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グローバル人材の育成に力を入れる日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼最高経営責任者(CEO)。日産以外の大手企業の幹部候補生の研修にも参画。昨年10月には早稲田大学ビジネススクールの池上重輔准教授が代表質問役となり、ゴーン氏が答える形で特別講座を展開した。

<<(上)ゴーン先生「経営者にスーパーマンはいない」

嫌いな上司に学ぶ

――我々受講生の大半は各企業のミドルマネジメントを担っています。中間管理職が変革を起こせるのでしょうか

私もミドルマネジメントにいたことがある。極めて重要な経験だった。ミドルには上司、部下の中間にいる。リーダーの意思決定も知り、部下とともに現場も知る立場だ。やりがいのある仕事であり、いい経験になる。上司との関係で、嫌な思いをすることもあるだろうが、そのほうが勉強になることがある。

実はある上司は私を信頼してくれなかった。信頼してくれれば、もっと貢献できたのにと思った。しかし学ぶことも多かった。ミドルマネジメントは将来のリーダーになる上で重要だ。下っ端だと、責任はない。ミドルは現実との接点があり、部下もいる。

ミドルチームが日産を再生した

危機的な状況下でミドルマネジャーができることは多い。どの企業も成長、利益、品質、コストを気にする。リーダーがどんなに悪くても、これに敏感でないといけない。ミドルはチームの中で、基本的な仕事に加え、これらにどう貢献できるか考える。小さい取り組みでも。過小評価してはいけない。

変革する際にはこういった人材が必要となる。日産リバイバルプランでは(組織横断の)クロスファンクショナルチームをつくった。ミドル中心に編成した。ミドルは現実を分かっていた。だから1つ1つ解を導き出すことができた。

もっと重要な判断は人選だ

ミドルにとって危機の会社は素晴らしいチャンスだ。好調な会社だと違いを出せないが、苦しいからこそ、違いを生み出して、目立つことができる。だからこそ厳しい企業に入るべきだ。自分の力を示すチャンスだ。確かにリスクはあるが、そこでワクワクすべきだ。99年当時、組織横断の再生計画策定チームに参加した多くの人間はミドルだったが、いまはリーダーになっている。

――日産の失敗事例からも学びがあった。ゴーンさんが最も後悔している経営判断があれば教えてください。

マネジメントは決断を下して、すべて成果をだすわけではない。例えば飛行機に乗っていると、通常はテイクオフして、着陸して何もおこらなかったと客は思うが、実はパイロットは様々な課題に直面している。どんな時も完璧な時なんてない。(裏側で)いくつか機能不全があっても、ほとんどの場合はちゃんと到着する。

経営も同じだ。完璧な判断はない。全力を尽くすが、ときにはミスを犯す。ただ何百、何千という判断の大半がうまくいくことが肝要だ。トップマネジャーがやっている重要なことは人選だ。

この人選が本当に正しいかどうかわかないが、決定しないといけない。結果は3年ぐらいたたないと分からない。私は決断の重要性は認識はしている。最大限の知識と、理解で決断しているが、ミスを犯す可能性もある。それは後になってわかる。成功するのはほとんどの決断が正しいとき。技術や商品開発、新規市場への参入、誰に任せればいいのか、どの人が適切なのか。一定水準の問題であれば飛べる。だが一定水準をこえると、飛べなくなる。

カルロス・ゴーン氏

カルロス・ゴーン氏

裸の王様 ありえない

――日産のトップを長く務めているわけですが、「裸の王様」にならないように工夫していることはありますか。リーダーにはすばやく正しい情報が上がる必要性があるわけですが、長期政権となるなかで、難しくなっている面はないのでしょうか。

事業をしていると、明確に問題があるかどうかは分かる。ビジネスの指標は明快だ。売上高、利益はプラスか。自己資本は向上しているか。いくつかの数値で分かる。政治とは違う。株主や消費者もみんな数値を追っている。しかも常に激しい競争にさらされている。ちゃんとした情報がないと正しい判断はできない。そうなれば、会社は傾く。裸の王様になることはできないと思う。

99年当時の日産は客観的な指標がなかった。信じがたいことだが、会社を示す指標がなかったわけだ。正確な従業員数を把握するのにすら2カ月もかかった。CFO(最高財務責任者)もいなかった。車種別の利益率など分からなかった。数字がないから何も見えない。唯一の手段は現場に行くしかなかった。

現在の日産は極めて健全な企業になった。車ごと、市場ごとで詳細な数値が分かっている。ただ、どのように従業員が思っているか、戦略を理解しているか、モチベーションはどうか、を知るためには現場に行く必要がある。幹部会議であるエグゼクティブコミッティーで、従業員の調査結果もみる。それは不足の部分に目をやるために実施している。スコアの悪いところ。従業員が嫌な部分はどこか。例えば組織の煩雑さがどこにあるのか、どうして従業員は文句をいっているのか。今の日産にはツールはそろっている。競争が一段と激化する中、裸の王様になっている暇などない。フリクションもある。会社は壁にぶつかる。重要な決断をするには従業員のいっていることを把握しないといけない。裸の王様などありえない。

(代慶達也)

〔2015年10月20日公開の日経Bizアカデミーの記事を再構成〕

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