鍋物など温かいものが恋しい季節になってきた。相方もやはり温かく燗(かん)をつけたお酒を合わせたい。一般にどっしりとしたうまみや酸味のある酒が燗に向くといわれるが、どの銘柄を選べばよいのだろう。一升瓶が3000円以内(税別)で、百貨店などで買える日本酒から、燗に向く銘柄を専門家に選んでもらいランキングした。
1位に輝いたのは兵庫県の「龍力 特別純米 生酛(きもと)仕込み」。力強い味わいを生む伝統の醸造法で造られた酒で、3位の「大七 純米生酛」(福島県)なども同じ製法だ。「船中八策 純米超辛口」(高知県)など辛口の銘柄も上位に並んだ。
燗酒は味わいや料理に合わせやすいことに加え「冷酒より体に優しい」(福田健大郎さん)のが魅力。冷酒はアルコールの吸収に時間がかかり、酔いを感じる前に杯を重ねがち。だが、燗は早く酔い心地になり飲み過ぎを防げる。忘年会の時期にぴったりだ。
燗は温度により様々な呼び方があることも知っておきたい。30度前後の「日なた燗」から温度が上がるにつれ人肌燗、ぬる燗、上燗、熱燗、飛びきり燗と変わっていく。蔵元推奨の温度だけでなく、自分の好みやさかなに合った温度を探すのも楽しい。もちろん、飲み過ぎにはご用心を。
■最高級「山田錦」のうまみ存分に 酒造りに向く米「山田錦」の中でも、兵庫県の特定の地区で作られた最高級のものを100%使用した特別純米酒。時間をかけて自然に乳酸菌を培養する昔ながらの酒造法「生酛造り」の酒で、「うまみの質が良い」(多田正樹さん)。常温にも向くが「燗をつけることで酒に立体感が出てくる」(松崎晴雄さん)。温めた時でも「酒質とバランス、香り、全て素晴らしい」(花岡賢さん)と高い評価を得た。「最初のインパクトは強く、後はすっきり」(小林義尚さん)との声も。料理は煮魚や焼き魚、甘辛い煮物、かす漬けなどに合う。
(1)16度(2)3240円(3)(電)079・273・0151(4)常温から熱燗
■料理を引き立てるキレ 1603年創業の老舗蔵元による、高知を代表する酒。名水・仁淀川水系の湧き水を仕込みに使っている。すっきりとキレの良い辛口で「料理を引き立て、邪魔しない。気付くとずっと飲んでいそうなお酒」(林律子さん)と飲みやすいのが特徴だ。うまみとのバランスも良い。「上品で優しい膨らみ」(多田さん)、「仕事の後に優しく抱きしめられているようなタイプ」(山同敦子さん)、としみじみと飲めそうな1本。相性が良い料理はすしや刺し身、イカの塩からなど。
(1)15度以上16度未満(2)3024円(3)(電)0889・22・1211(4)冷酒からぬる燗
■深いコク、和食全般にマッチ 1752年の創業時から生酛造りにこだわる蔵元の純米酒。深いコクと濃厚な味わいが燗にぴったりだ。「甘み、酸味、苦みといった多様な味わいがばらつくことなくまとまっている」(松崎さん)、「温まると味が開く。食中酒に最適」(千葉義幸さん)と評価された。和食全般に合い「食欲をかきたてる」(宮沢一央さん)との声も。
(1)15度(2)2749円(3)(電)0243・23・0007(4)常温から熱燗
純米酒にこだわる蔵元。じっくり熟成させた濃厚な味わいが売りだ。「うまみがたっぷり。ビール、吟醸酒を飲んで最後に締めるならこれ」(小林さん)。「熱々にしたらおいしそう」(宮沢さん)、「温度を上げないと味のバランスが取れない」とまさに燗向きとの声が目立った。うまみが濃い煮魚やすき焼き、しょうゆ味の料理に。
(1)15度以上16度未満(2)3188円(3)(電)048・768・0115(4)ぬる燗から熱燗
兵庫県産の山田錦を100%使用したキレの良い辛口酒だ。「燗をつけた時に味がよく膨らむ」(宮沢さん)。すっとした飲み口で、「後のキレがよく、ずっと飲み続けられる」(岩渕徹さん)。料理は魚介類のほか「洋食にも合いそう」(多田さん)。
(1)15度以上16度未満(2)2748円(3)(電)0776・22・1541(4)常温から上燗
お燗のために造られた純米酒で、「酸がとても豊かで特徴的」(池田一郎さん)と酸味を挙げる声が目立った。「青背魚にも合えば、モツのようなこってり系もいけそう」(林さん)。肉料理やチーズにも。
(1)15度(2)2646円(3)(電)0184・35・2031(4)ぬる燗から熱燗
東北の銘酒。じっくり醸す「山廃仕込み」で、さらに1年熟成させ、深みのある味わいに仕上げた。「味がぎゅっと詰まっている」(沼崎義明さん)。「穏やかな香りが落ち着く」(多田さん)。サトイモの煮ころがしや筑前煮などが合う。
(1)15度(2)2489円(3)(電)0229・55・3322(4)常温から熱燗
奥多摩にある東京を代表する蔵元の一つ。「燗にした時の甘みと熟した果実のようなニュアンスがいい」(池田さん)。飲みやすく「角の取れたなめらかなうまみが広がる」(松崎さん)。
(1)15度以上16度未満(2)2268円(3)(電)0428・78・8215(4)常温から上燗
落ち着いた柔らかな風味の純米酒。「味のバランスが良く、お燗に慣れない人にも楽しめる。合わせられる食事の幅も広い」(福田健大郎さん)
(1)15度(2)2592円(3)(電)0266・52・6161(4)常温からぬる燗
生酛造りで米のうまみをしっかり引き出した。「とがったところがなく、肩の力が抜ける安心感がある」(宮沢さん)。
(1)15度(2)2490円(3)(電)0166・48・1931(4)冷酒からぬる燗
<お燗をおいしくつけるポイント>
まろやかな味にしたい
→ 鍋にとっくりを入れ、水から火にかけ、ゆっくり温める
辛めにつけたい
→ 熱くなりすぎたら、とっくりを水につけて調整
お燗の温度を知ろう
日なた燗(30度目安) 人肌燗(35度) ぬる燗(40度) 上燗(45度) 熱燗(50度) 飛びきり燗(55度) *純米酒は45度を超すと辛くなるのでご注意を
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表の見方 数字は選者の評価を点数にした。商品名と酒造会社名、本社所在地(1)アルコール度数(2)消費税込み価格(3)蔵元の連絡先(4)おすすめの温度
調査の方法 三越伊勢丹、そごう・西武、高島屋の日本酒バイヤーの推薦をもとに、一升瓶で税抜き3000円以下の日本酒20本のリストを作成。それぞれ45度に温めたもの=写真=を専門家12人にブラインドで試飲してもらい、味わいや香りが良い日本酒を順位付けした回答を集計した。選者は次の通り(敬称略、五十音順)
池田一郎(編集者)▽岩渕徹(奥藤商事製造部)▽小林義尚(大塚「酒蔵きたやま」)▽山同敦子(酒ジャーナリスト)▽多田正樹(神楽坂「月よみ庵」)▽千葉義幸(ファイヤーバード社長)▽沼崎義明(サンシン営業部)▽花岡賢(飲食店日本酒提供者協会理事長)▽林律子(「料理通信」編集部)▽福田健大郎(荒木町「ろっかん」)▽松崎晴雄(日本酒輸出協会会長)▽宮沢一央(四ツ谷「日がさ雨がさ」)