススクールも出てきた。日本のMBAの将来展望を、2016年4月よりビジネススクールとファイナンス研究科を統合し『早稲田大学大学院 経営管理研究科』として生まれ変わる同経営管理研究科長予定者の根来龍之氏に聞いた。
(インタビュー・文=高島三幸)

――前回は、日本のビジネススクールの現状と、世界から20年ほど遅れている理由を伺いました。近年の学生の傾向を教えてください。

早稲田大学ビジネススクール(WBS)は、夜間・休日(夜間主)のプログラムと昼間(全日制)のプログラムからなります。夜間・休日のプログラムに通う学生は、一部上場企業に勤めるビジネスパーソンが大半を占めています。転職や起業を目指す人もいますが、数としては社内昇進のために自分のスキルを高めることを目的にしたケースが多く見受けられます。キャリアアップのために転職して幹部としてバリバリ働くというよりは、社内での昇進やいざという時のために自分の価値を高めておきたいというリスクヘッジ的な動機の方が数としては多いように思います。

業界としては、上場企業の中でもIT関連やメディア関連など、時代の流れと共に不安定要素を多く抱える業界で働く人たちが目立ちます。今すぐ転職する気はなくても、"いつでも転職できるだけの力"を培うためにMBAを取得するようなイメージです。

技術系の学生も多く、経営をより深く学ぶことで、仕事の幅が広がって自分で異動希望が出しやすくなるなど、キャリアに厚みが出てきます。

また、近年の世界的に共通する傾向として、昼間の2年制プログラムに入学する学生が減少し、短期間で取得できる昼間の1年制や、夜間に通うプログラムへと学生がシフトしています。それは、20代の実務経験が乏しい若者がMBAを取得し、すぐ経営幹部として機能するかと言えば現実的に難しいという認識が世界的に広がりつつあるからだと思います。それなりの実務経験を積んだ社会人がMBAを学んだ方がより早く実践に結びつきやすく、その"働き盛り世代"が通うには、1年という短期間で学んですぐ労働市場に復帰するか、働きながら夜間に通う選択が現実的です。日本でも、昼間のMBA市場は横ばいですが、夜間・週末にビジネススクールに通う方は少しずつ増えています。

国際認証取得を目指す日本のビジネススクール

――日本のビジネススクールは、「世界から20年遅れている」状況を打破するために、どのような動きがありますか。

海外のビジネススクールでは当然のように取得している国際認証を、日本のビジネススクールも取得しようとする動きがあります。前編でもお話した「AACSB(The Association to Advance Collegiate Schools of Business)」、「EQUIS(European Quality Improvement System)」、「AMBA(the Association of MBAs)」という三大認証機関のうち、1つまたは2つの機関から認証を受けようというものです。

国際認証を取得すれば、"世界的に認められたビジネススクールの証"になり、日本のビジネススクールの格付けはアップするでしょう。また、留学生の交換や、ダブルディグリー・プログラム(相手校への留学を通じ、卒業時に自校の学位と相手大学の学位を両方取得できる教育プログラム)といった、海外のビジネススクールとの国際提携時にも有利になります。ビジネススクールのグローバル化を図るには、認証の取得は必須条件です。

とはいえ、国際認証を取得するには取得できる基準や規模などの条件を満たす必要があります。前回も少しご紹介しましたが、教員の数、教員の国際性、英語プログラムを含めたカリキュラムの質の確保と国際化、学生の国際性など、AACSBの場合は15の評価基準をクリアしないと、国際認証を取得できません。必然的に規模が小さい学校は得るのが難しくなります。

日本では既に慶応義塾大学と名古屋商科大学が国際認証を持ち、現時点では未認証校ではありますが、おそらく国際認証の基準に潜在的に達しているのは、早稲田大学、立命館アジア太平洋大学(APU)、一橋大学、国際大学などでしょう。

日本のMBAは企業の実践に結びつきやすい

海外へのビジネススクールの企業派遣が減少し、短期間でできれば費用を抑えたい人がいる中で、日本のビジネススクールのレベルアップやグローバル化が求められています。日本のビジネススクールが競争しながら国際化を進めれば、海外に留学しなくても海外と同等に近いレベルの授業が受けられるようになるはずです。

海外に留学するよりも費用を抑えられる点以上に、日本のビジネススクールは日本での実践に結びつきやすいという特徴があります。日本企業における経営マネジメントのケーススタディを豊富に持っているからです。

例えばWBSの教授陣は、アカデミックな分野で最先端の知識を持つ学者と、日本企業の実務に関するナレッジを豊富に持っている大手コンサルティング会社のトップコンサルタントだった実務経験者が半々ぐらいで構成されています。

教員の国籍や研究のいっそうの国際化は課題としてありますが、WBSの教授陣は国内のビジネススクールにおいて非常に充実し、交換留学等を通じて海外のビジネススクールからも高い評価を得ており、教育の質はレベルが高いと自負しています。さらにカリキュラムが充実させていけば、海外のトップ企業から日本のビジネススクールに派遣されるケースも増えてくるでしょう。

東京五輪開催などで日本が注目されている今、海外勢に対抗できるだけの体制が備われば、日本のビジネススクールは一気にグローバル化へと進む良い機会となります。日本のビジネススクールで育ったアジアの学生が、そのまま日本企業で活躍してくれるようになれば、企業から見たMBAホルダーの価値も上がるはずです。

大胆な改革を進める早稲田、一橋

――国際認証を取得して、グローバル化を図るために、ビジネススクールの近年の動きはどうなっていますか。

各ビジネススクールとも大胆な改革を行っているところが多いです。一橋大学大学院は、商学研究科、国際企業戦略研究科、法学研究科といった3つの大学院研究科を再編成して「一橋ビジネススクール(経営管理研究科)」と「一橋ロースクール(法学研究科)」を2018年4月に設立すると発表しています。

早稲田大学大学院では、2016年4月から現在のビジネススクール(商学研究科ビジネス専攻)とファイナンス研究科を統合し、新しく「経営管理研究科」を開設します。人気の学科をなぜ統合するのかとよく聞かれますが、実はビジネススクールとファイナンススクールが別々に存在する学校は世界的に見てあまりないのです。WBSの場合は、ビジネススクールはもともとアジア太平洋研究科にあり、それが商学研究科の夜間プログラムと2007年に統合したという歴史があります。

それとは別に2004年にファイナンス研究科を作ったために、ファイナンス分野の専門性という観点ではファイナンス研究科に数多くの優秀な先生が集まり、規模も大きく質も高いものになりました。しかし、もともとビジネスとファイナンスというのは国際的なビジネススクールでは2大柱なのであり、そうした歴史的な経緯を経て、今回1つに統合したという流れになります。

人のネットワークが広がることに

MBAの本場である米国でも、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールやコロンビア大学などファイナンスに力を入れているビジネススクールが増えています。ファイナンス研究科との統合の狙いは、そういった世の中の流れやファイナンスの重要性の高まりを日本のビジネススクールとしていちはやく取り込み、より実践的かつ総合的な教育につなげたいと思っているからです。

具体的には、コア科目(必須科目)は増えませんが、MBA のカリキュラムにファイナンス系の科目をたくさん追加するので、選択科目は約1.5倍に増えます。また『夜間主プロフェッショナルコース(2年制)』にファイナンス専修(サブコース)を新設し、『夜間主総合コース(2年制)』にファイナンス関連ゼミを増設します。さらに昼間に英語でファイナンス分野に特化して学ぶMSc(Master of Science) in Financeという新しいプログラムを設置します。

この統合によって、専任教員数で国内最大のビジネススクールになります。学生人数も年255人の定員になります。この規模の拡大は、業界や学生への認知度アップにつながるだけでなく、人的ネットワークとしての魅力増にもなります。新WBSは、発足時にすでに約4500人の卒業生がいる学校になります。人のネットワークが広がることは、卒業生にとってメリットがとても大きいと言えます。

さらに、昼間のMBAプログラムは、グローバルマインドを持ったリーダーを育てるため、英語で学ぶこともできます。また、英語科目と日本語科目をまぜて学ぶこともできます。

ワンランク上を目指すEMBAに人気

――話題のEMBAとはMBAとはどう違うのでしょうか?

最近の世界的なトレンドとしてはエグゼクティブMBA(EMBA)も注目され始めています。近い将来、日本企業相手に海外のビジネススクールと一緒に経営幹部研修を行う計画も立てています。具体的には、スイスに拠点を置くIMD(フィナンシャル・タイムズのEMBAプログラムランキングで世界第1位)や米国のウォートン・スクール(ビジネスウィークのMBAランキングで10年連続1位)といった海外のビジネススクールと協力して日本企業に研修を提供するということも模索しています。

EMBAは、役員候補のためのMBAで、中国やシンガポール、香港でも流行しています。対象とするイメージは35歳以上の部長クラスですが、日本では40代以上でしょうか。中国の有力校では2年間で日本円に換算して2000万円ほどの学費がかかる所もあります。国際的には20代後半が中心となる昼間のMBA市場は、あまり成長していません。それよりも、すぐに経営を担う立場になる人が求める資格というイメージでEMBAに人気が出てきているのです。

日本では、既に慶応義塾大学大学院経営管理研究科が、勤続15年以上の人が入学できる「エグゼクティブMBA」(2年間)を始めています。一橋大学大学院も2018年から開始する予定です。

早稲田大学ビジネススクールでは、修士号は出ませんが、月2日ペースで1年間学び、条件を満たした人に修了証を発行するEMBA ESSENCEというプログラムを昨年9月から始めました。実務経験10年以上の部課長クラス向けプログラム(企業推薦者のみ受入)で、経営戦略やファイナンス、トップ経営者との対話などの授業を中心に1年間学びます。

いずれにせよ、日本のビジネススクールが切磋琢磨しながらグローバル化を図り、世界から認められる教育環境を整えることで、やる気のある学生が集まってきます。企業の経営幹部にMBAホルダーが増えてくれば、MBAの重要性が認知され、グルーバル社会に負けないビジネスパーソンが育ち、日本企業の競争力も高まっていくはずです。

根来 龍之(ねごろ・たつゆき)
早稲田大学ビジネススクール教授

1952年三重県生まれ。京都大学文学部社会学専攻卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。鉄鋼会社、英ハル大学客員研究員、文教大学などを経て現職。2003年より早稲田大学IT戦略研究所所長、2010年から早稲田大学ビジネススクール・ディレクター(統括責任者)も務める。ITと経営、ビジネスモデルなどを研究テーマとする。

◇主な著書:
『事業創造のロジック』(日経BP社) 2014年
『プラットフォームビジネス最前線』(翔泳社) 2013年
『代替品の戦略』(東洋経済新報社) 2005年

[BizCOLLEGEから転載、日経Bizアカデミー2016年3月2日付]

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