東の1位は富岡製糸場 一度は訪れたい赤レンガ建築
明治の郷愁、市民交流のシンボル
赤レンガ造りの建物は明治・大正期の郷愁を誘う。関東大震災までの50年ほどの短い間に役所や学校、工場など様々な建物が造られた。そこで一度は訪れたい赤レンガ建築を専門家に挙げてもらった。
<東日本>
屋根に日本瓦、建築技術の融合
壁に当時の新材料であるレンガ、屋根に昔ながらの日本瓦を用いるなど西洋と日本の建築技術をうまく融合させている。レンガの長辺と短辺の各面を交互に積む「フランス積み」が美しい。「海外の人たちにも見てほしい」(勇士淑子さん)。6月に製糸場と絹産業遺産群が世界遺産に登録された。(1)午前9時~午後5時、料金大人1人500円(2)上信電鉄上州富岡駅から徒歩約15分(3)(電)0274・64・0005
日本を代表する威容
だが第2次世界大戦の東京大空襲で南北のドームや屋根を焼失し、戦後は2階建て駅舎として再建された。2012年に、約5年の歳月をかけた復元工事を経て創建当時の姿がよみがえった。「日本のレンガ建築の頂点。戦前の意匠に堂々と復元された姿は圧巻」(藤原さん)。12月20日に開業100周年を迎える。JR東日本のホームページに特設サイトがある。
港との相性に思わず納得
「開拓使の人々が出てきそうな堂々としておしゃれな建物」(増田彰久さん)の中には北海道開拓の歴史資料などを展示している。(電)北海道庁総務課011・204・5019
トンネルや変電所が緑の中に残る。高さ約91メートルのアーチ橋「めがね橋」は「完成時の人々の驚いた様子を思うだけで楽しい」(佐藤さん)。遊歩道を歩ける。(電)安中市商工観光課027・393・1126
<西日本>
威風堂々、市民に愛される存在
2002年に市民の寄付も募って全面改修された。ライトアップした夜の姿も美しい。(1)毎月第4火曜日休館、午前9時30分~午後9時30分(2)地下鉄御堂筋線・京阪電鉄淀屋橋駅から徒歩約5分(3)(電)06・6208・2002
アーチ沿いに歩いて鑑賞
南禅寺境内にあり、「月日を経たレンガがなじんだ風景が美しい」(小池利佳さん)。京都市内には同志社大学や旧日本銀行京都支店など近隣に赤レンガのみどころが多く、足を延ばしたい。(1)水路閣見学は無料(2)地下鉄東西線蹴上駅から徒歩約10分(3)南禅寺のホームページhttp://www.nanzen.net/
旧海軍の倉庫群、今に生かす
平戸市の田平天主堂や小値賀町の旧野首教会など2016年の世界文化遺産登録を目指す施設群の一部。「佐世保市の黒島天主堂は背面局面美が絶景」(堀勇良さん)(電)長崎県世界遺産登録推進課095・894・3171など
かつてあった「カブトビール」の醸造工場として1898年(明治31年)に建てられた。現在は改修中で、来春、復刻ビールなども飲める観光拠点として再生する予定だ。(電)半田市役所企画課0569・84・0605
表の見方 数字は選者の評価を点数化した。名称、カッコ内は所在地、(1)開館時間や大人1人当たりの入場料(2)主なアクセス(3)問い合わせ先 写真は東西各1位以外は、建築写真家の増田彰久さん撮影・提供、東1位は富岡市・富岡製糸場の撮影協力。記事中のリンクは掲載時のものです
独特の素朴な温かみ
明治時代の建物には歴史を感じさせるたたずまいや独特の建築様式がある。市民の間などで保存運動が盛り上がり、東の3位「横浜新港埠頭倉庫」のように風情はそのままに新しく生まれ変わるケースも多い。
建築史家で東京大学名誉教授の藤森照信さんは「赤レンガに思いを寄せる人たちがこんなに多いのは日本や英国くらい。独特の温かみや素朴さが好まれる」と話す。焼成温度によって変わるレンガの色合いも見ものだ。
赤レンガ建築を中心にした地域おこしも盛んで、宮崎県日南市の「油津(あぶらつ)赤レンガ館」は住民有志が買い取り市に寄贈し、交流施設となった。新たな息吹を感じるのもまた楽しい。
<番外> 観光スポットではないけれど
奈良少年刑務所(奈良市) 施設の性格上、一般的ではないが刑務所には赤レンガ建築の傑作が多い。ジャズピアニストの山下洋輔さんの祖父で、監獄建築を手掛けた山下啓次郎氏の設計だ。敷地内にも複数の赤レンガ建築があるが普段は正門などを外から眺めるだけ。
旧下野煉瓦窯(栃木県野木町) レンガを焼成する窯。中央の1本の煙突をドーナツ状の窯が取り囲む。最盛期に全国で数十基が稼働した。完全形で残るのはここのみ。やや離れた道路から見られるが今は改修中で入場は不可。2016年には観光施設も兼ねた交流拠点となる予定だ。
◇ ◇ ◇
調査の方法 全国の赤レンガ建築を対象に、「赤煉瓦(れんが)ネットワーク」事務局の協力や専門家の推薦で全国47カ所を選出。候補を基に選者が(1)歴史的な側面や建築物としての価値(2)外観の美しさ(3)商業・観光施設としての楽しさなどの観点からお薦めを原則10位まで選んだ。リスト外は番外として挙げてもらった。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)。
雨宮健一(KNT-CTホールディングス国内旅行部)▽小池利佳(公益財団法人日本交通公社客員研究員)▽佐藤啓子(アートプロデューサー)▽内藤恒平(赤煉瓦ネットワーク事務局長)▽藤森照信(東京大学名誉教授)▽藤原恵洋(九州大学大学院教授)▽堀勇良(横浜歴史資産調査会理事▽増田彰久(建築写真家)▽水野信太郎(北翔大学教授)▽勇士淑子(JTB国内旅行企画東日本事業部)▽米山勇(江戸東京博物館研究員)
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