買ったときの持ち帰り方でも、刺し身の味わいは大きく変わってしまう。

鮮魚の流通にはコールドチェーンという仕組みがある。魚を捕ったときから店頭に並ぶまで、常に氷に触れる状態にすることで鮮度を保つ。

「温度が上がると、魚が持つ酵素が活性化し、魚を劣化させる。細胞膜が破られ、ドリップとともに“うまみ”も流出してしまい、食べた時に味の余韻が感じられなくなってしまう」――。こう解説するのはサスエ前田魚店(静岡県焼津市)5代目の前田尚毅さん。「酵素を活性化させないためには、冷やすことが必要になる」

酵素は外気温であっという間に活性化するため、いかに冷えた状態のまま持ち帰るかが重要だ。少しの時間だからと無造作に持ち帰るのはやめよう。まだまだ気温が高い日もあるので、保冷バッグを使うのが理想だ。その上で氷や保冷剤で冷たい状態をキープする方法を実践したい。

スーパーなどでは冷却用のカットアイスを製氷機から自分でポリ袋に詰める場合も多い。氷を普通に袋に入れて口を結ぶとゴツゴツした塊になり、そのまま刺身トレーの蓋にのせても、冷気が触れる面積が少ないため効果は限定的だ。氷の表面積が大きくなるように袋に入れれば、冷却効果を高めることができる。

保冷バッグがないときは、ショッピングバッグの口を閉じ、できるだけ外気が入らないようにするだけでも効果があるという。「空気を入れないことで冷気が動かなくなり、氷が解けにくくなる」と前田さんは説明する。

一般的には氷を砕いたカットアイスの方が冷却効果に即効性があるが、保冷剤を使う場合は、複数でトレーの上下を挟むとよい。難しい場合はケースの下に敷く。「刺し身とケースの蓋の間には空気の層があるので、下に敷く方が冷気が伝わりやすい」(前田さん)からだ。

せっかくの刺し身、ひと工夫してもっとおいしくいただこう。

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氷の空気抜き、表面積大きく

前田さん推奨の氷袋の作り方。まずカットアイスを入れたポリ袋をぐるぐるとひねり、中の空気を追い出す。できるだけ上の方で口を縛り、その後ねじりを戻す。これで余計な空気が入っていない氷袋ができる。冷却効果を高めるため、袋はできるだけ平らに整え、表面積を大きくとろう。

刺し身が入ったトレーの蓋がしっかりしたプラスチック製なら氷袋は上に置く。ラップだけなら刺し身を潰さないよう、氷袋はトレーの下にあてる。冷え過ぎで刺し身が凍るのを防ぐこともできる。

(ライター 土井 ゆう子)

[NIKKEIプラス1 2021年9月11日付]