専門家お薦め 古典落語で気持ちも華やぐ初笑い
有名な古典落語をCDやDVDで聴いて腹の底から笑いたい――。そんな人にお薦めの人気演目を、専門家に選んでもらった。ばかばかしい滑稽噺(ばなし)から心温まる人情噺まで、初笑いのネタは多彩だ。
最後は皆に幸来る
主人公の長兵衛は腕のいい職人だが勝負ごとにはまって借金だらけ。一人娘のお久が窮地を救うべく、吉原の遊郭に自ら身売りしようとする。ふびんに思った遊郭の女将は長兵衛に50両を貸し与え、「1年で返せばお久を店に出さない」と言う。50両を懐に家路についた長兵衛は、集金した50両を盗まれて橋の上から身投げしようとしていた商家の手代・文七に出会う……。「古今亭志ん朝が演じた文七元結は名作中の名作」(川浪和名さん)
▼お薦め CD=古今亭志ん朝「落語名人会4」(ソニー・ミュージック、写真)、DVD=志ん朝「落語研究会古今亭志ん朝全集 上」(同)、三遊亭圓生「落語研究会六代目三遊亭圓生全集 下」(同)
今に通じる親子の姿
▼お薦め CD=金原亭馬生「なごやか寄席」(ユニバーサルミュージック)、柳家小三治「昭和の名人十代目柳家小三治 四」(キングレコード、写真)、笑福亭松鶴「てんこもり!六代目笑福亭松鶴全集」(日本音声保存)
洒落た会話にたくましさ
▼お薦め CD=柳家小さん「NHK落語名人選49」(ユニバーサルミュージック)、笑福亭松鶴「六代目笑福亭松鶴5」(日本伝統文化振興財団、演目は「貧乏花見」、写真)
いい人同士の譲り合い
▼お薦め CD=古今亭志ん生「古今亭志ん生名演大全集5」(ポニーキャニオン)、DVD=古今亭志ん朝「「落語研究会古今亭志ん朝全集 上」(ソニー・ミュージック)
縁起の良さピカイチ
▼お薦め CD=古今亭志ん生「五代目古今亭志ん生16」(日本伝統文化振興財団)、DVD=桂文楽「落語研究会八代目桂文楽全集」(竹書房)
ぱっとしない道具屋が仕入れた薄汚い太鼓のほこりをとろうと小僧に叩かせていたら、通りかかった殿様の耳にその音が届き、屋敷に持参するように命じられる。おとがめかと道具屋はドキドキ。「ジェットコースターのように話に起伏があり、高揚感がある」(青木伸広さん)
▼お薦め CD=古今亭志ん生「五代目古今亭志ん生名演大全集2」(ポニーキャニオン)
商家の酒好きの大旦那が、やはり酒好きな息子を心配して一緒に禁酒しようと持ちかける。だが父親の大旦那は息子の留守中に酒を飲んでしまう。息子が帰宅して慌てるが、息子の方も何だか様子がおかしくて……? 「十代目金原亭馬生がダメな親子を肯定する温かさがあっていい」(和田尚久さん)
▼お薦め DVD=馬生「落語研究会十代目金原亭馬生全集」(ソニー・ミュージック)
植木職人が、商家の夫婦の青菜を巡るしゃれた上品な言い回しに感動し、長屋で女房相手にまねをする。
▼お薦め CD=桂文我「三代目桂文我1」(日本伝統文化振興財団)
いつも偉そうな男が「饅頭がこわい」と言うので、周りの若者たちが饅頭をたくさん買って懲らしめようとするのだが実は……。
▼お薦め CD=柳家小さん「五代目柳家小さん名演集7」(ポニーキャニオン)
仕事はできるが酒好きの魚屋が大金を拾う。そのお金で泥酔した翌朝、女房から拾ったのは夢だといわれる。夫婦愛を描く名作。
▼お薦め CD=桂三木助「昭和の名人三代目桂三木助 一」(キングレコード)
表の見方 数字は選者の評価を点数にした。お薦めのCD・DVDは落語の録音・監修を多数手がける録音エンジニアの草柳俊一さんに選んでもらった。落語CDは1枚2000円前後が多い。
聴き比べも また楽し
一般に明治期以前に作られた演目を古典落語、それ以降の演目を新作落語と呼ぶ。関東の江戸落語と関西の上方落語の2つの流れがある。
演芸ジャーナリストのやまだりよこさんは「東京の演目にも上方から取り入れたものが多い」と話す。同じ演目でも江戸の粋な落語と、商人文化が背景にある上方落語では語り口も物語も違うので聴き比べると面白い。
落語を生で楽しみたいなら東京都内の浅草演芸ホール、新宿末広亭、鈴本演芸場や大阪市の天満天神繁昌(はんじょう)亭などの寄席がある。1月は人気の落語家たちが出演して大変にぎわう。
ただ寄席ではどんな演目をやるか落語家が登場するまで分からない。太い書体で紙の札に記されるのも実は演者名だけ。このため特定の演目を聴きたいならレコード店や通販サイトでCDを入手するのが近道になる。ここに挙げた以外にも様々な名人のCDなどがあるのでまず手に入れられるものから聴いてみよう。
評論家の矢野誠一さんは「落語は究極の個人芸で、同じ演目でも落語家によって世界が違う」と話す。そうした世界への道案内として江戸落語の古今亭志ん生、上方の桂米朝をはじめ名人のCD全集なども出ている。
ランク外だったが、旅人が見事にキツネにだまされる「七度狐(しちどぎつね)」などは「上方の特徴であるおはやしがふんだんに入る」(小佐田定雄さん)演目で華やかな雰囲気を楽しめる。笑顔が絶えない一年を。
◇ ◇ ◇
調査の方法 「古典落語」(興津要編)、「新版落語手帖」(矢野誠一著)などを参考に、楽しく笑える代表的な古典落語を100演目選出し、このリストなどを基に落語に詳しい専門家にお薦めを最大10演目まで挙げてもらった。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)
青木伸広(らくごカフェ代表)▽小佐田定雄(落語作家)▽川浪和名(ミュージック・テイト西新宿店)▽京須偕充(落語評論家)▽佐藤友美(「東京かわら版」編集人)▽瀧口雅仁(演芸評論家)▽中川悠(オールアバウト「落語」ガイド)▽安原真琴(映像制作・作家)▽矢野誠一(評論家)▽やまだりよこ(演芸ジャーナリスト)▽和田尚久(放送作家)
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