マスク着けてても通る声が出るコツ 専門家に聞いた
新型コロナウイルス禍によるマスク着用で、話す相手に自分の言葉がうまく伝わらず、聞き返された経験を持つ人は多いはず。記者は何度も経験している。マスク越しでも「通る声」を出すには、どうすればいいのか。
専門家にコツを聞こうと、ビジネスボイストレーナーの秋竹朋子さんを訪ねた。
マスクを着けて普通に話すと、声がくぐもり、聞こえにくくなりがち。「まずは口を大きく開けて発声することから始めましょう」と秋竹さんは勧める。「マスクを着けたときは、口の開け方を1.5倍にすることを心がけると良い」という。
発音を明瞭にするのに大事なのは腹式呼吸。鼻から息を吸い込み、おなかをふくらませ、息を吐き出して、おなかをへこます呼吸の仕方だ。「腹式呼吸で強く息を出すと、通る声が出やすくなる」と秋竹さん。
「試してみましょう」。いくつかの5音の言葉を、記者は普段の発声と腹式呼吸の発声で話し、どれだけ違うかを聞き比べてみた。腹式では語頭で息を吐くよう意識する。
届けたい、おもしろい、会いたくて……。スマホで録音した両者を聞くと、明らかに腹式での発声の方が明瞭で聞き取りやすい。この発声はマスク越しだけでなく、「アクリルパネルを挟んでの会話でも有効」(秋竹さん)だ。
マスクで音が遮られるならば、大きな声で話せばいいのではと単純に考えていた。だが、これは誤り。「腹式呼吸をしないで大きな声で話すと音が不明瞭になり、かえって聞きづらくなる」と秋竹さんは注意を促す。
通る声を維持するためには普段のトレーニングが必要だ。秋竹さんが勧めるのは、母音を大きく口を開けて発声するトレーニングだ。にっこり笑って「い」、縦に口を開けて「え」、さらに縦へ開けて「あ」、すぼめて「お」、唇を前に突き出し「う」。これを10回、繰り返す。
息に瞬発力がないと声は通りにくくなる。瞬間的に息を強く吐き出すトレーニングも効果的だ。やり方は簡単。「シュッ、シュッ、シュッと強く息を吐くだけ。こまめに続けると、だんだんと声が通るようになる」(秋竹さん)という。
滑舌のトレーニングも大事だ。秋竹さんによると、マスクを着けて口元が隠れると、口を動かす表情筋を使う機会が減り、舌の筋肉も使わなくなる。言われてみれば、そうだ。筋肉は使わないと衰える。舌も同じで、これにより滑舌は悪くなる。
改善法として効果が見込めるのが「舌の筋トレ」だ。舌を伸ばして、口から上下左右に出す、舌を歯と唇の間に入れて歯茎をなぞるといったトレーニングをすることで、滑舌は良くなる。
こうした通る声にするための工夫は「マスク越しの対面での会話のほか、オンラインでの会話でも効果を発揮する」(秋竹さん)。ただ、オンラインの会話では、端末の内蔵マイクが発言者の声をうまく拾えないこともある。その際は機器を利用する手もある。
代表的なのが、相手の声を聞くためのヘッドホンやイヤホンと、自分の声を相手に届けるためのマイクが一つになったヘッドセット。周りの雑音を相手に聞こえにくくできたり、自分の声を鮮明に伝えたりできる利点がある。
これだけ教えてもらえば「これからはマスク越しで話しても、聞き返されることはなくなるな」と思っていると、「声の出し方とともに、注意すべきポイントがある」と秋竹さん。それはリアクションだ。
通常、会話をする際は、相手に自分の言葉が届くように表情で示したり、身ぶりを交えたりする。マスク着用で相手が聞こえにくそうにしていると感じたときは、表情や身ぶりなどのリアクションを普段の1.5倍にする。「やり過ぎぐらいがちょうどいい」(秋竹さん)
新型コロナウイルスのインド型(デルタ型)の拡大で、感染者は増え続けている。マスクなしで自由に会話ができるようになるには時間がかかりそうだ。マスク越しでも通る声を、早く出せるようにしたい。
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8割がコロナ下の会話に難
ユニバーサル・サウンドデザイン聴脳科学総合研究所が20~70代の男女1000人を対象に実施した調査によると、コロナ下でマスク着用やアクリルパネル越しで相手の声が聞きづらいと感じた経験がある人は83.6%に上った。相手の声が聞こえなかったことで「聞こえたふり」をした経験がある人も86.6%だった。
マスク着用・アクリルパネル越しでコミュニケーションをする上でストレスを感じることでは、「相手の声が聞き取れない」(30.1%)が最も多かった。以下、「相手と会話のテンポが合わない」(12.7%)、「相手の反応が分かりづらい」(12.2%)などの声が上がった。
(大橋正也)
[NIKKEIプラス1 2021年8月21日付]
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